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Confesess-7 4


 ソムン将軍との話をし終えたユン校長は、すぐさま、次の行動を開始した。スクールの真のオーナーに電話で相談をすることにしたのだ。

 そして、受話器の向こうから、そのオーナーの声がした。

「それで、後始末の方だが、はうまくいったのか」

「はい、適切に処置しました。誰も、あの場所で事件があったとは思わないでしょう」

 ユンはかしこまった声で報告をしていた。

「そうか、それはよかった。それで、あと事件のことを知っているものは?」

「学校関係者はわたしと姚とパク、もう一人が用務員のジョイ、そして、報告をした将軍です。あとは処理部隊ですね」

「彼らは、みんな面識ががある。それなら、安心ということか」

「でも、父さん。将軍が妙なことを言っていたのですが」

 ユンは、ここでそう声を、オーナーは父親だったのだ。

「ソムンが何かを言っていたのか」

「はい。もう一人目撃者がいるとか」

 ユンはそう言うと将軍の話していたことを父親に伝えた。その話を聞いたオーナー、思わず声のトーンはあがっていた。

「では、その補習の少女が見ていたというのか!」

「ただ、そう言っていただけです。わしのカンがそう告げているとかかんとか」

「ほおー、カンか」

「そうです。でも、わたしの見たところ、そんな感じはしませんですけど」

 ユンはそう答えた。それだけ、天美の能力にかかっているのだ。

「そうか、それで、そのあとの話はどうなった?」

「はい、次に学校に登校してきたらシロ、二度と登校してこなかった場合はクロということで、始末をすることになりそうです」

「なるほど、わかった。ではそういうことで今日の報告はこれまでとしよう」

「はい、父さん」

「おまえも元気でな」


 そして、オーナーは通話を終えた。通話を終えたあと、オーナーは何事か考えていたが、再び携帯電話を持つと、その通話ボタンを押した。

 数回の呼び出し音のあと相手が出た。

「先生ですか」

 相手を敬うようなトーンの声だ。四十代くらいか

「そうだが、ウォル君、ちょっと困ったことが起きた」

 オーナーはそう前置きを言うと、ユン校長からの相談について報告した。さすがに話が話、相手ウォルは少し驚いていたが、すぐに次の言葉を、

「それは、ご子息も大変でしたね。しかし、その何というか、あの残虐で名が通ったイネラン氏もつまらないことで、命を落としたものですね」

「イネランは君の紹介とか聞いたが」

「そうですけど、僕は、あくまで取り次ぎをしただけですから、向こうの方には報告をしてきます。向こうも次の指導者が指揮を執っているから問題はないでしょう」

 ウォルの返答はあっさりしたものである。

「それは、よかった。だが目撃者の方はどうするんだ?」

「そんなの本当にいるのですか、老いぼれのたわ事でしょう。ああいう年寄りは、何か一つ変わった意見を言わないとすまないというか」

「君はそう思うのか」

「そんなに気にすることはないと思います。ですが、警察関係の方にアンテナは張っていた方がいいと思いますよ。どうせ、いたずらで扱われると思いますが、もし、そういう通報があったら、補習に出ていた女たちを、きれいさっぱり消さないといけませんからね」

ウォルは場合によっては姚も始末するつもりである。

「そんなことまでするのか」

「いやいや、言葉のあやですよ。それぐらい守らないといけない、という秘密ということは先生だっておわかりでしょう」

「そうだな」

「とにかく、ここは様子を見ましょう。考えるのは次の展開が起きたあとということで」

「わかった、そうしよう」

 オーナーはそう言って謎の男ウォルとの通話を終えた。


 そして、問題の木曜日になった。

 登校前、天美は考えていた。競羅の話していた言葉を、『もし、防犯カメラが仕掛けられていたら?』その言葉には大きな意味があった。

 弱善疏に墜ちた人物は、約半日は天美の身を守るため、たとえカメラに天美が写っていたとしても、そのことは認識されないが、逆に半日以上たったら、能力にかかっていない第三者と同じ、カメラの映像そのままが現実の光景である。そのため、セラスタ時代、このカメラのせいで何度か危ない目にあっていたのだ。

