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Confesess-7 end

最終章


 下上家ではバースデーソングが始まっていた。

「予定通り、うまく、事が運びそうですね」

 声をかけてきた人物がいた。パートナーであるワゴンの運転手だ。それは、女性であった。このベガが、さとみの偽母、おもちゃ売り場の偽店員を演じていたのだ。

「まっ、当然と言えば、当然のことですかな」

 余裕顔でデネブが答え、その間に盗聴スピーカーからは二行目のフレーズが、

「一時は、あれを使わないなければならないと覚悟をしましたけど」

「そうですな。騒ぎが大きくなるのは、よくないことですからな。さて、もうお話はやめましょう。最後の詰め、決して間違いがあってはなりませんからな」

 と答えたとき、三行目のフレーズが始まった。

〈あと、もう少しです。いよいよです。あ奴のくやし涙が目に浮かびますな〉

 デネブが固唾を飲むように状況を見つめ、そして、今まさに、歌い手たちに死を告げる最後のハッピーバースディが始まろうとしたとき、はるか上空から、突然、

「下上さーん、命、狙われてるから気をつけて!」

という声が大きく響いてきたのだ。

その声が聞こえたのか、バースディソングは止まった。

「今のは、いったい、なんなのですか? 上空から女の声が、ま、まさか!」

デネブは思わず声を上げた。そのあと、首を振るように、

「ありえません、ありえません!、あ奴に間に合うはずがないです! なぜにまた!」

 と、わめくように叫んでいたが、目の前で起きたことは事実である。そして、その彼の混乱をよそに、再び天美らしき声がした。

「下上さーん、きっと、爆弾みたいなもの仕掛けてあるから、すぐ探さないと」

 その言葉にデネブは我に返った。

「ははは、これがありましたか。コァンフェセス、感謝をしますよ」

 と苦笑しながら、車に設置されている赤いボタンを押した。ところが、何も爆音らしき音は周囲からしなかった。

「どうしたのです! 何も爆発音がしません。これは、いったい、どうしたことです!」

 仕掛けた爆弾が爆発せず、再びデネブの顔は真っ青になった。ベガも同様だ。

いつのまにか、当たりが騒がしくなった。上空から少女の声で、危険、爆弾という言葉が聞こえ、周辺の住民たちが騒ぎ始めたのだ。

〈何が何だかわかりませんが、えらいことです! すぐに、この場を去りませんと〉

 青ざめた顔のデネブがそう思ったとき、車内に激しい衝撃が起きた。前方から、突然、別の車体がぶつかってきたのだ。デネブは思わず機械で頭を打った。

「今のは、い、いったい?」

 デネブが、こぶができた頭を押さえて立ち上がったとき、

「あーあ、これは下上様、いや警察のお方に請求をなさらないといけませんね」

 割れたフロントガラス越しに、聞き慣れない女性の声が聞こえた。そして、そのあと、凛とした別の張りのある声が、

「そこの車の中の不届き者たち、爆弾は爆発せぬぞ、御雪殿の機械で制御されたからな。もう逃げることはできない、観念して神妙に警察の到着を待つがよい!」

 声の主は磨弓だ。最初の声は御雪であった。なぜ彼女たちが、この場にいるかというと、

 天美は、御雪が世田谷の自警団にいることを覚えていた。そして、御雪のマンションがある瑞穂台と、警視正宅の太陽が丘の距離がわずかに三キロということを、

 通話を受けた御雪は、すぐさま磨弓を連れ、探偵道具を持って太陽が丘に向かった。

そして、持ってきた道具を使って、怪しげな電波を発信している車を探り当てた。

その後、車の中の相手に悟られないように数分間、リモコン爆弾の電波妨害を試み、それを成功させると、仕上げに逃走できないように車を相手にぶつけたのであった。

デネブは、なおも逃げだそうとベガに命じたが、この状況では、車を発進させることはできなくなっていた。仕方なく外に出ようとしたが。周りには大勢の人影が、天美の声で一旦、外に出た人たちが集まってきたのだ。そして、衝突の音で何が起きたのかと、

