#24 連打しか勝たん!
俺は今、とんでもないものを見せつけられている。見せつけられた、というより見てしまったのほうが正しいかもしれない。
俺は見てしまった。とんでもない二人の争いを――。
ゲームで勝敗を決めようとする二人。そういうわけで必然的にゲーム機の前に立つまたは座る二人の後ろ姿が見える。のだが!
問題はその奥――二人の操作するゲームの画面にカオスは広がっていた。
「とりあえず連打連打! 技出し続けるのが一番強い!」
「うわああああ! これどうやって防御するの! 瀬奈ちゃん、暇してるなら早く教えて!」
テクニック、皆無!
恐らくは公平なゲームにするため、お互いに初見のものを選んだのだろう。その結果、今行われている格闘ゲームに白熱する展開が何ひとつとして見られない。ボタンを連打する者と基本の操作すらおぼつかない者の試合。なんなんだこれは……!
いや、なに、俺自身もこのゲームがうまいわけではない。むしろ二人と同じく初見だ。筐体を見かけることはあっても、俺はこのゲームに手を出していなかった。でも、なぜだか同じ初心者でも二人よりかはうまい気がする!
「あ、倒された! 何もできずに負けたんだけど!」
「やっぱり最強は連打ってね。どのゲームにも使える必勝法なんだから」
「このゲームがいけなかったの! 次はあれで勝負よ、あれなら勝てる!」
ゲームを変えてもう一度……。
「うおりゃぁぁあ! 連打連打連打!」
変えても同じだった――!
しかし、どうやら翠の行動は同じにしても連打作戦が功を奏するかは別だった。
それはやっているゲームのせいだ。今やっているゲームは衣織の提案によって選ばれた音楽ゲーム。衣織は100%意図的じゃないと思うが、このゲームに変更したことで翠の適当な連打作戦が通用しなくなった。
タイミングよくボタンを押す必要があるゲームだから、安易な連打はどれもミス判定になってスコアが伸びない。
対する衣織は、初心者でありながらも格闘ゲームよりかはやることが直感的にわかっているようで連打マンには勝てそうな勢いだ。
「ねぇー! このゲームって連打だけで終わる曲ないの!?」
そういうゲームこそが世に言うクソゲーってものだ。
連打だけで終わったら疲れるだけなんじゃあ……?
というか、いわゆる音ゲーって連打も一定の間隔でやらないとミスになるから、連打だけで終わる曲ってむしろ難しいんじゃないか。
「あ、長押しだけで終わる曲でもいいよ。長ーい一本だけで終わる曲」
翠、君が将来の夢にゲーム関係の仕事を志望してなくて本当によかったよ。
もしそんな夢が叶ったらクソゲーオブザイヤー常連になっていたところだった。
さて、そんなくだらない心配をしていた俺だったが、その心配を知る由もない二人はゲームセンターを満喫していた。昔ながらのもぐらたたきや、エアホッケー、バスケットボールを投げるやつ――あと本当に連打するだけの無料ゲームもあった。連打数を競うだけなのに、むしろその単純さから二人は白熱していた。
あながち、翠のセンスもゲーム業界に通用するのかも。
その連打ゲーを終えたところで、どんな因縁か、衣織3勝、翠3勝という結果になった。
3対3。疑う余地もない引き分けだった。
では次こそ決着を――と俺はそんな展開になるんだろうなあと思っていたら。
「う、腕がぁ……」
「全力を出しすぎたわ……」
二人とも連打のせいで体力を使い切っていた。
いくらなんでもガチすぎる――ってずっとガチなんだった。
しかし、さっきまでガチガチにバチバチ火花を散らしていた二人だったがどういうわけか、お互いに腕の疲労を訴えた後に柔らかく笑いあっていた。
「なかなかやるじゃん、翠ちゃん」
「衣織ちゃんこそ。ちょっとは見直したかも」
「ちょっと休憩でもしましょうか」
「そだね。えへへ……」
ゲーム対決を経て仲良くなってる!?
え、ちょっと待ってくれよ。なにこの疎外感。
何二人で顔見合っちゃって笑ってんの。きれいな百合の花だなあって――それはそうなんだけれども。
「俺は!? ここまでついてきた俺の存在意義は!?」
不肖竹田瀬奈、ずっとぼっ立ちである――!
いや、なにも別に、構ってほしいとか、私のことを取り合ってよとか、そんなことを言うつもりはない。
決してない。断じてない。毛頭ない。
でも、俺争奪戦の戦いじゃなかったの!? どうしちゃったんだよ!
「そんなこと言うけど、せーちゃん何にもやらないから疲れてないだけじゃん」
「瀬奈ちゃん、ちょっとその連打ゲームやってみてくれない? 絶対腕上がらなくなるから」
「くそっ……。さっきまでいがみ合ってたはずなのに急に団結しやがって……」
けれど、別に断る理由もないからしょうがなく連打ゲームをやるのだった。
やろうと思って、ゲーム機の前に立つ。
大きなボタンが左右ひとつずつ。一人が左を、もう一人が右を連打してその数を競うというものだった。つまり、最初から二人での対戦用だった。つまりつまり、一人でやるゲームじゃなかった。
チラリと二人を見て――。
「対戦相手、そんなの知らないけど?」と言いたげに二人は肩をすくめていた。どっちも俺と戦う気はないらしい。
え、じゃあ……どうやってもスコア0の相手と戦えって?
うわ、疎外感すごっ!
泣いちゃうぞ、そんなの。
俺はため息まじりにゲームを始めようと左側のボタンの前に立った。
一般的なゲームセンターにあるゲームたちはお金を入れることで開始となる。が、しかし、このゲームは無料。ゲーム開始はお金を入れるのではなく、連打するべきボタンを一度押せばいいだけだった。
だからボタンを押そうとして――その直前でなぜか画面に『Ready?』の文字。
準備ができているか否かでいえば、できていなかった。
だって俺はボタンを押していなくて、だから誰もいないはずの隣に立っていたその人がゲームを始めるために右側のボタンを押したのだと理解するのに時間がかかったのだ。時間がかかったというか、驚いたというか……。
その人――金髪ギャル子が。
「あんたが負けたら胸揉ませてよ」
そんな公然わいせつな発言とともに、ゲームを始めたのだった。