「とにかく、今日から気つけないと」

思わずつぶやいた彼女の眼は厳しかった。

三十分後、彼女はスクールの前にいた。

 玄関前では、パク先生がいつもと同様に、にこやかな顔をして立っていた。

パクは天美の顔を見ても態度は変わらなかった。頭から彼女が現場にいたことを信じていないのか、工作員らしく表情を顔に出さないのか、そのあたりまではわからないが。

天美は注意をされないようにハングルであいさつをすると中に入った。


〈今日は何か見られてる。これは間違いなく、カメラ仕掛けられてる〉

授業中、彼女は何かの視線を感じ取っていた。

実際のところ、彼女は校長室にいる人物にモニター観察されていた。その校長室にいた人物はソムン将軍である。様子を見に来たのだ。

「こやつか、補習に出てきていたという娘は」

ソムンが声を上げ、その声に、

「そうです、将軍。この子のはずです」

 神妙な顔でユンは答えていた。

「そうか、それで、こやつは確かセラスタ出身であったな」

「はい、そうです。パスポートによるとセラスタ人です」

「うむ。やはりセラスタか」

ソムンは遠い目をして答えた。思わず尋ねたユン、

「将軍。セラスタに何か思い出が?」

「そうだな。三十年ほど前か、ニカラグアでの鍛錬のあとぐらいだったか。今、思うと、中々、実があった三ヶ月間だったな」

ソムンは、ここまでは懐かしげな顔をして答えていたが、鋭い目に戻ると声を出した。

「しかし、セラスタとなると厄介だな」

「厄介と申しますと」

「あの国は、妙な国でな、市場は資本主義なのだが大きな会社には、ほとんどと言っていいほど、軍産的なバッグがついていてな。シンジケート、カルテルというか。軍は軍で、また、それらの組織と結びついて巨大な力を得ていたな」

「南米でしたら、どこの国でも似たようなものでしょう」

「そうなのだが、あの国は何かが違う。口ではうまく表せないが、非常に面倒な国なのだ。話によると、大きな組織が滅んだ後、また新しい結社が食い込んでいるとか」

その答える将軍の眼は厳しかった。ユンは、もう少し詳しく尋ねようとしたが、将軍の顔色を見て思いとどまった。ただごとではない何かがあったのだと。そのかわりに、

「そうですね。将軍を手こずらせたのだから相当のことがあったのでしょう。それで、今回の少女のことですが、いかがいたしましょうか?」

 と伺うような口調で尋ねた。

「画像は記録をしたし、今日は普通に帰してもいいだろう」

「えっ、帰すのですか」

「そうだ。まだ明日があるしな」

「では、この女生徒は明日も来るということですか」

「それが普通の考えだろう。おぬし、なぜ今日、こやつが来たと思うのだ?」

「それは、そのー」

 ユンの戸惑いをよそに、ソムンはピシリと言った。

「単位が欲しいからに決まっているだろう」

「では、事件の目撃していないということですか」

「もし、おぬしが殺人を目撃した、こやつの立場だったら、どうするのかな?」

 ソムンは眼をのぞき込んで聞いてきた。

「わたしだったら、二度と顔を出しません、そんな恐ろしいところ」

「それが答えだ。残念だが、わしのカンが外れたと言うことだな。だが、それはそれで、心配の種がなくなったということだ」

「そうですか、よかったです」

「それでも、念を入れないとな、こやつの住所はわかるか」

「今のところはまだ。データに入ってますので、早速、調べてみます」

「そう急ぐことでもない。明日まででいいだろう。だが」

ここで、ソムンが再び命令調になった。

「今から、こやつに尾行をつけてもらいたい」

「尾行をですか」

「そうだ。あてにならない住所より、その方が確実だろう」

「わかりました。直ちに手配をします」


 授業後、天美は学校を出た。一人である。彼女としては、本当は同世代の友人を作りたいのだが、以前の事件が尾を引いて、なかなか、そこまでいかないのだ。

 彼女はいつものように、近道となる歌舞伎町を横切っていた。 夕方、六時過ぎの歌舞伎町。ある意味アナーキーな時間帯である。彼女が走っていると、ガラの悪い男の声がした。

