#13 ヒロインは悩みやすい
前回までのあらすじ――!
俺はモテたいがゆえに全人類を女性にしてしまおうと企て、アホなことに自分だけが女性になった。治し方もわからず、とにかく続けねばならない日常を続け、気づいたら女好きの女に告られていた。
まずここでひとツッコミ。
なんで――? 女に近づくほどモテるのはなんで――?
告られたと思ったら、本当に自分のことを好きなのかよくわからない小悪魔が参戦し、早く惚れさせたほうが勝ちの恋愛バトルになった。
ここでふたツッコミ。
なんでぇ……? 香音さん、あんた衣織の邪魔したいだけなんじゃないか……?
ぶっちゃけ俺のこと、恋愛対象として見てないよな……?
怖くなって幼馴染に相談したものの、予想外の荒療治。さすがに誠実さが欠けていたので、荒療治を中断すると急にデートのお誘い。しかも幼馴染が割り込んできてどちらかを選べと迫る――。
いや、なんでッッッ!?
お前一番わからないぞ、翠! なんでいきなり参戦してきた!
香音は衣織を邪魔したいだけ説が出てるけど、さては翠、俺のことを邪魔したいんだな! 先に恋人つくられそうで負けたくないから妨害しようって! きっとそうに違いない――ッ!
ということで、これが前回までのあらすじ。前回というか昨日か。
デートのお誘いが衝撃的だったのは間違いないけれど、それより翠の存在がわからない。
まさかそんなことはないと思うけど、デートに割り込んだということは俺のことが好きって可能性が出てくる。
否。幼馴染はそんな関係じゃない。
俺と翠は過去に恋人について語り合ったことがあるが、あれはその拍子に「俺とかどうすか?」なんて言った時だった。「せーちゃんが? ないない、今さらせーちゃんを好きになることはどうなってもないよ」とめちゃくちゃ否定されたのである。俺はショックを感じつつも「ずっと一緒にいるんだし、今さら発展する余地もないか」と納得、その後は翠に冗談でも彼氏候補としての話をしたことはない。
――のに!
うわぁぁぁぁ! わけがわからないぞ!
俺は誰を信じて、誰を選べばいいんだぁぁ!
だが運命のデートまでまだ猶予がある。衣織の提案は土日のどちらかにデートへ行こうというものだった。今日は金曜。デートの日を日曜にしようと言ってしまえばまだ2日猶予が残されているのだ。
だからなんだ……?
その2日で俺には何ができるというんだ……?
「にゃは。瀬奈ちゃん、浮かない顔だねぇ〜」
瀬奈の横から顔を出した香音はいつになく楽しそうだった。
にゃはにゃは言ってるし、考えるまでもなく今日はご機嫌みたいだ。
「お前はデートに参戦しないんだな」
「いきなりなにぃ〜? もしかしてウチとデートしたいって?」
「違うわ。なんか……関係がわからん。衣織は俺のことを好きなくせに男として見てくれないし、翠は今までそんな感じなかったのに突然デートに乱入するし……。香音は衣織の邪魔するくせにデートには来ないし」
「ウチはね、そういう恋のあれこれでムキになる衣織ちゃんだったり、悶々とする瀬奈ちゃんを見るのがすっごい楽しいんだ〜。にゃっは〜!」
人の恋心を弄びやがって――。と、瀬奈はいろいろ思うところがあったものの、自分も恋心を軽く見ていた人間だ。その罰が女体化であり、現状だと考えると香音に対しても強く言えない。
「香音さぁ、俺の相談に乗ってくれよ。俺もうどうしたらいいかわかんないって」
「ありゃ〜。恋って難しいもんね〜、うんうん。でも、どうするべきかを知るためのデートなんだし、瀬奈ちゃんはもっと楽しんだほうがいいと思うけどね」
「そういうもんなのか……」
「非モテには難しかったよね〜。にゃはは!」
瀬奈のメンタルに会心の一撃!
瀬奈は非モテという言葉が重たくのしかかって動けない!
香音は会話の流れ的にこちらの言葉を待っている……。
しかし、瀬奈は非モテという言葉が重たくのしかかって動けない!
香音はまだこちらの言葉を待っている……。
やはり瀬奈は非モテという言葉が重たくのしかかって――。
「ちょっと瀬奈ちゃん? そんなにヘコんだ……?」
「キニシテナイヨ」
「にゃは。まぁどんなに非モテだとしても、好きな人は心の底から大好きだよ。瀬奈ちゃんのことだってね」
「おおう……。あざっす……」
「そうやってすぐキョドるところ、最高に非モテっぽい」
無邪気に言ってくれるが、フォローしてくれた後でもやはり「非モテ」の一言は傷つくからやめてほしい。
そして自分は照れているだけでキョドっているわけではない。ちゃんとこうやって香音と会話できてるんだし、そんなに非モテくさくないはずだ。そう思いたい。
「好きな人は心の底から好き、か――。香音はどうなんだ?」
「ウチが? 誰を?」
「お、俺……とか聞いたら気持ち悪いか」
「瀬奈ちゃんはないよ。心配しないで」
「い、今までないって言ってきた幼馴染がおかしくなったんだけど……。信じていいんだよな?」
「えぇ〜? じゃあ秘密ね。瀬奈ちゃん、良くはないけど悪くないしね。人畜無害でかわいいし。好きになる可能性はあるかも。にゃはは!」
よくないぞ俺。非モテ勘違い野郎とか一番ダメだぞ。
香音は俺を弄んでるだけ。勘違いさせておいて「うわ〜、勝手に勘違いされてもなぁ〜。瀬奈ちゃんキッモ〜」とか言ってくるに違いない。
女体化しようがしまいが、そんなこと関係なく瀬奈には恋愛の経験が浅すぎた。
デートまでの下準備も何もわからないまま、執行猶予は過ぎていく――。