 暗殺者たちは逃げることもできず万事休すとなった。

 やがて、駆けつけた警官たちにつかまり、もみくちゃになって、今、まさに連行されようとしたとき、一人の少女が夫婦らしきカップルと共に現場に到着した。夫婦は下上夫妻で、その少女は天美である。テープではなく、本当に彼女はこの場所にいた。

 彼女は確かにエレベーターに乗り込んだ。しかし、下ではなく上に向かっていたのだ。

 場所は警察病院、病院の入口には当然というか、刑事たちが容疑者を逃がさないための関所として数人が待機をしている。そこで、騒動を起こしたくなかった。

 また、病院の外には、もしかしたら結社の連中が待ち構えているかもしれない、それはまた面倒なことになる。そのような疑念を持って下には向かわなかったのだ。

 では、なぜ上かというと病院の屋上には緊急用のドクターヘリが待機していた。彼女は、そのヘリの拡声器を使って、上空から声を投げかけたのであった。

 彼女は入院していたとき、ドクターヘリが病院にあることを視認していた。そのときは、まさか、使うことがあるとは夢にも思ってはいなかったのだが。

天美の能力、弱善疏は何度も記すとおり、彼女の行動を拘束しようとしたものは、彼女を、その場から逃がすための行動をするというものであった。

警察病院は普通の病院とは違って、屋上に出られないように施錠がしてあった。これは逃走を防ぐためにも当然の処置である。また、屋上の一つ下の階には部屋が用意されていた。監視人を兼ねたドクターヘリの整備人、操縦士の待機部屋として。

 天美は逃走中、その管理人に見つかった。そして、屋上に上がる前のドアの前で、拘束されようとしたのだ。彼女の肩に手がかかったとき発動した弱善疏、能力に墜ちた管理人は、天美を無事に、この場から逃がすために施錠中のドアをカギで開けた。

また、管理人は操縦士でもあったらしく、そのまま、彼女を連れて、ヘリコプターに乗り込んだ。こういった次第であったのだ。


一方、少し時間をさかのぼると、下上家では、『ハッピーバースディ ディアもえちゃん』と三行目のフレーズが終わったところであった。そして、まさに、四行目を歌おうとしたとき、上空から天美らしき声が聞こえた。

 一同の声が止まり、まず、下上警部が声を上げた。

「今のって、確か天美ちゃんの声よね」

「確かに、そうだ、あの子の声だ」

 警視正も同調するように答えた。突然の出来事に祖父の晋吾は目をパチクリしていた。

「何か危険とか何とか言っていたけど」

 その下上警部の言葉に、かぶるように天美の次の声が、

「何、爆弾だって! どういうことなんだ!」

 警視正は気色ばんだ。ここで、正明君が思い出したように声を出した。

「萌の持っている、あれじゃないかな」

「あれって?」

「だから、萌が持っているピンクのタマゴみたいなおもちゃ、さっきから、ボタンを押しながらニヤニヤとしていたし」

「あれは、わたしが買ったプレゼントだが」

 晋吾の声をよそに警視正は動いた。

「萌、ちょっと、それをお父さんに貸してくれないか」

 ところが萌は、

「いや!」

 と叫んで放さなかった。これは、物を取られるという幼児の反射的な拒否感でもあるのだが、それよりも何も結社の催眠効果でもあった。

「いいから、渡しなさい!」

 警視正は萌に詰め寄った。萌は母親の警部の方を見つめた。その警部の顔は! 顔は笑っているのだが目付きが鋭いのだ。それは普段は見せない仕事の顔でもあった。

 下上夫婦と萌のにらみ合いは数分続いた。そのとき、警視正は思っていた。

〈あれが、爆弾ということは間違いないだろう、おそらく、起爆方法はあの玩具についている、いくつかのスイッチの組み合わせだ。単体のスイッチなら、すでに爆発をしているはずだ。萌は何度も、あちこちのボタンをいじくりまわして遊んでいたはずだから。