「おい、待てや、姉ちゃん!」

〈うわ! 久しぶりに変な人でてきた。もう、こないと思ったのに〉

思わずそう思った天美。目の前には絵に描いたようなチンピラ三人組がいた。

 リーダー格の男性は首に金のネックレスをつけており、その背後に二人の男性が、

彼女はそのまま無視して通り過ぎていこうとした。ところが、やはり、男たちは、

「聞こえないのか、おめえだよ。おめえ、おめえみたいな年の女が、こんなところを一人で歩くなんて、おじさんたちも困るねえ」

 としつこく絡んできたのだ。本来、このような場所に、中高生の年格好の少女が一人でいるのは、何か裏があるとしか考えられないことなのだが、下っ端のチンピラふぜいでは、そこまで頭が回らないのであろう。

 そして、天美の前にその三人は立ちはだかった。仕方なく、彼女は声を上げた。

「わったしどうする気なの!」

「どうするって、なあ。まあ、ここはなあ」

リーダーが答えながら、仲間たちに目で合図をした。 そのうちの一人が、

「決まってるよね。もう、どうなるかは」

彼は獲物がびくに入った手応えを感じたのか、勝ち誇った笑いだ。

 普段の天美ならここで能力が発動するのだが。彼女はわかっていた。背後に何者かが尾行をしていることを。結局、彼女は様子を見ることにした。

 そんな、彼女の心境を知らず男たちは、獲物が入った喜びからか、

「もう、覚悟を決めた方がいいよ」

「恨むのなら、こんな場所に一人で来た自分を恨むのだな」

と好きなことを言い合っていた。そして、一人が天美の身柄を押さえにかかってきた。

さて、ここは天美の決断のしどころである。理性に負けて能力を使うか、

 もし、使えば、この場から確実に逃げることができるが、後ろで尾行している人たちの目には、その現場を見られてしまう。

 かといって、この場でおとなしくしていれば、服を脱がされるとか乱暴を受けるような、気持ちが悪い目にみすみすあってしまう。おまけに、その恥ずかしい現場もまた、尾行をしている人たちに見られることになるが、

