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その猫の秘密  作者: onyx
17/23

特機団前へ

 特機団が要請した長距離支援の第2波は、水上艦艇とP-1部隊の合同で、東京湾側から行われた。

 SSM-1改の対地攻撃モードは水上艦艇への配備が進んでいる17式艦対艦誘導弾ことSSM-2にもフィードバックされており、艦対地攻撃時の影響が考慮されたプログラミングによって飛翔する。P-1用に開発された24式空対艦誘導弾も存在するが、対巨大生物有事への備えと通常の侵略事態に対処するため、コストを抑えつつ手早く数を揃えたかった海自は91式空対艦誘導弾へSSM-1改の技術を転用。91式空対艦誘導弾改"ASM-1D"として装備化していた。

 2種類の誘導弾は第1波と同じく、ISN方式で自身を誘導し始めた。P-1部隊は演習でも滅多に行う事のない8発搭載で出撃。4機の編隊で空中から32発を放っている。護衛艦4隻からは3発ずつが撃ち上がり、その数は合計で44発となった。


 第2波のミサイル群は巨大生物の左側面を目指す針路を取っている。ASM-1Dは高空から斜めに突っ込み、SSM-2は地形に沿って飛行中だ。

 現状として準備が整っている長距離支援は、第1波同様の地対地及び水中発射式SSM-1改と、26式による攻撃が第3波として控えている。F-2編隊は銚子沖に集結。ASM-2を搭載し、もし第4波の必要があれば即応可能な状況にあった。このASM-2も他の対艦ミサイル同様、対地攻撃モードが付与されたASM-2Cに改良されている。

 ミサイル以外の支援は特機団隷下の機動特科大隊による19式とHAIMRSが主となる。富士教導団が装備する19式とHAIMRSも急行中ではあるが、到着時刻はまだ何とも言えない状況だ。


 空中を疾走する第2波は巨大生物への距離を縮めながら突入態勢に入りつつあった。現状、巨大生物がミサイル群の接近に気付いているような素振りは見せていない。だが、新しい姿形を得た巨大生物がどんな攻撃手段を手にしたか、まだ未確認の状態である。油断は一切出来ない。

 官邸地下と木更津の特機団本部が見守る中、第2波は予定通り巨大生物の左側面に殺到。連続した爆発と共に巨大生物は咆哮を上げ、衝撃によって位置が幾分か太平洋側に押し込まれた。同時に、左腕と表現して良いのか微妙だが、腕の先から生え分かれる3本の爪も破壊する事に成功。しかし、攻撃に対して具体的なアクションが見られないのが不気味でもあった。

 また粒子化の現象も発生しない事から、特機団は巨大生物本体の耐久性か何かが前の形態より上昇していると推測。直ちに第3波を要請すると共に、次の着弾と連動して主戦力をぶつける事も決定。待機中の機動戦闘車や装輪装甲車、稜線の影でホバリングを続けるWAH-64及びオスプレイ編隊にもその旨が下達される。

 第3波として再び水中より今度は24発。九十九里浜射撃陣地から12発が撃ち上がった。26式はTV画像誘導のため射撃精度が優先された結果、特機団が適時要請次第に発射される分の支援となった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

木更津駐屯地 特別機動戦闘団本部


「第3波着弾まで残り2分」


「各部隊準備よし」


 今度の第3波は頭上から降り注ぐ形を採った。あわよくばこれで仕留め、必要以上の犠牲を出す事なく終わるだろう。最もこの場に臨んだ誰しも、そんな都合の良い事は起きないだろうと考えていたが……


「団長。第7艦隊からトマホークの用意も出来ていると打診がありますが」


 迷惑ではないがそのカードはまだ取って置きたかった。最悪の場合は遠慮なくやって貰うつもりだが、まずは自分たちの力が何所まで通用するかを見極めるためにも、米軍にはもう少し控えていて欲しいのが実情である。

 安保の建前上、連中が我が物顔で動く事もないだろうが、それも時間の問題と言えた。


「いまはまだ待機を頼むと伝えてくれ。ただし、要請と同時に発射が出来る状態を整えてくれると嬉しいと後付けも頼む」


「了解」


「着弾まで1分」


 作戦状況を映し出すモニターに、第3波のミサイル群が無数に点滅している。特に問題もなく北と東から向かって来ている。巨大生物を現す光点との距離は見る見るうちに縮まっていった。


