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その猫の秘密  作者: onyx
22/23

余燼2

厚木基地 特機団本部


 忙しく離着陸を繰り返しては人員と車両を吐き出して去っていくC-2輸送機。それを尻目に滑走路の脇で羽を休める3機のオスプレイには整備の人間が張り付いていた。このオスプレイは大気成分の収集装置を搭載した改造機で、ロケット弾攻撃を実施した編隊に紛れて巨大生物の頭上を飛んでいた機体だった。

 既に収集された現場の大気は基地内の化学実験棟に持ち込まれ、昨夜からそこで成分の分析が行われていた。一足先に戻っていた十川団長以下の幕僚陣も一堂に会している。


「お待ちしていました。それでは分析結果の方をお伝えします」


 10人程度しか入れない小会議室を迷彩服が埋め尽くす。そこに1人だけ上から白衣を纏った分析官が居た。否応にでも目を引く光景だ。

 その分析官は自身の後ろにあるホワイトボードに黒いマジックペンで大気中に含まれていた成分を左詰めで1つずつ書き始めた。全てを箇条書きで記し、横にはどの程度の割合を占めているかも書き込んでいる。全てが終わると十川たちの方へ振り向いて口を開いた。


「えー、ご覧のように、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素、ネオン、ヘリウム、クリプトン、キセノン、等々の以上になります。割合は若干の増減がありますので何とも言えません」


「……そいつは確か空気中の主な成分だったな?」


 十川の発言で他の幕僚たちも眉間にシワを寄せた。何かしらの手掛かりになりそうな物を期待していただけに、残念な結果となったらしい。


「はい。強いて言えばアルゴンと二酸化炭素の量が通常よりも多いぐらいですね。ハイドラの爆発直後の中で採集されましたので不純物も多く、これで詳細な解析はこの辺が限界かと」


「待ってくれ。つまり殆どがただの空気だって事か?」


「そうなります。これと言って怪しい物は見つけられませんでした」


「1個中隊の仲間を喪った結果がこれか」


「顔向け出来んな。これじゃ我々は能無しだ」


「あんなに何度も違う姿になられたらどう対応すればいいのやら」


「落ち着け、悔やんでも始まらん。最初の実戦なんだ。素直に受け入れるしかない」


 このまま愚痴か弱音を吐き出す集まりと化しそうになった事で十川は後ろを振り向き、幕僚たちをいなめた。しかし、目の前で姿形を変えるなんてのはこれまで行って来た数多くのシミュレーションですら思い付かなかった事だ。

 そもそもの発想として頭の中に無かったのは事実だが、もっとよく考えれば浮かんで来そうなものではある。十川を始め、幕僚たちも今更になってそんな思いになっていた。


「失礼します。間もなく総理の会見が始まりますが」


 副団長が部屋に入って来た。全員に予定していた会見が始まる事を告げる。


「分かった、今行く。解析は引き続き頼むぞ。それとこのデータとサンプルを大宮に送れ。上に話しを通して科警研や消防庁、大学なんかにも送る手筈を整えるから準備をしておいて欲しい」


「分かりました」


 十川一同は団長室に集合。壁掛けテレビの電源を入れてチャンネルを回し、適当に画の写りがいい局で止めた。場所は首相官邸のようだ。記者会見の時にいつも使っている所だった。

 何か重大な決意を秘めたらしい滝沢総理。普段であれば総理1人だが隣には青木官房長官も居た。サイドスーパーの文言は「巨大生物出現に伴う政府公式発表 首相官邸より」となっている。既に記者の席は報道陣で埋め尽くされていた。


「これより、巨大生物の出現によって生じた被害及び、現在の状況につきまして政府の公式発表を行います。まず確認されております死者ですが民間人は8名。続いて負傷者、民間人で13名。避難中の転倒または殴打によるものです。倒壊家屋。26棟。上陸のあった千葉県いすみ市におけるライフラインですが、警戒区域外におきましては問題なく使用出来る事が確認されております」


