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Confesess-7 3

第三章


 カラオケボックス内で、天美から一連の話を聞いた競羅は、何とも言えない顔をしていた。そのあと、目の前のサイダーを見つめながら、大きなため息をついて言った。

「二人の殺し合いか。はあ、またもやというか、あんた妙な事に巻き込まれてしまったね」

「そう、さすがに、こんなことになると思わなかった」

 天美もジュースを飲みながら答えていた。

「ああ、そうだね、まあか、殺し合いとはね。しかし、能力を使うことになるとは!」

「あの場合仕方ないでしょ。口封じされそうになったのだし」

「そうだね。使ってしまったのだからね。今更、言っても仕方がないね。それで、今一度、確認をするけど、奴らは全員、あんたを直接捕まえようとしてきたのだよね」

「そう、いつもというか、強引に捕まえようとして、ちからに、かかっちゃった」

「何にしても、こうやって、無事に出てこれたということは、向こうは、あんたの能力を知らなかったということか」

 競羅の口調が少しゆるんだ。

「ざく姉、そう思う?」

「ああ、少し楽観的な考えかも知れないけど、いくら、あんたに、まずいところを見られたとしても、さすがに、能力のことを知っていたら、もっと他の方法をとってくるよ。慎重に向かってくるというか、絶対に、テンパったように捕まえにくることはないね」

「それだけ、気が動転してた、ということ考えられるけど」

「ない、ない、それは絶対にないよ。こっちの考えている通りの相手だったらね。まあ、勝手な想像だけど、奴らは洗脳というか、はたから補助をする程度の工作員だね」

「スパイっていうことに変わりがないんだ」

「まあ、そうだね。しかし、これで、ある意味ホッとしたというか。それで、死んだ人たちのことを聞くけど、あんたの知っている生徒だったかい」

「どっちも知らない人、でも一人は中南米かな、眼帯してたけど、顔つきがそんな感じだったしスペイン語で叫んでたから。もう一人は頭にターバン巻いてた」

「ターバンか。きっとインド人だね」

「いや、インド人でなかった。あまり、聞いたことない言語だったし」

「そうかい、もう、そんなことはどうでもいいよ。それより、次のことを考えないと、それで、あんた、このあと、どうするつもりだい?」

「どうするって?」

「だから、死体の発見のことについてだよ。どうするかと思って」

「まず、下上さんに連絡しなければいけないでしょ」

「義兄さんにかよ」

「当たり前でしょ。学校内で起きた事件だし」

「そうだね、もとは、義兄さんに頼まれたのが、ことの始まりだったのだね」

 競羅は思い出したように声を上げた。そのあと、彼女は天美に向かって言った。

「つまり、義兄さんも、学校が怪しいところだとわかっていて、あんたを入れたのだよ」

「最初からそんな感じしたけど、やっぱり、そういうことよね」

「ああ、まったく困った方だよ。御雪もそうだけど、あんたのまわりの人たちは、みんな、あんたを利用しようとする連中ばかりだね。それだけ、あんたの能力がすごいというか。まあ、今はそんなことより、義兄さんに確認をしないとね。今、いるかな」