 いっそのこと、男たちが彼女を強引に車に連れ込んで、拉致をするような行動を取ることを期待をしたが、あいにく、そのような車もない。

〈本当に、あの人たち見てなければ、ちから、使えるのに〉

 彼女は唇をかんだ。と同時に、能力を使わずにこの危機を乗り切れる方法を思いついたのだ。そして、その考えに従うように口を開いた。

「おじさんたち大丈夫? もしかしてわったし一人だけで、ここ来てると思ったの?」

彼女はそう言った。その言葉に、彼らは一瞬ぎょっとして目を見合わせたが、すぐに、

「そんなことを言って、この場から逃れようとしても無駄だぜ」

 リーダー格の男はニヤニヤした顔をして答えた。

「別に、本当のこと言ってるだけなのに」

「何が本当のことだよ。出まかせをいいやがって」

「出まかせかどうか、わったしの後ろ、確認すればいいことでしょ」

 天美はそう答えると同時に後ろを振り向いた。そして、背後で尾行をしている男たちに対して人差し指をつきつけたのだ。

天美の思わぬ行動に尾行の男たちの顔が引きつった。そして、その顔をチンピラたちは真正面から見つめることになった。リーダーの顔に怯えが走り、思わず叫んだ。

「おい、まずいぞ、あれはチャイニーズかコリアンだ!」

 リーダーの狼狽に二人の部下も真っ青になった。〈こいつは、この新宿のアジア団の一味だ。俺たちは罠にはまったかもしれない〉彼らは生きた心地がしなかった。

 その青ざめている男たちに天美は勝ち誇ったように声を上げた。

「さあ、どうするの? 今なら見逃してあげるけど、どうする?」

男たちの決心は決まっていた。

「こ、この場は、ひ、引くぜ」

 という言葉のもと、蜘蛛の子を散らすように退散していった。

チンピラたちがいなくなったあと天美は、背後の尾行者たちに向かって声を上げた。

「わざわざ、見守りごくろうさま、わったし、今から地下街で買い物してくつもりだけど、その時間、待っておれる」

 その声が相手に届いたのか、尾行の一味もその場を立ち去っていった。


翌日も天美は登校していた。

彼女が授業を受けている中、校長室では今日も二人の男性が会話をしていた。

ソムン将軍はユン校長の説明を難しい顔をして聞いていた。そして、話を聞き終わると、感心した口調で言った。

「これはまた、えらく度胸がある小娘だな」

「そうですね、わたしも報告を聞いて驚いていたところです。しかし、あの時間に、あんな場所を通るなんて、無謀というか。きっと尾行を気づいていたのでしょうね」

「うーん、そうだな」

「しかし、あんな目立つことを、わざわざしなくても、わたしだったら、こっそり、まきますよ。相手を刺激しないですみますから」

 ユン校長はぶつくさ文句を言っていたが、すぐに、思い出したように次の言葉を、

「それで、彼女の素性のことですが」

「何かわかったか?」

「まずは、入校への書類の申請人、つまり、保護者について調べました。ですが、板橋区には該当する場所は存在しませんでした。つまり、そこには記載された村上正一という人物は存在しなかったということです」

 村上正一というのは、むろん、下上警視正が造りだした架空の人物名だ。

「偽名だったのか」

「ですが、入学金、授業料は半年分きちんと入金してありましたので、最初は確認をしなかったということです。やはり、当校には事情がある方も、ある程度いらっしゃいますし」

「うーん、そうか」

 ソムンは答えながら何かを考えはじめた。そしてユンも言葉を続けた。

「こうなってくると、彼女の住所も信用ができませんね。場所が場所ですから」

「ほおー、どこなんだ?」

「ですから、もっと当てになりません。港区の高級マンションになっていますので」

「高級マンションだと!」

 ソムンは目を見開いた。何か引っかかったのか、

「それも、そんじゃそこらのマンションではありません。調べてみますと、東京では、数えて一、二番目になるような超高級マンションです。デタラメで書いたのでしょう」

「いや、デタラメではないかもしれないな。どうも、そんな感じがする」

「と申しますと」

「確か、住所の確認には在留関係の証明書が必要だったな」

「そうですけど、あんなのは将軍殿もご存じでしょう。一時的に住んでいる場所を記入すればいいのですから、引っ越せば関係がありませんよ。当校の生徒には、いくらでも住居を変えるものだっているのですから」