 ここまでが青木官房長官による口頭での説明となった。「以上です」と締め括った青木は下がり、違う資料を手にする滝沢とバトンタッチする。滝沢は居並ぶ記者とカメラを一瞥してから話し始めた。


「当該地域におきまして巨大生物と陸海空自衛隊、及び特別機動戦闘団が会敵しました。損害は特別機動戦闘団のみですが車両1個中隊とオスプレイが2機。これらに搭乗していた隊員の皆様は、残念ながら全員が殉職されました」


 殉職の言葉で何人かが挙手したが質疑応答はこの後で行うとのアナウンスで手を引っ込める。滝沢はその時の状況を出来るだけ掻い摘んで説明した。


「巨大生物に対し最も近い距離に居た車両部隊が口から放たれた光弾によって被弾、炎上しました。急いで離れようとしましたが、間に合わなかったようです。損害を抑えようと巨大生物の気を引くため、後方から攻撃ヘリ部隊と共に進出したオスプレイもまた、光弾を受けて墜落。機体の消火は済んでいますが生存者は確認出来ないとの報告が上がっております」


 滝沢から一通りの説明が終わった。ここで質疑応答が始まり、滝沢は時間が許す限り答え続けた。「作戦に問題はなかったのか」「現場でミスがあったのではないか」との声が多く上がる。

 同じような質問の繰り返しを止めるようアナウンスが流れる中、途中で青木が滝沢に耳打ちをする。その後で新たな説明が行われると、記者たちは自然と静かになっていった。


「巨大生物は、4回に渡って姿形を変えました。最初は鯨を連想させる形状でした。攻撃を加えている内に変化し地上を這っていた状態から二足歩行に。続いてゲームや漫画のキャラクターを思わせるドラゴンのような形状。最終的には人間に近い姿になりました」


 グローバルホークが捉えた映像を時系列順に切り抜いた静止画が記者たちの前に映し出される。報道に見せても問題ないと判断された部分だけだ。それを記者たちは食い入るように見つめ、後ろに陣取るカメラはズームして映像を記録する。


「更にもう1体が出現。10年前に横須賀で確認された個体と、恐らく同種と思われます。目的は不明ですが2体は激しい格闘戦を繰り返し、特別機動戦闘団に損害を与えた個体は倒されました。もう1体の方はこの映像のように姿を消しております」


 これを見せるかどうかは内閣官房と防衛省でも意見が別れた。しかし、見せない事で無用の混乱を招くのを回避すると発言した竜沢の一声で全員が従った。


 記者会見は予定より1時間も遅れて終了。夜の通常番組は全てが報道特別番組に切り替わり、昼間の映像が繰り返し流され続けた。ネット上でも大きく取り沙汰され、SNSはある事ない事が飛び交う事になる。


 そんな頃、福生の市街地を走る1台の車があった。


19時・横田基地


 百武と佐伯を乗せた車が横田基地の第12ゲートへ近付く。空軍の警備兵がハンドサインで指定したラインまでの前進を指示。そこで停まると身分証の提示をするように言って来た。

 運転手と百武は当然だが佐伯も同様に身分証を出す。ここで警備兵は佐伯の存在が気に食わないらしくどうして呼んでもない人間が居るのか説明を要求。百武が英語で回答すると横にある詰め所まで戻り、何所かに内線を掛け始めた。10分近く待たされた結果、佐伯もこのまま基地内へ入って良い事となる。

 行燈するのも束の間、詰め所の隣に停めてあったハンヴィーがエンジンを掛けた。ルーフには機関銃が備わっているが暗くてよく分からない。ガンナーであろう兵士は銃口をこちらに直接向けないまでも、警戒する目つきでこちらを見ていた。