競羅はそう言うと携帯電話を取りだし、その通話ボタンを押した。


通話は、すぐにつながり、相手である下上警視正が出た。

「義兄さんか。今、忙しいかい」

「ちょうど、仕事が終わって帰るところかな」

「それなら、ちょいとの間ぐらい、お話する時間はあるね」

「あるけど、急ぎの要件か」

「急ぎでなければ電話はしないよ」

「それで、要件は何かな?」

「では、はっきり言うよ。ボネッカを妙なところに通わせた覚えはないかい」

 競羅はずばりと切り込み、その言葉に警視正はピーンときた。彼女が何を言いたいかと、

だが、動揺をすることなく普通に答えた。

「妙なところって、外国人相手のセンタースクールのことかな」

「そうだよ。英語で言うと、舌をかみそうになるくらい長ったらしい名前の在日外国人研修施設だよ。そこに、あの子を忍び込ませたのだろ」

「忍ばせるって、大げさだな。日本の法律や生活習慣を学習させるためだよ」

「また、そんなことを言って! こっちは、すべて、わかっているのだよ。義兄さんが、その学校を怪しんでいることをね。だから、あの子を探らせるために入れたのだろ!」

「あれ、そのことについて、事情は聞いてはいなかったかな。通わせた理由は、家内が天美君を学校に行かせなければならないって、うるさく、言っているからと」

「もとは、そうかもしれないけど、あの怪しげな学校を選んだのは義兄さんなのだろ!」

「何か君、えらく興奮をしていないか! ははーん、やはり、私が君を介さずに天美君に接触をしたことについて怒っているのか」

 警視正は今の状況では事情がわからないので、そう、ずれた答えをした。

「どうやら、そのへんの自覚はあるようだね。けどね、今となっては、もう、どうでもいいことなのだよ。そこで大変な出来事があったからね」

「おい、大変な出来事って何だ?」

 警視正の口調が変わった。その変化に競羅は満足していた。心中では、

〈やはり、食いついてきたね〉

と思いながら、そして言った。

「教えてもいいけど、代わりに、義兄さんが何を狙っているのが言ってもらわないとね」

「そんなの立場的には話せないことはわかるよな」

「そうかい、それなら、こっちも素直に教えるわけにはいかないね。とまあ、言いたいところだけど、そうも、いかないようだから教えるよ。複数の殺人だよ」

「複数の殺人だって!」

警視正は思わず大声を上げた。そのあと慎重にまわりを見渡し、誰も話を聞いていないことを確認すると小声になり、

「いったい、どういうことなんだ?」

「そのことについては、あの子から直接、聞いた方がいいよ」

「今、そこに、天美君がいるのか?」

「ああ、いるよ。こっちも、あの子から事情を聞いて驚いているのだよ」

「すまないけど、代わってくれないか」

「わかった、もとより、そのつもりだったからね。聞きたいことを聞けばいいよ」

競羅はそう言って、天美に代わった。

代わるやいなや警視正は天美に状況について尋ねた。そして、天美も競羅に話したことを警視正に伝えた。話を聞いた警視正は電話口で深く息を吐いたあと、つぶやいた。

「スペイン語の眼帯の男とターバンの男、そっちの方は、おそらくアラブ人だな。つまり、その二人の殺し合いか。参ったな。そんなことが起きたとは」

「わったしも驚いた。まさかの出来事だったから、それで、このあと、どうするの?」

「どうするって?」

「上の人に話すか、どうかということだけど」

天美の言葉に警視正は沈黙した。これは、あきらかに妙な反応である、たまらず天美は 心配そうな口調で言った。

「まさか、報告しないつもりとか」

「そうだな。報告しない方がいいだろうな」

「えっ、どうして?」

「その答えの前に、もう一度、競羅君に代わってくれないか」

天美は納得いかなかったが、ここは、素直にその言葉に従うと、

「もう一回、ざく姉だって」

と電話を競羅に返した。競羅は警視正と少しの間、会話をしていたが最後に、

「そうだね。その方が、こっちもいいと思うよ」

と言って通話を終えた。


 通話後、競羅は天美に向かって言った。

「直接には認めなかったけど、やはり、あんたは潜入に使われたようだね」

「もう、そんなことどうでもいいし、それより結局、警察に知らせないことになったの?」

「ああ、そうだよ。あんたのことを思ってね」

「わったしのこと?」

「そうだよ、あんたのためだよ。考えてみな、事件の目撃者として、あんたは警察に根掘り葉掘り聞かれるのだよ。どういう状況だったかとかね。そのあと当然、なぜ、逃げることができたかについてまで聞かれるよ。そこで、能力のことについて話す気なのかい」

「まさか、話すわけないでしょ」

「となると、ほかの言い訳を考えないとね。けどね、相手はベテラン捜査官。いい加減な話は通じないと思うよ。だから、あんたが出るのはまずいという考えで一致をしたんだ」

「だけど、別に、わったしが名乗ることもないでしょ。匿名とか内通とかの形でも」

「一見、いい考えに思えるかも知れないけど、それも、最悪な結果になるのだよ」

競羅はある程度、予期していた質問なのか、答えながら笑みを浮かべていた。

「どうして?」

「どうしてってわからないかな。まあ、今回は学校だから学校で話をたとえるよ。『ある学校で殺人事件が起きた』と、子供から警察に通報が入った。通報を受けた係員は、間違いなく、イタズラではないかと細かく聞いてくるよ。普通ではまともに受けられる話ではないからね、そこで事件について、どう話すつもりなのだい? 『先生と生徒が殺し合いをして、他の先生たちはその死体を隠そうとした』、なんて言っても、まずは納得はしないよ。やはり、イタズラかと思われるのが関の山だね」

