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17 港町

「あ、クリスティナちゃんクリスティナちゃん、見えてきました!あれが港町です!」

「あー、うんうん、見える見える。大きいね」


嘘。何も見えない。朝暗いところで本を読んでいるのがいけないのか、私の視力はこの世界の平均を大きく下回っているらしい。まだ黒板の字は見えるから別にいいけど。


朝学園を出発した私達の馬車は、途中数度の休憩を挟みつつ、今日泊まる予定の港町に夕方到着した。

早速荷物を宿に置いて、庶民風の服に着替えて市場を観光するとする。履き古した靴まで用意してある。サイズもぴったり。クララ準備良すぎない?絶対楽しみにしてたでしょ。


「クリスティナちゃん、ここの市場は買った魚をその場で食べられるんですよ!刺身にしたり、焼いてくれたりするんです。銅貨は持ちましたか?首飾りは盗まれるといけないので、外してください。店員さんとは私が話しますから、クリスティナちゃんは無理しなくても大丈夫です。食べたいのがあったら言ってくださいね」

「クララ、だいぶ慣れてるんだね」

「はい!毎年来てますから!」


クララが学園より生き生きしている。楽しそうで何よりだ。そして私もわくわくしている。そう。刺身だ。

だいたいの転生者が体験する、生魚ロスは私も同じだった。今日は、マグロだのイカだのをお腹いっぱい食べるのだ。



市場に着くと、すごい人の量だった。地元の漁師、観光客、屋台の店員に何だかわからない人達まで、ありとあらゆる種類の人達が声を張り上げ、砂埃を立てながら歩き回っている。


「クララ、ここ入るの?」

「はい!ちょうどこの時間だと、朝に沖まで出かけた船が戻ってくる頃ですね。新鮮な魚がいっぱいですから、逃さないように見て回りますよ!」

「本当にここ?」

「もちろんです!早く着いてきてください!」


うわぁ。私がクララとの会話で押されているのは初めてではなかろうか。よかろう。私も覚悟を決めよう。人混みに入った事がないわけではないのだ。今世は無いけど。


「あいらっせーぃやせーらー」

「りーだりーだにん、うぁよいさぃさー」

「にーしーべんにーとんざー」


何語?言語チートがあっても分からない。多分いらっしゃいませとかそんな感じなんだろうな。道の両側に所狭しと並んだ屋台や色とりどりの魚を眺めながら進んでいく。


「あっ、タコ!」

「どうしましたか、クリスティナちゃん?タコ食べたいんですか?ちょっと買ってきますね!」


そういうと、クララは屋台に行って、おじさんと何やら交渉を始める。早口でぜんぜん分からない。言語チートさんお願いだから仕事してください。少し経つと、クララはたくさんの魚介を抱えて戻ってきた。焼かれて串に刺さっているものからお頭付きで皿に乗っているものまで、その種類は様々。


「クララ、一体どんな交渉をしたらそうなるの?」

「すごいですよ!クリスティナちゃん!私交渉出来ました!これ全部、半額にしてくれたんです!いつもはお父さんにやってもらってたけど、私も出来ました!初めてです!」

「へえ……。よかったね、クララ。とりあえず食べよっか」


まじかクララ。初めての子供だけの市場に、私を連れ出しやがった。護衛が目立たないように着いてきてるとは言え、やばくないかなこの状況?


二人で近くの箱に座って、魚を並べて食べる。

アジっぽい何かを焼いたものにハギっぽい何かの刺身、生のウニ、串に刺さった焼き魚、何らかの何かの活き造り、銀色の鱗の魚の生っぽい何か、どれもとっても美味しくて、いつもよりたくさん食べられた気がした。で、


「タコは⁉︎」


別の店でタコを買って、(私も近くでうねうねと動く生きたタコを見た。小さくても大迫力だった)また二人で食べる場所を探す。クララは待ちきれなくて脚かじってるけど。私?私もですなんで二人とも座る場所探してるんだろうね。


「クリスティナちゃん、魚介系ぜんぜん平気でしたね。生のやつとか初めてですよね?美味しかったですか?」

「うん、とっても美味しい!やっぱり魚だね!この味を私の心は求めてたの!」

「おお!気に入ってくれましたか!何よりです。クリスティナちゃん好き嫌い多いから、ちょっと心配してましたけど、よかったです」


地味に醤油もあったのが嬉しい。最悪自分で作るイベントかなって思ってたから、見つかって助かった。



二人で歩いていると、後ろから声が聞こえた。


「クリスティナ様?クリスティナ様ですか⁉︎」


なんだろと思って振り向くと、そこには一人の若い女の人がいた。


「クリスティナちゃん、知り合いの方ですか?」

「ううん、私の精密脳みそがあんな知り合いいないと告げている」

「……クリスティナちゃん、お兄様二人、名前とどっちが長男か言ってみてください」

「えっと、トムとあともう一人が誰だっけ」

「ダニエル様とオスカー様です!もう!話だけでも聞いてあげましょう。私達二人とも平民の格好してるのに話しかけられたってことは、多分クリスティナちゃんと面識があるんだと思いますよ」



ああ、いたねダニエル。アンさんに手紙出し忘れちゃったな。まあいっか。クララの家から出したって問題無いのだ。歩くのをやめると、その人は追いついてきた。


「クリスティナ様、お久しぶりです!私です、エマです!」

「誰?」

「えっ……。あの、学園でクリスティナ様の専属メイドをする予定だったエマです!ほら!一緒に山賊に襲われた!」


うーん?半年以上前の事を言われても困る。確かにいた気がしないでもないけど、それがこの人かと言われると、今ひとつ確信を持てない。


「あの後、気絶しているクリスティナ様を運ぶ部隊と私を連行する部隊は別れてしまいました。私はなんとか逃げ出して、今はこの町でレストランの店員をしているんです。ここで立ち話も邪魔になりますから、ぜひお店に来ていただけませんか?座る場所もあります」

「分かりました。苦労したんですね。クリスティナちゃん、この人がもともとクリスティナちゃんの専属メイドになる予定だった人なんですよ。今クリスティナちゃんの所にいるメイドさんは、学園のお手伝いさんですよね?」



「だめだ理解されてないです……。まあいいや、じゃあこの後はそのお店に行ってみましょうか」

「ん、分かった。そろそろ座りたいしね」



エマに連れられて、市場を少し離れて奥まった地区に入る。いつのまにか人通りはほとんど無くなっていた。


「この奥の店なんです」


私達二人が愚かにもその言葉を信じて進むと、後頭部に鈍い痛みがあった。だから私は、エマなんて人知らないって言ったのに。


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