 そのハンヴィーの助手席から降りて来た兵士が近付いて来る。百武が居る後部座席の窓まで来て敬礼した。


「第374憲兵中隊のスミス=アレン少尉であります。先導しますので我々の後に続いて下さい」


「ありがとうございます、少尉」


 先導するハンヴィーの後を追う。何度か敷地内を曲がると、ある施設の前で停まった。こちらも後ろで停車するとまた少尉がやって来る。


「私はここまでです。皆様の安全は保障しますので、こちらの建物へ入って下さい」


「車は運転手と一緒にここで待たせて貰っても?」


「構いません」


 百武と佐伯が降りると同時にボディチェックが入った。それが終わると運転手の方もボディチェックをされる。当然だが丸腰なので手早く済んだ。2人は運転手を残して建物に入る。すると、今度は礼服を来た軍人が案内に来た。彼に連れられて建物の中を進み、2階に上がって直ぐの部屋に通される。

 そこで待っていたのは明るめなベージュ色のスーツに身を包んだ40代ぐらいの白人だった。頭髪は黒に近いが茶色も混じっているように見受けられる。


「初めまして、Mrヒャクタケ。NSAのカールと申します」


「百武です。お上手ですね、どちらで日本語を?」


「今や日本語はそこまで難しい言語ではありません。局内でも相応の教育がありますので。因みにお隣は?」


「佐伯と申します。現巨大生物災害編纂室長をしています」


「あー、やはりですか。いえ、局内で誰に聞いても責任者はヒャクタケだヒャクタケだと答えられまして。記憶が正しければサエキと言う人間に変わったと少し前にインフォメーションがあった筈なんですが、自信がなくなってしまいまして取りあえず百武氏を呼んだ次第なんです。どうぞお座り下さい」


 促されるまま、部屋のソファーに腰掛けた。セットになっているテーブルの上にはナッツとチーズ、ジャーキーなどが乗った皿がある。その隣には洋酒の瓶が幾つか置いてあった。見た事がない酒もある。

 カールは備え付けの冷蔵庫から鼻歌交じりに氷と水を取り出し、食器棚からもグラスを3人分取った。

 革靴の音を小気味よく立てながら近付いて、向かいのソファーに諸々を置く。百武も佐伯もカールが何を始めようとしているのかいまいち分かりかねていた。


「今日は非公式の会談ですのでラフに参りましょう。他にご希望のお酒があれば用意します」


「私はそちらのバーボンで構いません」


「……出来ればもっと軽い物があると嬉しいんですが」


「分かりました」


 佐伯がそう言ったのでカールはもう1度冷蔵庫に向かった。青いラベルの張った瓶を取り出すと共に食器棚から栓抜きも出す。歩きながら慣れた手つきでキャップを外した。


「ブルームーンです。お口に合えば」


「ありがとうございます」


「Mr百武、飲み方はどうされますか」


「水割りで」


「お待ち下さい」


 またもやNSA職員と言う肩書には似合わないテクニックが披露される。本職は夜の店ではないかと思うほどの華麗な振る舞いだ。

 2人もここが横田基地ではなく何所かのバーではないかと錯覚しそうになった。

 3人分の酒が行き渡り、非公式の会談が始まる。こんなものが会談であっていいのだろうか。しかし相手がそうのたまう以上はその積もりなんだろう。


「それでは、非公式のお話と参りましょう。因みに私から対処プランの参考などと申し出た件は全てウソです。とある貴重な情報を、ペンタゴンの一部筋から極秘に預かって来ました。私もその当事者の1人ではありますが、お2人にも資料を見て頂き、どう思ったか率直な考えをお聞かせ願いたいのです」


 グラスから咥内に溢れる芳醇な香りを楽しむ間もないまま、百武は飲み下した。佐伯もまた口当たりの軽いビールを1口だけ飲み込んで瓶をテーブルに戻す。

 カールの顔はそこまで深刻な感じではない。しかし、ペンタゴンの一部筋からと言うのは穏やかではない。


 この男は誰の命令でここに居るのか。バックは大統領か。それとも噂にある影の政府か。そもそも、この男は本当にNSAの人間なのか。無限に浮かぶ疑問が2人の脳を支配していく。

カールの喋り方はVSキングギドラのウィルソンをイメージして貰えると分かりやすいかと。

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