#9 射止め勝負に反対を
「バカゴハラのせいで失敗したじゃないの! どうしてくれんのよ!」
「衣織ちゃんも瀬奈ちゃんも今日さよならするわけじゃないって〜。まだ何回でもアタックできるってば」
「タイミングよければ絶対成功してたぁー! バカゴハラー!」
泣きわめく衣織。笑顔で固まってるけど超焦ってそうな香音。
そして何もできない俺――!
じゃあ、言いたいことは終わったようなのでさよなら――なんてこと、できるわけもなく。俺のせいでごめん――と言うのも違う気がする。
結局進むも退くもできない状況で惨事を眺めるしかなかった。
「ほ、ほら、瀬奈ちゃんも別に衣織ちゃんが嫌いってわけじゃないんだし! まだ高校生活始まって1ヶ月くらいだし! 全然可能性あるって! ね、瀬奈ちゃん!」
振るな、話をッ――!
しかし香音の目からこの返答だけは空気読めよオーラをひしひしと感じる。素直に従うしか道はなさそうだった。
「ま、まぁ……。お互い知り合って長くないから断ったけど、これから先はわからないし――」
「でっしょ〜! ほら、衣織ちゃん、諦めちゃダメだって」
「でも俺、男として見てくれないなら――」
「とにかく今日のことは全員が忘れる方向でいいよね! ね、瀬奈ちゃん!」
香音が瀬奈の言葉を遮った。
それと同時に、まだ黙って空気合わせてろオーラの両目で睨みつけてくる。
香音、お前どういう立場なんだ……?
「瀬奈ちゃん! 私、実は女の子にすっごいモテるんだよ!? ハーレムつくれるくらい!」
「お、おう……。衣織はすごいな」
「なんで瀬奈ちゃんにはモテないの!」
「俺は男だっての! いや、男として見ても衣織はいいと思うけどさ……。ちょっと女の子扱いがな――」
「だって瀬奈ちゃんは女の子なんだもん! むしろその女の子感がすっごい好きなんだもん!」
嬉しくねぇぇえ!
告白されるなんて人生初の快挙なのに、全ッ然嬉しくねぇ――!
「そ、そういえば、香音はなんだったんだよ。なんか全部知ってる感じだったじゃん」
「知ってるっていうか衣織ちゃんの恋する乙女感がわかりやすすぎてバレバレだったから。なんかまどろっこしくて、ちょっかいかけてやろうかな〜って」
「まさか香音も俺のこと――」
「ないない! イジりがいはあるけどね〜、にゃはは」
それはないか。さすがに自惚れすぎていた。
それにしても、まさか自分が男としてでなく女の子すぎて惚れられるとは……。個人的な感想でいいなら大変不名誉だ。
「衣織、けっこうみんなと仲いいのに香音のことだけ籠原って呼ぶよな」
「だって私、バカゴハラのこと嫌いだもん。『自分、かわいいですぅ』って気取ってるところとか」
「にゃは、そんなことないのに。それは衣織ちゃんが実はウチのことをかわいいと思ってくれてることの裏返し――」
「違うって! しかも、これ見よがしに瀬奈ちゃんに近づくとことか! あんたも本当は好きなんでしょうが!」
「えぇ〜? こんなに弱っちいのはねぇ。もっとイケメンがいいかなぁ」
グハッ――!
俺は今、心の中で吐血している。涙も滝のように流れている。
やはり顔か……。世知辛い世の中だ……。
「もうっ! 明日からどんな顔して学校行けって言うのよ!」
「フツーでいいんじゃない? 瀬奈ちゃんなら何も気にしてなさそうだし」
「うるさい! あんたのせいなんだから!」
「そうやってずっと落ち込んでぐずぐずしてたら、ウチが奪っちゃうよ? にゃは」
香音が瀬奈の右腕を抱きしめる。
右腕から伝わる感触――。今日は柔らかいものに縁がある日なのかもしれない。
「ふざけないで! フラれたとしても、あんただけには負けたくないから!」
「はっは〜。バスケみたいに勝てると思ったら大間違いだけどね〜」
「上等よ! どっちが瀬奈ちゃんを堕とせるか――」
「勝負しようって? にゃはは!」
なんか了承なしに話が進んでいるのだが。
これはモテているということでいいのか? それともただ遊ばれているだけなのか……?
「にゃは〜。たくさんのイケメンがヒロインを奪い合うドラマとかあったけど、これは瀬奈ちゃんがヒロインだね」
「誰がヒロインだ」
「私、絶対瀬奈ちゃんの王子様になるから! だから、今後も覚悟しててよね!」
「王子って……。複雑な気持ちなんですが」
とりあえず売り言葉に買い言葉。俺を取り合うラブコメがここに始まった。
もちろん、誰からの好意も嬉しいが『男として』という前提がないと俺は堕ちるつもりはない。
衣織VS香音ではなく、自分からすれば衣織&香音VS瀬奈だ。男のプライドを賭け、なにがなんでも負けるわけにはいかない。
俺は絶対に堕ちないからな――!