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18 チート

目を開けると、そこは真っ暗闇だった。


「おかしい……。前回襲われてからまだ半年と少し、話数でいうなら十話も開いていないのにまた誘拐……?今度はもう助けに来る白馬の王子枠もいないだろうし、話歪みすぎじゃない……?」


ぶつぶつ言いながら周りを見渡す。床も壁も板。掃除が行き届いていないのか、埃っぽい。どこからかぎしぎし言う音が聞こえる。私の近くに、手を後ろに縛られたクララが転がっていた。


「クララ、大丈夫?」

「……はっ!えーと、あれ?あ、ああ、ごめんなさい!」

「ううん、クララのせいじゃないよ」

「私がっ、私が護衛の人に知らせないで市場に行ったから。もう一人でも大丈夫だと思ってたのに、クリスティナちゃんまで捕まっちゃったぁ」

「十割クララのせいじゃん‼︎」


信じらんないこの子。そういえば私達、偽名とか何も使わずにそのままで呼び合ってたよね。勧められた商品を全部買っちゃうくらい気前のいい女の子二人組、狙われるのが当然だ。

私も油断してたかな。誘拐イベントはもう終わったものと思ってた。多分これは、私がついて来なければ発生しなかったんだろう。いくらクララだって、一人で市場は心細いはず。

また私が原因じゃん……。

エマって言ったっけ。多分私達の手が綺麗過ぎたんだよね。上手くやったものだ。


「クリスティナちゃん?今声が聞こえました!クリスティナちゃん、どこにいるんですか?」

「クララの隣。捕まっちゃったね」

「ごめんなさい!どうしよう……?」


とりあえず、今回は救援を期待する事は出来ない。前回がそのパターンだったからね。テンプレの悪役令嬢物には、二回目の誘拐なんて書かれてない。私の管轄外の出来事だ。図書館での遭難は秘密の部屋を見つけるイベントって解釈が出来たけど、もしそうならこれは新キャラ登場のイベント?でも助けに来るのは王子がもうやったし、前回よりロクでもない目に遭うのは目に見えてる。


とりあえず、出口を探す。全方位が壁だったから、残るは天井?上を見ると、何かで覆われた格子があった。多分あそこから落とされたんだろう。


「クララ、上の方に格子があるよね?多分あそこから入れられたと思うんだけど、頑張れば出られるかな?」

「クリスティナちゃん、暗くて何も見えないです。何が見えてるんですか?こんな事ならヒール以外の魔法も学んでおけば良かった……。」


珍しくクララが役に立たない。さっきからずっと何も見えないって言ってるけど、目に怪我でもしてるのかな?だとしたらちょっとやばい。

王子ならこの状況、氷の矢で格子吹っ飛ばして脱出出来るんだよね。今になって王子の魔法のありがたみが分かってくる。そりゃ十二歳で初陣が認められたわけだよ。未だに彼が私を好いてくれる理由は不明だけど。私は出会った経緯すら思い出せないのだ。

とりあえず、クララの縛られた手をほどく。そこまできつく縛られてなかったのが幸い。噛んだり指で引っ張ったり、どたばたしながら縄と闘う。ひょっとして私達、商品だから傷つけないとかそういう扱い?

確かにそうか。山賊も、港町から出荷するって言ってたよね。


「はい、ほどけたよ。私のをお願いできる?」

「ありがとうございます。クリスティナちゃん、ひょっとして何か魔法を使っているんですか?」

「え?」

「私、真っ暗闇で何にも見えないんです。でもクリスティナちゃん、すごく縄をほどく手際が良くって、この暗さで物が見えるんですか?」


クララは手をさすりながら体を起こして、周りを見ている様子。


「クララ?目に何かされたの?大丈夫?」


顔を覗き込みながら私が聞くと、


「その光……。クリスティナちゃんの目ですか?クリスティナちゃん、目がぼんやり青白く光ってます。私にも見えます!どんな魔法を使ったんですか?」


確かに今、私とクララの目はあってるけど。私の目が光るって、どういうこと?

私は、小さい頃アンさんに言われた事を思い出す。


「お嬢様、暗くなってからは、使用人を呼ぶときは私を呼んでくださいね。他の人は、部屋に入れてはいけません。みんな寝てしまいますから。朝も同じですよ。日の光が出てきたら、私以外の人を呼んでも構いません。絶対に守ってくださいね」


まだ自我がはっきりしていなかった私は、ぼんやりした頭でうんと答えたのを覚えている。寮に入ってからもなんとなくその習慣は続いていたけれど、まさかアンさん、私の目が光る事を知っていた?


普通転生者の目といえば鑑定できるやつなんだけど、まさかの暗視効果。これが異世界チート……。ふふっ。悪くない気分。無自覚にチートを使っていただなんて、まさに転生者じゃない?


で。クララ。私の手を変な方向に捻るのをやめてほしい。本当に見えてないんだね……。


クララに手をいじられながら、私は考える。考える事はもちろん私のチート。これは、何をどう成長させたら無双したり生産したり出来るようになるの?

暗いところがよく見えるだなんて、もはや野生動物と大差無いんじゃないかって思ってしまう。


前世で何をしたらこんなチートになるのだろう。暗いところばっかり見ていたわけではない。愚痴を匿名で投稿できるアプリをやってたのは事実だけど、だとしても私それ始めたの多分死んだ年だよ?いつ死んだか、どうやって死んだかは分からないけど、ある程度までしか記憶が無いとなるとその付近で死んだ事くらいは分かる。


このチート、というよりかはむしろ一発芸とかそういえば範囲に属するであろう暗視は、もしかして元々の悪役令嬢の肉体が保持していたもの?悪役令嬢なしてはちょっとしょぼい気がするけれど、有り余る魔力で戦闘がベースの悪役令嬢だったとしたらありえなくも無い気がする。目が暗いところで光るなんて、悪役っぽくてちょっとかっこいい。暗視はおまけみたいなものかもしれない。


という事は、暗い場所でヒロインが悪役令嬢と向き合うシーンがあったって事だよね。ヒロインに見せなければ能力の意味がない。きっと一戦交えるくらいはしただろう。学園で、戦うことができるくらい広くて暗い場所……?何かの鍵になるかあっひゃっひゃっひゃっ。


「クララ、手をくすぐるのをやめっ、はひっ、うーふっ」

「あ、ごめんなさい。これ、手のひらだったんですね」

「あはは、だから、そこやめっ。あはははっ、ひーひー、はひゃうっ。やっ、はーはー、はひひっ、ふふっふー」


縛られて、後ろからくすぐられる。考える事が出来ない。息がっ、息が苦しいっ。

この体ちょっと敏感過ぎない?手のひらだけでこのくすぐられよう。


違うそうじゃない。考えるべきはそこじゃない。



脱出!まず脱出だよ!

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