「30秒前」


 十川を筆頭にした特機団幕僚陣の緊張感も高まり出した。もしこれで仕留められないとなると、ある程度の犠牲が出るのを覚悟しなくてはならない。それは実際に巨大生物と対峙する隊員たちも同様だが、攻撃開始と同時にモニターの部隊表示が全て消えてしまった時に正気を保っていられるかは、彼らの誰にも分からなかった。


「10秒前………5秒前、4、3、2、1、今」


 着弾の音も衝撃波も届かないが、何か振動のようなものは感じ取れた気がした。グローバルホークから送られて来るライブ映像の煙が晴れるのを暫し待つ。

 爆炎と黒煙が少しずつ消えていく。その先にあったのは、全身の至る所から出血している巨大生物の姿だった。


「……目標健在。しかし第3波自体はそれなりのダメージになった模様」


 十川は無線機の回線を開いて、全ての攻撃部隊に下命した。


「全部隊は直ちに攻撃前進、頭部及び出血部位を集中的に狙え」


 布陣していた全部隊が一斉に前進を始めた。稜線の影に隠れていた航空部隊も同様である。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「全部隊は直ちに攻撃前進、頭部及び出血部位を集中的に狙え」


 十川の命令によって攻撃の先陣を切ったのは航空部隊だった。WAH-64とオスプレイの編隊が巨大生物に殺到。まずロケット弾による一斉攻撃が行われた。


「ユニコーンリーダーより全機、後先は考えるな。全弾を叩き込むぞ」


「こちらコンドルリーダー、支援は頼んだ。それと誤射は勘弁してくれよ」


 大気収集装置の関係上、オスプレイの部隊が先に接敵する事となる。既に第2波及び第3波による影響を考慮し、巨大生物を形成する何らかの物質が上層に舞い上がっていると仮定しての行動だ。

 ロケット弾を掃射しながら突っ込むオスプレイを、少し低い高度を飛んでいるWAH-64が同様にロケット弾とチェーンガンで支援する。大気収集を終えたオスプレイは一旦帰投して弾薬を再装填しまた出撃する手筈だ。

 WAH-64は一撃を加えて離脱後、距離を取りつつ背後に回って再び同じ攻撃を仕掛けて巨大生物を陽動。地上部隊への攻撃を引き付ける。


「ロケット弾、斉射開始!」


 オスプレイ編隊がロケット弾を全て放った。斉射が終わると高度を上げて巨大生物の頭上を通過。この瞬間に大気収集装置を積んだ機体が空気中の物質を回収。無事に離脱を果たす。


「撃て! 撃て!」


 手筈通りWAH-64がオスプレイの行動を支援。チェーンガンの発射音がロケット弾の着弾にかき消されながらも響き続けた。両編隊共に離脱が完了。飛び去って行くオスプレイを尻目にWAH-64は機首を巨大生物に向けつつ、その背後に回り込む。


「もう1度だ。尻尾の動きに十分注意しろ。危ないと思ったら後退でいい。前に出ようとか左右に行こうなんて考えるな。あれが振り向きざまにデカい爪を振り回すかも知れんぞ」


 半分にまで減ったロケット弾を発射し、チェーンガンも同じく射撃を続行。そろそろ地上部隊も巨大生物に迫り出していた。


「統括より全車、戦術ネットワークのリンクはよろしいか」


 特機団が自前で配備している無人偵察機が上空より戦場の様子を探り、そこから得た情報を基に各車両の動きを運転手や砲手がディスプレイで見る事の出来る新しいシステムを導入していた。GPSを介した情報よりもレスポンスが早く、ほぼリアルタイムに近い上に目視を補完出来るとして特機団の隊員たちには好評である。またその中には、16式が離れた場所に居る20式へミサイルの照準を要請し、目標が射程内であれば狙っている所へ間接的に攻撃を行えるターゲットロケーターシステムも存在した。

 忙しく動き回る部隊とは別に、少し距離を取った部隊がこれを使用して、砲撃とミサイル攻撃を両立した連携も可能となっている。最もこれは瞬間的な火力と機動力が要求されるであろう対巨大生物戦闘での使用が前提となっており、まだ着上陸や対ゲリラ戦における運用は想定されていなかった。