「それは、ちょっと」

「ああ、一度通報をしたら、相手を納得させないとね、そうしないと、注意をされるか、どやしつけられるかの、どちらかだね。通報だけで電話を切った場合は無視と」

「確かに最悪な結果」

「最悪というのは、そんな単純な意味ではないよ。どっちにしても警察は動かない。動かないのに、子供の声で学校で殺人があった、という通報についてだけは記録される。そうなると、ちょいと、まずいことになるのだよ。義兄さんは、その通報記録を、学校側の息がかかっている誰かが見る、可能性があるって言っていたね」

「誰かって、警察内部の!」

天美は思わず声を上げた。

「ああ、そういうことで、内通を受けたという形で、義兄さん自身が捜査をするというのも難しいのだよ。今の状況だと、よほど、決定的な目撃者がいないと、今出てきた、学校の息のかかっている幹部に握りつぶされるからね。その結果、義兄さんは、おかしな情報をつかまされた間抜け、にされるだけでなく、せっかく、あんたを、送り込んでまでしている捜査までも相手に筒抜けになると」

「そういうことだったんだ」

「ああ、そういうことだね。それで、これから先のことだけど」

「これから先って?」

「だから、これから、あとの話だよ。向こうが、このあと、どう出てくるかというね。何といっても、あんたに殺人を見られたのだから」

「もしかして、口封じに襲ってくるとか」

「ああ、その可能性だってあるだろ」

「でも、心配することないと思う。あの場の全員、わったしの、ちからにかかったし」

「あんた、前にも言ったけど、能力を過信してはいけないよ。だいたいね、襲ってくる連中を相手にしなければならないこと自体が面倒なのだよ」

「だからもう、そういうことすら心配する必要ないの。わったしを捕まえようとして、ちからにかかった相手は、その襲おうとした理由自体、思い出せないはずだから。今までだって、あとから、面倒になったことなんてなかったでしょ」