 それに、確かに結社の手口は国際警察の情報ではこのやり方だった、親しい第三者を利用した殺人、うかつだった、まさか萌にその手が回っていたとは〉

萌は兄や両親に囲まれるように詰め寄られていた。暗示である四つ目のスイッチを押す行動自体、当然というか阻害された状態である。だが囲まれた恐怖心がそうさせたのか、混乱した萌はそのおもちゃを振り返るやいなや壁に向かって投げつけたのだ。

 毒ガスと爆弾の二つの仕掛けがしてあるアイテムだ。投げつけた力は非力であるが、それでも、壁にぶつかると何が起きるかわからない。警視正は思わず目をおおった。

そこに、一つの人影が。その人影は脱兎のように駆け込んでくると、今にも壁にぶつかろうとする物体を見事に手で受け止めた。

「あー、危なかった」

人影はそう声を上げた。声の主は天美であった。彼女はヘリコプターから降りると、まっすぐに下上家に向かったのだ。そして、玄関が開いていることを確認すると、そのまま駆け込み、このように無事にキャッチをしたのであった。

 その後、下上夫婦は天美と一緒に、爆弾を仕掛けた暗殺者たちのところに向かった。現場では警察隊を指示している御雪の姿があった。彼女は天美たちを見つけると、

「皆様方、ご無事で何よりでした。さて、先ほどですが、なかなか、興味深いものを採集することができました。下上様にお渡ししておきます。捜査の役に立ちますかと」

 とにっこり笑いながら、メモリーカードを警視正に手渡したのである。


 その数時間後、成田空港では出国手続きを終えた白取総裁がいた。彼はそのあと、ある意味当然というか、デネブから何も連絡を得ていなかった。

 そして、もやもやした気分のまま、待合室で秘書たちと一緒に座っていた。

 とそのとき、数人の乱入者が現れたのだ。先頭に立っている人物を見た彼は、思わずぎょっとした。会うのは初めてだが網膜には焼き付いている相手、下上警視正であった。

「な、何だね、君たちは! わしに何か用かね」

 白取は内心は驚きながらも、秘書の手前、威厳を持った声で返答を。そして、秘書の一人が不愉快な顔をして前に出ると、とがめるような口調で声を出した。

「そうです。総裁に何のご用件でしょうか? 見ての通り出発前ですよ!」

「まずは、ご尊顔を拝見しに参りました。正式なお目通りはまだでしたから」

 警視正はうやうやしい態度で答えた。何も知らない秘書は呆れたように言った。

「あなたたち、それだけの用事で、わざわざ、ここまで来たのですか」

「まさか、大切な用件がありますから、ここに来たのです」

「ははは、では、見送りか」

 白取は声を上げた。選挙中ということで余裕を持っているのか、

「いや、もっと、重要な用件がありまして、ここからは気恥ずかしいので、私の口からではなく、代わりに捜査一課の方がお話をしてくれます」

 警視正の言葉が終わるやいなや、一枚の紙を持った男性が前に進み出てきた。一課の十条警部だ。彼はその紙を前にかかげると、

「白取総裁。あなたに逮捕状が出ております。世田谷一家の殺人予備罪で」

 と切り口上で声をあげた、追い打ちをかけるように警視正の声がした。

「どうも、外遊は中止ということになるようですね」

「何を失礼なことをやっているのですか! 冗談にも程があります!」

 秘書は怒り声を上げた。

「冗談ではありません。裁判所が出した逮捕状は現実にあるでしょう。それより、あなた、先生の顔色を見てください。私に対して、思い当たることがあるみたいですよ」

警視正に言われ、秘書たちは思わず白取の方を見た。その白取の顔は激しくこわばっていた。確かに何か様子がおかしい感じである。だが秘書はすました顔で次の言葉を、