「機戦隊、リンク完了の報告」


「装戦隊も同じく」


「機動特科、問題なし」


「了解。こちら統括。目標は目と各出血部位。機戦01は首元、機戦02も同じく。機戦03と04は胸部出血部位を攻撃開始せよ」


 また特機団独自の指揮系統として、前線において部隊へ直接戦闘指示を出す統括指揮者が存在した。十川は団長として全体の方針や具体的な動きを指示し、統括指揮者が最前線において細かい動きや目標、射撃部位を命令する。


「機戦01、撃ち方始め!」


「機戦04、撃っ!」


 農道を疾走する16式が105mm砲を次々に唸らせる。高速で撃ち出されたAPFSDSは無数の装弾筒を残して飛翔。巨大生物の目と指示された出血部位目掛けて飛び込んで行った。


「機戦05から06は01及び02と同一目標を攻撃。07と08は足元を狙え」


「05了解」


「06、了解」


「こちら01、目標を通り過ぎた。距離を取って前に出つつ再度指示された目標を狙う」


「02、01と同様でよろしいか」


「構わない。それで頼む」


 8輪駆動による高速走行は十分に能力を発揮していた。既に機戦03と04も巨大生物を通り過ぎつつある。


「こちら05、間接照準攻撃の許可を」


「許可する。装戦03及び04、目標指示に備えろ」


 行進間射撃中の機戦05から照射されたレーザーを基に装輪装甲戦闘車が搭載する22式中距離対戦車誘導弾へ照準指令が送られた。ターゲットロケーターシステムを最大限に活用するため新たに開発されたミサイルで、レーザーで他者から指示された間接目標に対しても撃ちっ放し機能を発揮出来る。

 おまけに同一目標に対する同時攻撃も可能となっていた。対巨大生物戦闘における生存性と火力、機動力を追い求め続けた1つの答えがここにあった。


「装戦03、目標を確認。発射する」


「04、目標を確認。発射」


 1両につき1発。合計で8発がランチャーから飛び出した。有線誘導でもなければレーザーで照準し続ける必要もないミサイルは、巨大生物に迫りながら105mm砲を浴びせる機戦05の頭上を通り抜けて続々と着弾。右目からの夥しい出血を確認した。


「全車、火力を右目に集中。このまま頭部の破壊を目指す。装戦各隊も直ちに進出。40mmを浴びせ掛けろ」


 等間隔で進み続ける16式の長い車列は、左折を繰り返して戻りながら105mm砲の攻撃を続行。その後続として20式装輪装甲戦闘車が現れた。

 本作戦において搭載する22式は全て16式からの関節照準攻撃に使用する旨が通達されているため、彼らが自分の判断でミサイルを使う事は出来なかった。しかし、ここまで近付いてはミサイルが信管を作動させられるかも怪しいので、むしろこの状況は好都合と言えた。何より今から40mm機関砲による一斉射撃が開始される。そんな時にミサイルを照準している暇はないだろう。


「装戦06、攻撃開始」


「こちら装戦11、攻撃開始!」


 開発が完了するも半ばお蔵入りになっていた40mmCTAがこれでもかと言わんばかりに轟音を響かせた。数発に1発の割合で混ぜ込んである曳光弾が、何もない空間に40mm弾が飛び交っている事を知らしめている。

 右目にどちらかの弾丸が着弾する度、巨大生物は上半身を大きく動かす反応を見せていた。間違いなく攻撃は効いている。それが特機団の隊員たちにとって心の支えだった。全世界のどんな軍隊も経験した事のない戦闘において、自分たちの攻撃が未知に敵に通用している。これ以上にない何かを全員が感じていた。


「地上部隊が1度引き払った段階で特科の攻撃を挟む。航空部隊もそろそろ距離を取れ」


「グリフォン了解」


「こちらコンドル、到着まで10分を予想。また稜線の影に居た方がいいか?」


「それで頼む。位置はもう少し南西に下げた場所を指示する。別命あるまで待機してくれ」


「了解」


 19式とHIMARSがそれぞれの砲口を巨大生物に向けた。予定では19式が足元。HIMARSは頭上から降り注ぐ形を採る事になっていた。


「統括より機動特科陣地、準備してくれ」


 間もなく20式の車列も折り返しを始める所だ。危害範囲から出ると同時に19式とHIMARSが攻撃を開始する。あれの火力なら、もしかすると次で仕留められるかもしれない。そんな淡い期待を誰もが抱いていた。

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