 天美にそう言われた競羅は思い出し始めた。今回と同様に、天美が我慢をできずに能力を使って心配をしたことが何度もあったが、その都度、何もなかったことを。そして、

「そうかもしれないけどね、さすがに、今回はどうかな。死体が存在するのだし、あんたに、事件の現場を見られた、という認識ぐらいは、さすがにあるだろ」

「はっきり、確信まで持てないけど、それも、まずないと思う。だいたい、わったしどころか、誰か別の第三者に、死体見られた、ということすら感じてないはずだし」

「では、あんたが現場にいた、という記憶はどうなるのだよ?」

「今回の場合だと、それすら覚えてないはず。心の中に大きな矛盾点、出てくるから」

「でも、出席簿とかに、あんたの出席記録とかついている可能性だってあるよ」

「それは、ついてても不思議じゃないでしょ。補習に出席したのだから」

「あんた、そうなると、やはりまずいよ。学校にいた証拠が残るということだから」

「だけど、死体見つけた部屋と補習した部屋、違うから、関係ないと思うけど」

「そうとは言い切れないよ。あんたが学校にいたことは、向こうにわかってしまったのだから。それであんた、まさかと思うけど、監視カメラとかにまでは写ってないだろうね」

「それは、わったしも気をつけなければならないと思ってる。セラスタでも、そのせいで、何度か危ない目あったことあったし。でも、そんなもの見当たらなかったけど」

「けどね、監視カメラは、ときがたつにつれ高性能で小型化していると、御雪も言っていたからね。場所は工作員の本拠地、どこかに仕掛けてあった可能性は捨てきれないよ」


 競羅がそのように答えていた、まさに、その時間、スクール内の事件が起きた教室では、薄茶の軍服に、派手な勲章を数十個以上付けた人物が厳しい顔をしていた。

やはり学校の関係者で、事件の通報を受けて真っ先にかけつけてきたのだ。

「しかし、ソムン将軍、教室内の出来事でしたから、当たり前と申しますか、誰にも目撃をされませんでしたから、穏便にかたづけることができました」

ユンはかしこまった態度で、ソムンと呼ばれた男に釈明をしていた。弱善疏から抜け切れてないために、ソムン以外の全員は天実の存在を思い出せないのだ。

「ほお、誰にも見られなかったか」

将軍の目が光った。鋭い光である。そのあと将軍は、

「では、この廊下についている、小さな血のついた足跡は、どう説明をするのかな?」

おごそかな口調で尋ねた。思わずユンは、しゃちこまった態度で答えた。

「廊下の血の跡ですか、すみません、拭きわすれていました」

「いや、そういうことではない! この足跡、どうも不自然だ」

将軍が追求している足跡は天美のものであった。帰るとき、シューズの裏に流れ出た血が付着をしていることまでは気にもかけなかったのであろう。しかし、それを目ざとく見つけ出したということは、この男、戦地慣れをしているというか、あなどりがたい人物だ。軍服に付けられた勲章も見かけ倒しではないというか。

「そうですか。きっと、私たちの誰かが通ったとき、おかしな形でついたのでしょうね」

「いや、どうも気になる。本当にお前たち以外は、誰もこの部屋に入らなかったのだな」

「むろんです。ほかに誰か入るものがいるのですか?」

「まあ、普通に考えたら、いないのが当たり前だが」

ソムンは答えながら宙をにらんでいた。そして、次の言葉を、

「では、確認をしておきたい。カメラとか映像は残っているか」

「残念ながら、カメラまでは設置してありません。なにぶん、予算がありますので」

「ないか。では次の質問に移ろう。今日の授業、生徒は何人いたのだ」

「二人です」

「ほお、二人とな!」

「はい、補習でしたから二人です。土曜日は特別な生徒だけ補習を受けさせています」

「その二人とは?」

「一人は、事件の当事者、ハーメール・イネラン氏です。イスラム組織の次の指導者になる人物で、日本の風習や歴史を学ばせたいということで、組織から頼まれまして・・」

「イネランのことは知っている。彼がアラブの閃光と呼ばれていることもだ。しかし、日本に来ていたとまでは知らなかったな。そして、今ここで死んだか」

ソムンは、彼の冥福を祈っていたのか、目をつむりながら答えた。

「はい、気が荒く、原理思考が非常に強いということで、注意をしてはおりましたが、まさか、こんなことが起きるとは正直言って困っています」

「それで、問題の担当は誰だったのだ?」

「エルドール・カーネスです」

「カーネスだって、メキシコで、さんざ非道なことをしてお尋ね者になったので、わしが、向こうのカルテルから頼まれて、ここに、潜り込ませた男じゃないか。あやつが死んだ片割れか、あやつも気が荒いことでは有名だぞ。ニカラグアでは一個中隊を、部下を率いて撃破したという。だいたい、あやつは神というものを、昔から馬鹿にしていた男だったんだ。片やイネランはイスラムの狂信者。どうして、そんな二人を一緒にしたのだ!」