「どういうことかわかりませんが、選挙中だということは理解をしているのでしょうね」

「そもそも、証拠があるのか?」

 白取が再び中に入ってきた。どうしても、そのことが気にかかるからだ。

「その話は、ここにいる、十条さんがしてくれます」

 警視正はそう言い、十条警部の説明が始まった。

「実は、ある国際的殺し屋が、依頼人から仕事を受け、世田谷のある人物一家の抹殺計画を企ていたのです。まさに水際というところで防ぎ、その身柄を確保いたしましたが」

「それは、けしからん話だな。しかし、今、殺し屋と言ったな」

〈まったく、えらそうなことを言って、結局は、失敗をしやがって〉

 と白取は心中では思いながら。

「はい、言いましたが、それが何か?」

「殺し屋と言ったら専門家だ。短時間で依頼人について話すことはないだろう」

「それが、なぜか現場で白状をしたのです、向こうは選挙なんて関係ありませんから。衝突で頭も打っていたようでしたし、囲まれたとき混乱をしたのでしょう」

 やはり、天美がデネブに、どさくさにまぎれて強善疏を使っていたのだ。白取は、

「そんなバカげた話なんてあるか! だいたいそれが、与党の仕掛けた罠だったらどうする気なんだ! こんなことをして、その責任は取れるのだろうな」

「実は、そのことを裏付ける大きな物証があるのですよ。殺し屋が依頼者にかけていた電話の発信記録ですか、それが当局の手に入りまして、先ほど解析が終わったところです」

 御雪が採集と言って手渡したメモリーカードであった。

「しかしな、それは盗聴だ! 証拠にはなり得ないし、令状無しの盗聴は犯罪だぞ!」

「はい、盗聴は犯罪です。令状がないと当局でも無理です。ですが盗聴というのは、あくまで話の盗み聞きのことを言うのです。今回は電波の発信先をつきとめただけですから」

「同じ事だ!」

「そうですか。先ほど、あなたもぼくも、礼状がない盗聴が犯罪、だと言っていましたが。実は今回、手に入った発信電波ですが、その犯罪から判明したのです」

「どうも、意味がわからないが?」

 十条警部の説明に白取はそう答えた。心中で大きな不安を感じながらも、

「では、ご説明をしましょう。実は、今回確保した殺し屋がターゲットである一家を盗聴していたのです。その盗聴元を探していたら、何とその殺し屋が発信していた回線をつかみましてね。もう、おわかりと思いますが、そのようなことなのです」

「まさか、おまえたちは最初から?」

白取が疑念の声を上げた。その言葉に同調するように、自信を帯びた警視正の声がした。

「まあ、我々の立場からすれば、そういうことになりますかな」

「しかし、選挙中なのだぞ!」

「また、そのお言葉ですか。確かに、前国会議員は選挙中に逮捕をされることは、まずはありえません。その所属政党の印象操作をすることになりますからね。ただし、前例から見ても、あくまで贈収賄か選挙違反のような政治がらみのことです。殺人関係の捜査は適用外です。あと、逮捕状は逃亡の恐れがあるときには発行をされますので」

「わ、わしは逃亡するわけではない! 以前から決まっていた、が、外遊だ!」

 白取は強弁した。だが、その狼狽する姿と一連の会話で、さすがに秘書たちも、先生が逮捕につながるようなことをやらかした、ことを感じ取っていた。もうダメかと、

「その件は司法が判断をしました。今回あなたは、わざわざ選挙中に、このような殺人を企てるようなことを起こしたのです! それはつまり、司法に対する挑発です! 絶対的な証拠もありますし、もう言い逃れはきかないと思った方がいいですね!」

