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#1 残念ながら自業自得

 竹田(たけだ)瀬奈(せな)は元・男の女の子だ。


 体は完全に女体化しているが、(かのじょ)は男。

 この姿になってしまったのは、彼が自作した女体化ウイルスのせいである。女になりたい願望があったから女体化してみた――などという話ではない。


 すべての発端は高校生活が始まってからもうすぐで1ヶ月が経過しそうといった時期。

 それはちょうど、竹田 瀬奈の名がクラス中に覚えられきった時期だった。


 なぜならば――!


「おはよー、瀬奈()()()

「俺、男なんだけど……?」


 瀬奈は高校入学後から、クラスの女子にかわいらしい名前をいじられていたのである!

 どいつもこいつも瀬奈ちゃん瀬奈ちゃんと呼ぶものだから、その呼び名が定着していった。ついに今ではクラス内で名前を知られている率は100%だ。

 しかし瀬奈本人としては不名誉である。


 もちろん、名前を覚えられるのはいいことだ。

 中学生から高校生へとステップアップ。新たな環境で新たな友情を育む。多くの人に名前を覚えてもらい、会話を重ねることは思春期における人格形成の要であろう。

 瀬奈も入学前はボッチにならないかと心配の色で染まっていた。だから結果オーライ――ではない!


 パターン1、身体測定の結果を見られた時。


「瀬奈ちゃんかっる!」

「うっそ、私より軽いんですけど」

「てか身長もちっさ! かわい〜!」


 パターン2、なぜか腕相撲をすることになった時。


「瀬奈ちゃん弱すぎない……?」

「握力聞いてもいい?」

「あ。ダメそうじゃない、これ?」


 パターン3、お弁当を食べていたら突如囲まれた時。


「瀬奈ちゃんさぁ、ずっと思ってたけど箱小さいよね」

「にゃはは、ダイエットしてるとか?」

「ウケる。完全に女の子じゃん」


 これである。

 瀬奈の非力さも相まって女子に囲まれオモチャにされる日々。

 男子たちは半分が便乗して冷やかし、もう半分は瀬奈を羨望と憎悪の目で睨んでいる。どちらも救いの手は差し出してくれない。


 毎日女子たちに囲まれて、男より女と話すほうが日常な瀬奈。その現状はハーレムと言えるだろうか。


 否ッ!

 これはただ()()()()()()だけなのだ!

 しかも「瀬奈ちゃん」と全員が女の子扱いをするせいで、誰も異性として見てくれない。


 もちろん本気で瀬奈のことを女だと勘違いしている人はいない。けれど流れというかなんというか……。全員が瀬奈=女であると言うべき空気が出来上がってしまったのだ。

 だからギャルなあの子も、普段は根暗なあの子も、真面目なあの子も、実は竹田 瀬奈を呼ぶ時は「瀬奈ちゃん」なのである。


 それが嫌な瀬奈は名前イジりのたびに女じゃないと主張し続けた。

 だが、そんなものは数の暴力ですぐに掻き消されてしまう。


「瀬奈なんて名前で男なわけないじゃん」


 とか。


「悔しかったら男らしいところ見せなさいな」


 とか。


 もうイヤだ。

 男ってことをわからせたい。異性として見られたい。なんならモテたい。

 そう思った瀬奈は、ある結論に至った。


 俺以外の男を女体化させたら、必然的にモテるのでは――!


 全人類の中で俺だけが男なら絶対にモテる!

 ハーレムは必至。名前イジりも女扱いもなくなるはず。

 なぜなら生物学的に男であるのは自分だけになるのだから!

 選択肢が1つに絞られるのだから!


 俺、天才じゃないか!


 そういうわけで瀬奈は姉の部屋から参考書を拝借。

 瀬奈の姉は大学でウイルスやら感染症について学んでいた。


 モテたい執念で瀬奈がその知識を吸収した結果――。

 できてしまった。男を女体化させるウイルスが。


 もちろん姉の大学が特殊なわけではない。参考書にウイルスの作り方なんて書いてあるわけがない。

 それでもモテたい一心で頑張ったら――なんかできちゃった。


 瀬奈は特別頭がいいほうではない。

 何を隠そうモテたいという執念のみで普段からは考えられないほどの力が発揮されたのである。


「あとはこれを、世に放つだけ……」


 試験管をつまみ、生唾を飲む。

 とはいえ試験管の中にはなんかよくわからない霧状のものが発生しただけ。

 実験という実験はしていなかったため、それが本当に効果のあるものかは不明だった。


「いいや、物は試しよ! 行くぞ、名付けて『Tale of Genji-Neo』!」


 瀬奈は思いっきり試験管を持ち上げ――。


「女の子になーれ!」


 床に叩きつけた。


 高い音とともに試験管は割れ、破片が飛び散る。

 ――と、瀬奈は窓を開けていないことに気がついた。

 外に放たねばならないのに。

 

「まったく、おっちょこちょいだなぁ……。って、いってぇ!」


 窓を開けようと一歩を踏み出したところで、瀬奈は試験管の破片を踏んでしまった。

 足の裏を見ると出血しているではないか。


「いやいや、モテモテライフが待ってるんだ。これは幸せの代償……」


 小さな不幸がなんとも思わないほど、瀬奈は浮かれていた。


 窓を開けて部屋を掃除した後、瀬奈は自分が感染しないようにマスクを着用。

 ここから先、食事や入浴、歯磨きの時以外はマスクは外さないと誓った。

 寝てる時だろうと女子にマスク姿をイジられようと絶対に外さない。


 そうしたマスク生活を数日ほど続けたところで――。

 いよいよ女になった。

 なんとウイルス開発は成功していたのだ。


 そう、女になった。自分が。自分だけが。

 どういうわけか、瀬奈だけが女体化ウイルスに感染したのである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 来ましたね。 待ってましたよ。 もう今後の展開に期待しかしません。 [気になる点] 男のままでもいいので、おっちょこちょいな瀬奈ちゃんの匂い(以下自主規制) [一言] TSはいいゾ~。
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