ソムンは興奮した口調になった。その剣幕にユン校長は顔を真っ青にして謝った。

「すみません。そこまでは存じ上げませんでした。実は今まで二人は気があってたのですよ。爆弾テロの話なんかをしていたときは、両人とも本当に愉快そうでしたし」

「おおかた、今日のお題も、そんなものだったのだろう」

「そうですね。でも、殺し合いになるなんて」

「カーネスがイスラムの教えについて、何か腹が立つようなことを言ったのだろうな。そこで、二人はもめて殺し合いに発展をしたと」

「そ、そうかもしれませんね。これは大変なことです」

「まったく、頭が痛い話だな。殺されたなんて、カルテルにどう言えばいいんだ」

「わたしも、まったく同じです。父上にどう伝えたらいいものか」

「そうだ、失念をしていたが、確かに、あの人にも迷惑がかかることになる」

 不機嫌だったソムンの顔が神妙になった。彼の上に立つ人物がいるのだ。その人物に気をつかっているのである。結局、仕方なさそうな口調で次の言葉を、

「一応、報告はしないといけないだろうな。さすがに隠すわけにはいかないしな」

「そうですね。でも、外部だけには絶対にもれないようにしないと」

「それは、当たり前のことだ。彼らの部下たちにもれたら大変なことになる」

「そうです。血の雨が降るかもしれません」

「もう、その話はやめよう。さて、もう一組、補習があったようだが」

「そうみたいですね。学校が開いていることで、ついでに授業を受けさせたようです」

どうも、天美はついで扱いのようである。

「ついでか、それで、そやつは?」

「さあ、誰でしたっけ?」

「知らないだって、まったく困ったものだな。補習の担当は誰だ?」

「姚女史です」

「彼女か」

将軍はつぶやくと、そのまま言葉を続けた。

「それで、何か言っていたか」

「何も言っていません。どうも、死体のことで頭が一杯のようで」

「それなら、何もなかったということか。しかし、この足跡、どうも気になる」

ソムンはそうつぶやくと、難しい顔をして尋ねた。

「念のため、やはり、補習を受けた人物を知りたい。何か資料はあるか」

「はい、連絡メモは残っています。土曜日、アマミ・カスタノーダについて補習という」

「アマミ、女か。それで国籍はどこだ?」

「今から調べます」

ユンはそう答えると、端末パソコンを取り出しデータ検索をし始めた。そして言った。

「ありました。国籍はセラスタ、年は十五才です」

「うーん、十五才か。そのデータがでたらめということはないだろうな」

「将軍も、よくご存知でしょう。当校に入るには、パスポートと在留の許可証が絶対に必要だということを」

「そうであったな。となると本名だな。うーんセラスタか」

 ここで、ソムン将軍は今まで以上に厳しい顔になった。


競羅と天美の会話も続いていた。

「でも、そんなこと言ってたら、もう、学校行けなくなるのだけど」

「えっ、あんた、まだ、行く気なのかい?」

思わず驚いて聞き返した競羅。

「むろんそう、だって、単位もらわないといけないし」

「けどね、あんたは殺しの目撃者なのだよ。それで、口封じをされそうになったのだろ。まだ、こりずに行くのかい。まったく、自分の立場がわかっていないというか」

「でも、そのことは、今、話し合ったでしょ。ちからで解決ついてるって。それに、他の生徒たち行ってるのに、わったしだけ、さぼるわけいかないでしょ」

「確かにそうだけどね。他の人たちは殺人事件のこと知らないのだろ」

「それは、そうでしょ。向こうの人たち、うまく、片付けようとしてたし」

「それなら、より、行くのをやめると考えるのが当たり前だろ!」

 競羅はしつこく止めようとしたが、天美はさめたような表情になり、言葉を発した。

「そうかな、行かない方が、もっと、よくないことになると思うけど」

「なぜだよ?」

「よく考えて見て、向こうは、わったしのちからで殺人見られたこと、まったく覚えてないの。でも、補習出たことと、殺人事件あったことは事実、そんな状況で急に欠席したら、逆に怪しまれるでしょ。だから、何も知らない顔して出席した方がいいと思うの」

「おいおい。何を言い出すかと思ったら」

「ざく姉こそ、本当に事情わかってる? 通報しない限り、わったしは授業に出ても関係ない立場。逆に向こうは、人に知られたくない犯罪組織、ましてや、殺人事件あって神経質になってる状況なの。そこで、事件あった日の次から出席しなかった少女いたら、見られたかと思って疑ってかかってきても変でないでしょ。ざく姉は、向こうが襲ってくるの面倒くさがってたけど、本当に口封じに襲ってくる可能性だって出てくるの」

天美の説明に競羅は腕を組んで考え始めた。悩んでいるのだ。そして言った。

「けどね、あんた、そんなことまで考えたら、どっちにも動けないよ。こういう場合、普通だったら、やっぱり、どうにもならなくなって警察に駆け込むのだろうね。しかし、あんたは事情が事情だから、それすらできないし難しい決断だね、行くか行かないか」

「だから、行くのが一番いいの。困ったときは前に進む。それが、わったしの考え!」

天美は最初から決意を固めていたのか、はっきりとした声を上げた。結局、競羅は、

「わかったよ。最後は、あんたが決めることだからね。それで次の授業は、いつだい」

「確か、今度の木曜日と金曜日」

「木曜日か、確か、その日は十四日になるね。翌日は十五日か」

競羅は答えながら渋い顔をした。

「どうかしたの?」

「実は、その両日は仕事が入っているのだよ」

「そ、そうなの」

天美は思わずそう尋ねた。ある意味、意外な答えだったからだ。

「ああ、滅多にないけどね。日にちによっては仕事があってね」

「日にちによってって、どういう仕事なの?」

「以前、場を抜けるときに言わなかったかい。今から、ちょいと義理がある人の仕事を手伝わなければならないから、おいとまするよって」

「あるようなないような。それが仕事なのね」

「ああ、今までは、事件のようなものには引っかからなかったから、話す機会はなかったけど、月に六日ぐらい、神社や寺の前の参道で店を出しているのだよ」

「店?」

「屋台だよ。三年ほど前からかな、さっきも言ったように、ちょいと義理がある人がいて、その人が大怪我をして足腰がたたなくなってしまったのだよ。だから、その人の代わりに屋台の運営をすることになって。もうけは、ほぼ折半ということでね」