 警視正の強い言葉に白取は観念をし始めた。そして、うめくようにポツリと一言、

「そうか、わしらは泳がされていたということか」

「そのあたりのことはご想像にお任せします。ですが!」

 警視正は大きく息を吸った。そして、その場に集まってきた乗客たちを意識すると、

「あまり、我が国の公安警察をなめないでもらいたいですな! 特に専門領域の情報合戦について負けるようなことは、絶対にありえない話ですから!」

 と大声を。白取はがっくりと肩を落とし、それに、追い打ちをかけるように警視正は、

「総裁、あなたには、外患陰謀罪についての捜査の方も進んでおります。そちらに、つきましても、じっくりとお話を聞かせてもらわないといけませんね。さてと」

 そのあと、十条警部の方を振り向くと、

「十条さん。あとのことは頼むよ。私は早く戻って、娘のその後の様態を確認しなければならないからね。では、これで失礼を」

 と言ってその場から去って行った。


 翌日の新聞の大見出しは、どこも白取総裁逮捕の一色であった。テレビも同様に、どの番組もそのニュースで持ちきりである。売国容疑の捜査を妨害するための警察庁幹部一家爆殺を狙った殺人予備罪、必然というか、国民生活党に影響が出ないわけはなかった。

 前、前日の大騒動により、選挙日当日は与党の地滑り的大勝であった。最初の過半数割れを跳ね返すどころか三分の二を超すような。選挙後、参議院で国民生活党に鞍替えする予定であった議員も、当然というか、そのような表明をすることもなかった。

選挙日の翌日、天美は退院をした。土、日は退院ができないので月曜までのびたのだ。

 むろん、病院内では英雄扱いである。金一封間違いないヘリコプターの操縦士はしたり顔で、あたかも自分が緊急事態を理解して、発進をさせたと同僚たちに自慢をしていた。

その天美の帰宅を待っていたとばかりに訪問者がいた、競羅である。彼女はかなり怒っていた。その理由はものすごく単純なものだが、彼女は天美に詰め寄った。

「あんた、色々とご活躍のようだったけど、何でこっちに連絡をしなかったんだ!」

「連絡って、こないだの下上さんちの事件のこと」

「そうだよ。こっちに報告をするのが当たり前のことだろ。それを、御雪なんかに」

 やはり、競羅の怒りの原因はそれであった。天美が御雪を頼ったのが面白くないのだ。

「だって、ざく姉もあのパーティに参加してた可能性あったでしょ」

「あんた、こっちにケンカを売っているのかい!」

「そういう気ないけど」

「それなら、なぜ、そんな嫌みを言うのだよ。こっちが招待されるわけないだろ」

 本当は自分で断ったのだが、彼女なりに格好をつけているのだ。

「でも、正明君や萌ちゃんの話よくするから、もしかしてと」

「何がもしかしてだよ。あんた本当に、ふざけた事ばっかり言っていると承知しないよ!」

競羅の怒りが増してきた。その様子を見ながら、天美はため息をついた。

「どうしたのだよ、これ以上、何か言いたいことがあるのかい?」

「あるけど、怒らないで最期まで聞いてくれるなら、説明するけど」

「説明ねえ。こっちが納得をするぐらいのか」

「普通だったら納得すると思うけど」

「では、こっちが普通ではないと言うのかい」

「そういう意味でないでしょ。まぜかえさないでよ」

「わかった、本当に納得をする話なら聞いてやるよ。そうでない場合は許さないからね」

 競羅はそう答え、天美の弁解が始まった。

「では、わったしが、どうして、ざく姉に連絡できなかったということだけど、もし、あのとき、ざく姉に連絡したら、下上さんに連絡とろうとするよね」

「それは、そうだろ。相手が義兄さん一家を抹殺しようとしていたのだからね」

「だから、それが一番よくなかったの。今のアトゥラスタは、そういう電話一番、警戒してるの。だって、せっかく暗殺準備整っても、電話一つでパーになるでしょ。むこうもバカじゃないから、そういう手、きちんと打ってあるの」