「一時的でも、そんな場所に住めるのか!」

 ソムンは声を強くした。

「確かにそうなのですけど」

「だから、住所は本物なのだ。そこの住人の可能性が高い」

「となりますと、相手はものすごい金持ちですよ」

「そうだ。南米セラスタのファミリーの一味だ」

「ファミリーですか」

「昨日のあしらい方からみても、そう結論を出してもおかしくないだろう。それにな、やはり、彼女は当スクールで起きた殺人を見ている。ただ黙っているだけだ」

 将軍の呼称が、こやつから彼女に変わっていた。

「それは、またなぜ?」

「彼女自体がダークな世界の人物だからだ。向こうでは、こんなことなんか、珍しくないのだろう。そのことは度胸が物語っている」

「では、どうしますか?」

「見られたからには、そのままにしておくわけにはいかないだろう。向こうには手を出せないから、まずは姚、パクと、その目撃した事務員の男、誰だった?」

「ジョルです」

「ジョルか、その三人は礼金を与えて本国に帰ってもらうことにする。そして・・」

 ソムンはここで言葉を止めた。思わず声を上げたユン。

「そのあと、どうするのですか?」

「わしも、しばらく、ここから身を引かせてもらう」

「えっ、身を引かれるのですか」

 ユンは驚いた顔をして声をあげた。

「そうだ、経験からみて、かなりまずいことになる」

「まずいことと申しますと」

「わからないが、向こうの組織からの脅迫等、考えられることはいくつもある」

「脅迫ですか」

「わしが思うには、少女は家族か後見人に今回のことを報告しているだろう。その結果、カーネスのことがもれたら一大事だ。何かしらの行動はしてくるだろう。わしは、そこで面倒に巻き込まれたくはない」

「そんな、まさか!」

「相手は中南米一、危険な国セラスタだ。その、まさかが起きても不思議ではない国だ」

ソムンはそう言った。天美に対しては完全な誇大妄想なのだが、ことセラスタ国に対しては賢明な判断でもあった。

「わかりました。将軍のお言葉、父にお伝えします」

「そうか、わしとしても、正式に退任のあいさつをしなければならないからな。父上に会うことになるだろう。そのとき、色々と話させてもらおう。しかし、少しめまいがしてきたな。もう年かな、悪いが少し休ませてもらう」

 と言って、ソムンは部屋から去って行った。


 競羅は考えていた。今回、このあとをどうすべきか、そして、

〈今回も極秘の内容だけど、やはり、あいつだけには話しておいた方がいいね。内緒にしておくと、また、この間みたいに、ぎゃあぎゃあ言われるし、こっちとしても、色々と情報をもらわないといけないからね〉

と結論が出たのか電話を取りだすと、その発信ボタンを押した。

「あ、姐さんすね」

 相手の声がした数弥である。冒頭に出てきた真知新聞の記者だ。

「ああ、そうだよ。ちょいと、あんたに話して起きたいことがあってね」

「何でしょうか?」

何も知らない数弥は、のんびりしたような口調で答えた。そして競羅は、今回、天美に起きたことについて説明を始めた。やはり、というか数弥は驚きの声をあげた。

「天ちゃんに。そ、そんなことがあったんすか!」

「ああ、だから、あんたに話を持ちかけたのだよ。やはり、こういうことは相談をしておいた方がいいと思ってね」

「むろんすよ。天ちゃんにとっては大変な出来事だったんすから。それで姐さんは、これからどうする気なんすか?」

「こっちとしては、もう何もすることはないよ。今も説明をしたように、義兄さんの方は、現段階では事件化する気はないからね」

「そうすね、僕もその考えには賛成すね。事件の起きた現場や内容からみても、匿名なら警察は絶対に相手にしないでしょう。それに、ああいうNPO法人すか、そういうところは、警察も捜査が難しいんすよ。政治家が絡んでいることが多いすからね。決定的な証拠もなしに乗り込んで行ったら、かえってガードを固めることになるだけすよ」

「ああ、確かにそう言われればそうだね」

「ええ、それよりも姐さん、天ちゃんの方も、おとなしく引き下がるのでしょうね」

「それがねえ、普通に学校に行き続けるって、言うのだよ」

「えっ、学校を続けるって正気すか!」

「正気も何も、『急に学校に行かなくなったら、怪しまれるから』って言いはるからね」

「かといって認めるんすか。もう、絶対に行かせちゃいけませんよ!」

 数弥の言葉を聞きながら競羅は思っていた。やはり、そこを言い出してきたかと、

「むろん、こっちも止めたけど聞かないからしょうがないだろ」

「だけど、危険なんすよ」

「わかっているよ。殺人の目撃とは関係なしに、あの子を狙っていると言うのだろ」

「ええ、そうすよ。天ちゃんのスキルは、とても魅力的なんすから」

「だから、そのことについては、こっちも補習の話を聞いたときに注意をしたよ。学校側がわざと、あんたを挑発して個人的に呼び出した可能性もあるってね」

「それだけすか」

「それだけって、何か含む言い方だね」

「ええ、生徒はどうなんすか? 生徒たちだって、じゅうぶん怪しいじゃないすか」

「ちょいと待ちなよ。彼らは、あの子が入学する前からいたのだよ」

「だからって油断はできませんよ。だって、そういう学校なんでしょ。中には天ちゃんと同じように、何かの情報を得るために潜入している可能性だってあるじゃないすか。そこの国が天ちゃんのスキルの存在を知って、近づいてくるとは考えないんすか」

