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#4 自分は男だから

「姉ちゃん、早く、治す薬……!」

「うわ、なにその砂漠で水を求める人みたいな顔」

「無理だったんだよ! 最初から女の子ですが何か作戦が!」


 それどころかいつも以上にイジられた。

 衣織は言わずもがな、顎クイの件も含めて本当に許せん。

 あとお弁当の時の『あ~ん狂』が許せない、あの丸眼鏡の……! 女体化する前も度々あ~んさせろと懇願してたし、マスクを着けてた時期なんて「なんでマスクしてんすか」「男装してる女子みたいっすね」とか笑いやがったアイツ!

 あとスカートめくろうとした金髪ギャル子とか……! そういえば委員長もこっそり「いつもよりかわいいですよ」って言ってたな。それはフォローになってないし逆に傷つくから!

 もうクラスの女子全員が俺の隠れイジリストだ! 男は相変わらず冷やかしか無視か妬みだけ! 助けはなし!


 こんな3年間でいいのか! 俺は絶対にイヤだ!


「あ、瀬奈。あんたが必死すぎてかわいそうだったから女体化のウイルスについて調べてみたよ」

「マジ!? どうやって!?」


 不幸中の幸い。

 さっきまでの悔しさはどこへやら。瀬奈はケロッとしていた。


「あたしを一番信頼してくれてる先生――教授のほうがかっこいいか。その人に連絡して、どうにかなりませんかーって」

「それで!」

「瀬奈、あんたマスクしてたよね? それなのにあんただけ感染してる……」


 研究中に感染? マスクが通用しないほどの感染力?

 しかし現状からはそんな気がしないという。


 そしてその教授さんが最終的に睨んだのは――。



「瀬奈。あんた、最近ケガした?」

「ケガ?」

「誰も感染してないのに、むしろマスクしてたあんただけが感染してる。じゃあ空気感染じゃないってこと。だとしたら、例えば食べ物と一緒にウイルスを口に入れたか、体の傷から体内に入ったか……」

「あぁ! 試験管の破片だ! 俺がそれを踏んで、血が出て……。クソ、クソッ!」

「人が女体化したら大ニュースになるだろうから、きっと報道が目につくはずなんだよね。だけどそれも見られない……。もしかしたら空気感染力は全くなくて、偶然瀬奈にだけ傷口から入っちゃったんじゃないかって教授が」


 試験管を叩きつけた時、瀬奈は破片で足の裏を負傷していた。そこからウイルスが入り込んで感染。

 おまけに、他の感染者が観測されないから空気感染力の強さが疑われる。とすれば、全人類女体化計画どころか、瀬奈は自分だけが無意味に女体化してしまったことになる。


「それで!? ちゃんと治るよね!?」


 瀬奈は姉にすがりついた。

 半べそかきながら同情させるように。


「安心しな、教授が薬つくるって言ってたよ。ノーベル賞狙うとかなんとか」

「ホント……!? よかったぁ……」


 とりあえず安心だ。もとの姿に戻ってしまえば、この話はチャラになる。

 男の姿に戻れば、一線を越えてしまったイジりもなくなるはず。

 衣織をはじめとする全女性陣のテンションを下げられるに違いない。


「薬はいつできるの? 明日? 来週?」

「はぁ? そんな早くできるわけないでしょ」

「え……。来月とか……?」

「最低でも5年はかかるってさ」


 ごねん。ゴネン。

 ――5年!?


「いやダメダメ! 高校生活終わってるよ! もっと早く――」

「無茶言わないでよ。これでも早いほうなんだから」

「だって、俺、女のまま高校生活を……」


 そんなの嫌だ。

 ずっと女だったら男としての青春なんてできないじゃないか。

 それどころか、衣織という強大な敵のせいでおもちゃにされる未来しか見えない。

 男の時は名前いじりだけで満足していたのに。同性になった今は宣戦布告されるまでになってるし。

「覚悟してよね」とか怖すぎる……!


「俺はこれからどうしたら……」

「何よ、めそめそして。死ぬわけじゃないし、治るんだから」

「そういう問題じゃなくて……。最悪だよ……」

「あ。名前のやつ?」


 姉も瀬奈の名前いじりについては相談を受けていた。


 実は放っておいたほうが面白そうだったので真面目に話を聞かなかったが、なるほど、たしかに女の子扱いが激化しそうな事案だ。

 ただ、弟がクソザコすぎて観察するのをやめられない。面白い。

 今日セーラー服を貸して登校させたのも、なんか面白そうだったからである。


「みんな敵だけど特に衣織だって! 今日顎クイもされちゃって……」


 思い出すだけで顔が熱くなる。

 それなのにアイツは涼しい顔して……!


「どこにでもいるよね、女体が好きな女って。あたしのとこにもいるよ」

「でもそっちは同性じゃん! 俺は男なのに……。異性なのに……」


 こっちがいちいち胸を苦しくさせてるのも知らないでよくも……!

 この純情を面白半分で弄びやがって!


「まぁいいんじゃない? ハーレムみたいで、他の男は羨ましがってるよ」

「ハーレムとかそんなものじゃない! むしろこっちが受けっていうか、なんだろ……」

「女になったのは自業自得なんだから。さっさと心切り替えて楽しんだほうがいいと思うけどね」


 楽しむだって!? これはそんなイチャイチャできるオイシイものじゃない。

 男のプライドをかけた、アイツらVS俺の戦いなんだ。


 衣織に照れるとこを見せたり、女だということを認めたら負けだ。

 男として青春するため、絶対に屈しない。諦めない。

 俺は男だ。男として青春をするんだ!


 こうして、瀬奈の戦いが幕を開けた。

 理想とは真逆の戦いが――。

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