「なるほどね、最初から連絡ができないようにしておくわけか、だから、こっちに電話をしても、義兄さんのところにいたから無駄だと思ったのだね」

「それだけでないのだけど」

「けどね、そんなことは、かけてみないとわからないだろ。つながらなかったら、そのときはそのとき、そういう考えがおきずに御雪に頼ったのは、やはり納得がいかないね」

「ここまで聞いても、まだ腹立つの」

「当たり前だろ。何か余計に面白くなくなってきたよ。あんたが、勝手に想像して、その結果、御雪に頼ったということだからね」

 競羅のその返事を聞き天美は言った。

「もう少し説明しないといけないかな。相手の打つ手にも色々あるのよね。簡単なことは携帯電話の電波遮断するとか、家の電話なら電話線、切るとか」

「ああ、そうだね。つながらなくするのは、それが一番だからね」

「でも、よく考えて見て、もしざく姉、電話しようとしたとき、その電話、電波遮断されてて、かけれなくなってたら、どんな感じする」

「それは、何か変だと思うだろうね」

「家庭の電話は、もっとそう。電話かけようとして受話器取ったら、電話線切られてて、ただツーツーと音だけしてたら怪しむでしょ」

「確かにそうだね、これは何事かと思うよ」

「だから、アトゥラスタだって、昔、それがもとで暗殺、感づかれて、失敗したこと何度もあったの。それで、新しい手段とることになったの」

「新しい手段とは何だよ?」

 競羅が話に乗ってきた。どうやら、怒りは少し納まったようである。

「そのことだけど、少し話が専門的で長くなるけど、我慢して、最後まで聞いてね」

 天美はそう前置きを言うと、競羅に再び説明をし始めた。それは先ほど、デネブが解説をしていたこと、まんまである。

 やはり、彼女は、デネブの予想どおり覚えていた。だから病院内でも、『いや、そんなことじゃなく、もっと恐ろしい可能性、出てくる!』と顔を青ざめていたのだ。

一方、説明を聞き終わったあと、競羅は声を出していた。

「なるほどね、義兄さんから聞いていたけど、あの、おもちゃ、リモコンで爆発するようになっていたのか、だから、あんたは、それを防ぐために御雪の道具に頼ったと」

彼女の言葉のトーンから納得をしたようである。

「そう、今だって、ここまで説明しないといけなかったし、だいたい、こういうこと、短時間で説明するなんて難しいでしょ。かと言って何も説明せずに、爆弾、仕掛けてあるとだけ言ったら、さっきも言ったように、間違いなく下上さんに連絡取ろうとしたでしょ」

「それはそうだよ。事情を知らなければ間違いなくね」

「それに、最悪って変な言い方だけど、ざく姉自身パーティに参加してる可能性だって、ゼロでなかったし。もしそこで、着信音なんか鳴ったりしたら」

「わかったよ、そういうことか。だから、こっちに連絡ができなかったのだね。でも最悪はひどいね。もう少し、ほかの言い方があると思うけどね」

「だから、変な言い方だと前置きしたでしょ。そうなったときは、わったし自身、起爆スイッチ押した、と同じことになるのだし」

「ああ、そういうことか。でも、そうなると、一つ疑問が出てくるね。もし、義兄さんが家にいないとき、電話が鳴ったら、奴らはどうするつもりだったのだい?」

「それは作戦失敗よね。そもそも、家に着くまでに、連絡取れたということだから」

「ははは、それも、そうだね」

 競羅は笑っていたが、天美の方は、声を少し太くすると、

「だから今回、常識的に考えて、下上さんが家に着いてからの失敗ありえなかったの」

「それが失敗したと」

「わったし思うには、いつも通りの伝統に従ったからなのよね。間に第三者、子供いる場合は、その子供使うという。その作戦に固執しすぎたのよ。それと、もう一つ」

「もう一つって、何だい?」

「誕生パーティの存在、それもターゲットの子供の。その魅力的な誘惑にも勝てなかったのね。きっと、その情報得たとき、アトゥラスタは小躍りしたと思う。そのとき家族全員、一部屋に確実に集まるし、一番、劇的な方法で相手抹殺できるから。だからこそ、わったしも、そのパーティの話、聞いたとき、事件起きると感じたの。それに、その日まで、肝心な下上さん、日本にいなかったのだから、唯一のチャンス日というか」