「確かに言われてみるとそうなのだけど、そこまではさすが・・」

 競羅に最後まで言わせず、数弥は興奮したような口調で言葉を続けた。

「まさか、さすがにない! って言うのではないでしょうね! 前回の事件のことを覚えていますか。そんなことは言っておれないはずすよ! だいたい、姐さんは国内の情勢には明るいけど、国際的なことはわからないでしょう」

「そういう、あんたはどうなんだよ?」

「僕だって詳しくありませんよ。だからこそ、慎重にといいますか、疑ってかからなければならないんすよ。くどくなるけど、前のこともありましたし」

「わかったよ、そのことも、あの子に伝えておけばいいのだね。けどね、言うことをきくかどうかは、あの子しだいだからね。もう面倒くさいから切るよ」

 と言って競羅は通話を終えた。


 その夜、オーナーはウォルと連絡をしていた。すでに、天美のことをユンから聞き、その対処を考える電話であった。

 そして、相手先のウォルは何とも言えない口調で言った。

「セラスタの噂は色々と聞いていますからね、まあ、色々と」

「そ、そうだな・・」

 オーナーも答えながら深いため息をついた。彼の頭の中では、セラスタという国について、どんな情報が入り、どんな想像をしているのか。そして、ウォルは次の言葉を、

「やはり、このまま、学校を続けるのはまずいかもしれませんね」

「君はそう思うのか」

「わかっていますよね。もうすぐ、大事があることを」

 ここで、ウォルは少し圧力めいた言葉を使った。そして、オーナーも同調するように、

「そうだな、わしも、それを心配しているんだ」

「でしたら、あくまで僕個人の意見ですが、いろいろなことを想定すると、学校を一時、閉じられることを提案します」

「うーん、そういうことになるが」

「間違いなく、それが一番、安全です」

「いつまでだ?」

「それは、もう、大事がかなうときまでです。きっと、上の方も、この話を聞いたら同じような意見になるとは思いますが」

「だが、そうなると、生徒たちに迷惑をかけるだろう」

「どうでしょう。そのセラスタの少女の関係者に乗り込まれて、中でごちゃごちゃやられる方が面倒になると思いますよ」

 実際、天美がそんなことを起こすわけはないのだが、相手はそう想像をしていた。

「そうだな、確かに、そのほうがまずいことになる。では、覚悟を決めるか。やはり、大望の前だ。面倒なことは回避しなければならない」

「ええ、それがよろしいでしょう。上にはそのように報告しておきます。あとは、きちんとやってくるでしょう」

「わかった。そういうことで」

 オーナーはそう言って通話を終えた。

 

 翌週、天美はセンターに行って驚いていた。何と突然、閉校をしていたのだ。

 パク先生の代わりに、警備員らしき屈強な黒人の男が玄関前に立っていた。

 突然の閉校に生徒たちは戸惑っていた。ただ、漠然とした表情をして、新たに備え付けられた、大きな立て看板に張ってある紙を見つめるだけである。

 張り紙は十枚ほどあり、英語、スペイン語、ハングル、中国語、タガログ語、マレー語、ヒンズー語等で、すべて同じ内容が書かれていた。

『事情により、勝手ながら、しばらくの間は閉校させていただきます。なお、その間の授業料は返還をさせていただきますので、希望の方は左記の番号に連絡を願います』

そして、大きく目を引くように、連絡先の電話番号が提示されていた。

天美も難しい顔をしながら、その立て看板をにらみつけていた。


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