「なんだ、そうだったんだ」

 天美は明るい声で答えた、その口調に競羅は、

「おや、なんか、はずんだ声をしているね」

「だって、ざく姉のことだから、すごい危険なことしてるかと思った。日にちということから、麻薬か何かそれに近いような取引とか」

「あんた、さすがにそれは、ひどいね。まあ、こっちも、そう見えるのが悪いのかもしれないけど。それより本題に戻らないとね、今、言ったように、来週の木、金はどうしても手が離せないのだよ。一緒については行きたいのだけどね」

「ざく姉は、そこまで心配しなくていいから、もともと、わったしが決めたことだし」

「とは言ってもね、今回の事件を考えたら、あー、義理は守らないといけないし」

 競羅は本当に悩んでいた。その様子を見ながら天美は、

「とにかく、わったし一人で大丈夫だから、ざく姉は、その義理果たさないと」

「わかった。本当にすまないけど、今度ばかりは、あんた一人に任せるよ。あと、言っておくけど、監視カメラとかには気をつけるのだよ。あれは、その気になれば、すぐに取り付けられる代物だからね。うかつに能力を使ったら大変だよ」

「そうね、気をつけることにする」

「もし、能力を使ったら、必ず報告をするのだよ。それが条件だからね」

「わかった。ちから、使うことがあったらね」

天美はそう答え、こうして、カラオケボックスでの二人の話は一通り終わった。


 学校側では、厳しい顔をしたソムン将軍の言葉が続いていた。

「その小娘のことだが、二度と現れなかったら、今回の所業、見られたと思っていいな」

「かもしれませんが、決して、そのようなことはないでしょう!」

「果たしてそうかな」

 将軍はそう言うと長い説明を始めた。

「わしが中南米やアフリカの数カ国で傭兵をしていたことは知っているな。実は、その時、苦い経験がある、紛争地である村を攻略していたときだ。陣営に戻ると小さな足跡を見つけた。子供の足跡だったから、ほかの連中は気にしなかったが、わしは、胸騒ぎがしたというのか妙に気にかかったのだ。そこで、周りを探索しに出かけた。出かけたと同時に背後で大きな爆音があがった。思わず振り返ると、わしらのテントは戦友たちとともに燃え上がっていたのだ。わしは呆然として、それを見つめるしかなかった。

 あとから調べると、こういうことだった。子供が爆弾を持って潜んでいたのだ。わしらが、陣営に戻ってきたのを見計らって、自爆テロを実行したということだったらしい」

「そんなことがあったのですね」

「だからこそ、この足跡を見逃すわけにはいかないと言っておるのだ」

「わかりました。将軍のお考えが、補習の少女は、私どもに気づかれずに殺人を目撃していた。その証拠が、この足跡だと。だから彼女は二度と現れないと」

「そういう、可能性も高いということだ!」

「ですが、もし、彼女が再び授業を受けにきた場合は、どうなさるおつもりですか?」

「そのときは、さすがに、わしのカンがはずれたことになるのだが。しかし、出てきたら出てきたということで、それはまた気になる。次の授業は、わしも立ち会うことにしよう」

「えっ、将軍、みずからがですか」

「そうだ、わしは君の父上に雇われている身分だが、一応、ここの責任者だ。別におかしなことでもないだろう。それで、そやつの次の授業予定日はいつだ?」

「木曜日です」

「わかった木曜だな。では、楽しみに待っているとするか。いや、その前に警察とかに妙な通報があるかもしれないから、そのあたりも目を光らせておかないとな。もし、そんなようなことがあったら、その時は、芽を摘まないといけないからな」

「ははは、そこは、おっしゃる通りです」

ユン校長は不気味な顔をして笑っていた。


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