「なるほどね。ドラマなどを見ていても、確かに暗殺というのは、そういう人が大勢、集まって、何か催しがあるときを狙って、計画されるものだからね」

「もちろん、わったしのことも、ある程度、頭に入れたと思う。病院などの外から監視してて、外に出たとき、わったしの行動、妨害するか、もしくは、わったし悔しがらせるために、現場に向かう直前に爆発させるとか。ヘリコプター使ってあんなに早く駆けつけてくるなんて、さすがに考えなかったのね」

「そうだね、さすがに、そんなぶっ飛んだ発想はね」

「警察病院にいたことがよかったというか、それと所長さんの存在」

 天美はしみじみした口調で声を出した。思わず競羅も、

「御雪か」

「ざく姉はどう思うかわからないけど、所長さん、かなり頼りになると思う」

「こっちも頼もしいと思うよ、あいつの小道具で、今まで何度も助けられたからね」

「だったら、所長さん頼ったこと、間違ってないよね。ざく姉に連絡できなかったし」

天美にそう詰め寄られるように言われ、競羅もたじたじした。そして、

「ああ、そうだね。確かに間違っていなかったよ」

 結局そう答えたのであった。


 後日、競羅と数弥は話し合っていた。

「天ちゃん、元気になってホッとしましたよ」

 数弥は本当にうれしそうであった。

「ああ、義兄さんから買ってもらった自転車で走り回っているよ」

「あ、あれすか、最新型の高級ロードバイクすよね」

「どっちでもいいだろ。そういう横文字は苦手なのだよ。しかし、ある意味、当然だろうね。命の恩人でもあるわけだし。何より、あの子のおかげで大手柄をたてたのだからね。まあ新宿署に乗り込んで行く、いい手土産にはなっただろ」

「あれ、姐さん、知らないんすか。その話は流れましたよ」

「おや、そうかい。まあ、よく考えたらそうなるだろうね。いくら、相手が海外逃亡をしようとしていたとしても、選挙期間中の候補者を逮捕するなんてね。それも、野党総裁をということなのだから、それで、どこに、飛ばされることになったのだい?」

「飛ばされずに昇格すよ」

「えっ、昇格だって?」

「そうすよ。外事部長に昇格す。これから下上警視長すね」

「しかし、また、なぜ?」

「だから、白取代議士の逮捕により、選挙で与党が大勝した報償じゃないすか。これで、安定した政権をしばらく保つことができますし。その筋からのお礼ということで」

「そういうことか、でも、前任の部長はどうなったのだよ?」

「例の国の大使の座が空席になったので、突然、その大使に任命されたみたいす。今回の騒動のあおりを受けて、あそこの大使も辞任をしましたからね」

「大使って、普通、外務省の関係者がなるものだろ」

「たいていはそうなんすけど、過去に例外もいくつかあるんす。今回も事件が事件すから、外務省も、今一度、全職員の身体検査をするみたいす。つまり、あの国への大使の適格者は今の状況では省内にいないということで、こうなったんすね」

「結局、政治的人事ということだね。それで、義姉さんの方は、そっちもお流れか」

「まさか、そんなことあるわけないじゃないすか。筆頭警部すよ。少年課の」

「それは、めでたいことだね。これでもう、あの子にかまうヒマなんてなくなったしね」

 競羅はそう答えたが現実は逆であった。翔子、恭子の二人に命令をしたのだ。天美の面倒をより見ることを。そして、満足した結果が出たら本庁に引き上げるということを、

 二人にとって、この命令は最高のぶらさがったにんじんであった。趣味と実益を兼ねたというか。結局、天美にとってはより悪い結果につながったのである。

 そして、その天美のマンションにも新たな来客者が、剣道道具を持った正明君だ。

「これから、今以上に、お母さんの帰りが遅くなることが多くなるから、遠いけど朱雀道場に通うことになったんだ。それで、たまにはここにも遊びに行ってもいい、って教えられて。優しい、お姉ちゃんたちが面倒を見てくれるからだって」

