11 魔法
加法混色。混ぜれば混ぜるほど、黒に近づく色の合成法。水晶は光だったけど、紙と血はむしろインクに仕組みが近かったので、つまりそういうことらしい。
「というわけで、エクバートさんの魔力は国内最大級、使える属性は詳しいことは後で精密に調べますがおそらく基本四属性は全て、それに他の属性もあると思います……!素晴らしい!凄い事です!私がこんな子に教えられるなんて夢みたい!」
「四つ全部って、エクバート様すごいじゃないですか!それに魔力も宮廷魔道士に引けを取らないくらいありますよ。将来安泰ですね!」
はっはっは。タネが分かれば何のことはない。多分水晶で測ったら白い光が出ていた筈だ。とりあえず悪魔憑き疑惑が薄まって本当に良かった。ここで暗黒魔法とか言われてたら立ち直れなかった。
そして……!ついに!私のチートが発揮された!めっちゃ嬉しい。さすが父親宰相。聞けば、この数値は百年に一人くらいの割合なのだとか。多分父親関係ないなこれ。私は天才だったのだ。なんてったって転生者だからね、転生者。そろそろチートの一つもないとおかしいと思ってたんだ。どうしよう、オリジナル魔法とか考えちゃおっかな?私魔法のイメージは回数付きの杖振ったら魔法弾が出るあれだけど、属性とかいってるくらいだし多分全然違うよね。ここに来て学園に通う意味を見つけた。一つ気をつけるとしたら、魔法で調子に乗りすぎて戦闘を主軸にしないことぐらいかな。あんな殺し合いの場面、攫われるのも見るのも二度としたくない。
「そのため、この世の魔力は種類によって割合が違ってくるのです。中でも媒介となるものが多く、使える人も多い水、炎、風、土を基本四属性と言って……」
そんなわけで記念すべき初授業。場所は少し移動して空き教室。クララも、私の世話係になった関係で習った場所をもう一度。
気になっていた魔力の授業ではあるけれど、先生の声が全く耳に入ってこない。理由はここにくるまでのクララとの会話。
先生は先に空き教室に向かってしまった。準備があるのだとか。残された私とピンク髪は、寮の中を見て回ってからゆっくり空き教室に向かうとする。
「痛っ」
階段を降りようとしたら、くじいていた右足がまた痛くなってきた。
「どうされたんですか?足、捻っちゃいましたか?」
「ううん、昨日の怪我。ちょっと痛いだけだから、全然平気」
「痛いなら無理しちゃダメです。どこが痛みますか?」
そう言って彼女は私の前に屈み込むと、手を私の右足にかざして何やらむにゃむにゃ言い始めた。次の瞬間、手が白く光ったと思うと私の足から痛みが消えた。
えーと?
「ねえ、ピンク髪……ピンク髪さん?今のはいったいなんなんでしょうか?」
気のせいかな、痛みが取れただけでなく、前より関節の動きが良くなってる。
「えっ私の名前まだ覚えてくれてなかったですか……?」
「あなた自己紹介の時も名前言わなかったじゃありませんか」
「いえいえ、エクバート様がベッドで毛布にくるまっていたあたりで名乗らせていただき……あっまた涙目!分かった分かりましたから、なんかごめんなさい。はい、何も私は見てませんから、何も無かったのですから、私はまだ名乗っていなかったです。なんか理不尽だけど仕方ないです。私は子爵令嬢のクララ・ワチエと申します。学園に慣れてらっしゃらないエクバート様の補佐に任命されました。よろしくお願いします」
ピンク髪が子爵令嬢か男爵令嬢かなんかに興味は無い。何今の魔法⁉︎魔法だよね⁉︎
私は知っている。ヒロインは大抵癒しの魔法を使う事を。主人公が聖女の恋愛ものも結構読んだから混じってる気がしないでも無いが、それでも癒しの魔法使ったらヒロイン。私の偏見が珍しく自信たっぷりに断定する。
「さっきのは、聖属性魔法っていうんです。結構珍しいもので、私の得意分野です。小さい頃元宮廷魔道士のおばあちゃんに使い方教えてもらった事があって、学園に入る前から使えるんです!エクバート様、怪我をしたら言ってくださいね?」
「クリスティナでいいわ。いいです。お呼びください」
「いきなりどうしたんですか⁉︎えーと、いきなりは難しいので、クリスティナさんでどうでしょう?うん、クリスティナさん!いい感じです。クリスティナさんも私のこと、ピンク髪じゃなくてクララって呼んでください」
「はい、クララさん」
やべー。まじやべー。歩く爆弾かよこいつは。「珍しい属性」「おばあちゃんが宮廷の偉い人」「癒しの魔法」「ピンク髪」「元気」「優しい」どこからどうとってもヒロインじゃないですか。気づかず取り巻き扱いしてたら死んでしまうところだった。何がピンク髪だ、もっと人を呼ぶのにふさわしい呼称はあったろうが。危なかった。あと何年か後に王子に、
「クララのことピンク髪って呼んでたから、うーん、お前は退学で婚約破棄の上修道院行き、魔力を封印して爵位を剥奪、国外追放で生涯塔に幽閉。あと死刑。」
って断罪されるところだった。基本婚約破棄関連は確定事項だと思うから、本当に危なかった。出来る限り機嫌を損ねないように動けば、殺されはしないよね……?どうだろう。まだ心臓がバクバク言ってる。
「大丈夫ですか?まだどこか痛いですか?」
「いいえ問題ありませんクララさん、案内を続けてください」
「つまり、先天的な魔力や適性があったとしても、魔法を使うのにはそれ以上に精神的な技術が重要になってくるのです。そのために私達は、魔法陣や杖、呪文などの補助器具を使うのです」
先生の授業は、私の一ヶ月分の遅れを取り戻すかのようにハイペースで進んでいった。中身を全く覚えてない。
多分、私が悪役令嬢の中になったせいで話がだいぶ歪んでいるのだ。私の引きこもりが無ければヒロインは私の世話係には任命されなかっただろうし、そもそも一ヶ月遅れの入学にはならなかっただろう。そしてこの世界がどんな乙女ゲーだったか。だんだん想像がついてきた。さっきヒロインは、自分の魔法を「聖属性魔法」と言った。本人は「癒しの魔法」とか、「慈愛の奇跡」とかそういう言い方はしてない。多分聖属性攻撃ができるのではないだろうか。王子が十二歳で初陣を経験している時点で、この世界の人々は割と戦闘民族である。森に魔物は居なかった。その手の本もほとんど見たことが無い。ホラーだと確かに怪物が出てくることはあるけれど、前世と中身はほとんど変わらない。全部中世みたいな世界観っていうのがシュールなことくらい。
聖属性魔法が特効の魔物がおらず、割と戦闘思考な世界。では誰に撃つ為の聖属性か。いるじゃないか、黒髪黒目で悪魔憑きの悪役令嬢が。前世との共通点は黒髪黒目だけで、顔つきは前世とほとんど似ていない。そういうことか。多分悪役令嬢は元々悪魔憑きで黒髪黒目だったのだ。ヒロインからしてみれば聖属性魔法の的みたいなものだ。
ヒロイン対悪役令嬢の戦闘系乙女ゲー。おそらくこれが、私の生まれた世界の正体だ。