 正明君は屈託のない表情でそう答えていた。



エピローグ


 そして、海の向こうでは複数の人間が雑談をしていた。

「また、コァンフェセスを仕留めるのに失敗をしたということだ」

 人物Aの言葉に人物Bが、

「またか、これで何度目だ。本当に腹が立つな」

そう答えていた。そして、その二人の会話の内容は、次のように不気味に

「だがな、今回は大惨事が起きるぜ、何と『鷹の目』の彼女が失敗をして捕まったんだ」

「おい、本当に『鷹の目』の彼女かよ。これは捕まえた国、かなり、やべえことになるな」


 二人の男が話す『鷹の目』という人物、言葉通り、狙撃の名手であり、また、どんなものでも見逃さない執念深い男であった。おまけに残虐さを持っていた。

 その人物、『鷹の目』は、現在、黒幕の向こうに座っている結社のドンの前に呼び出されて立っていた。 用件は、ベガが任務に失敗をして、警察に捕まったことの通告ともう一つ、

 ドンからの通告を受け、『鷹の目』の顔は怒りで赤くなっていた。この場所でなかったら、間違いなく大暴れをしているであろう。それほど、心中が煮えくりかえっておるのだ。

 そして、心の中で思っていた。

〈ミューロ(デネブの本名)の叔父貴に預けたのが間違いであった。いや、日本に行くのを認めたこと自体、おいらのミスだ〉

 と自分を責めていた。実はデネブ、ベガは実の叔父、姪の関係であったのだ。

 そして、その『鷹の目』にドンは尋ねた。

「その顔、どうも、怒りが収まらないようだな。街一つを、つぶしたいぐらいの感じか」

「当たり前です。ニーナ(ベガの本名)は、お、おいらの・・」

「よくわかっておる、それより、おぬし、一つ聞く聞くが、鷹と鷲は同じ動物で呼び名が違うだけということを知っているか」

「えっ、そうなのですか」

『鷹の目』はそう答えた。なぜ、そのような質問が出るのか、いぶかしながら。

「そうか、同じタカ科の鳥で、大きい方を鷲、小さい方を鷹というのだ」

「それは、わかりましたが、なぜ、おいらにそのような学問を、性に合いませんのに」

「その理由はな」

 ここで、ドンは間をあけると、命令的な口調で声を出した。

「おぬしに、今日からアルタイルと名乗ってもらいたいからだ!」

「アルタイルですか?」

「そう、わし座の一等星、アルタイル、星を継ぐ者として、コァンフェセスのフスティシアを命ず。日本で新たなクラメンを探して、必ず実行をしてくれ」

 ドンの言葉に、『鷹の目』は電気が走ったような感じがした。日本、今、まさに行きたくなった場所である。次の仕事場がその日本になったのだ。だが、ここですんなりと、『光栄です』とは言うことはできなかった。

「コァンフェセス抹殺はわかりますが、今更、ネームの変更までは、『鷹の目』は、おいらの象徴、ニーナが大変、気に入っておりましたのに」

「不満か、喜ぶと思ったのに」

 ドンはそう言うと言葉を続けた。

「おぬし、東洋のたなばた伝説を知っているか、まあ、その様子では知らないだろうな」

 そして、ドンは、七夕伝説を『鷹の目』に話し始めた。伝説だけではなく、ニーナがベガと名乗っていたことも、

 話を聞き終わった『鷹の目』は感銘をうけたように声を出した。

「すごい、いい話です。まるで、おいらみたいだ」

「もう、これで、わかるな、アルタイルの意味が」

 ドンはそう声をかけてきた。

「はい、心に刻みました。ありがたく、アルタイルの名を受けさせていただきます」

「では、やってくれるな」

「むろんです、ドン。身命にかけましてもコァンフェセスにフスを!」

 アルタイルはそう最後に力強く声を上げると、ドンの前を退去した。


そこから先、アルタイルの行動は早かった。彼は兵隊集めに動き出した。コァンフェセスのフスはむろん、やはり、日本の警察に捕まったベガを救出するのが目的だからだ。

 相手は警察、そこから、仲間を救うとなれば並大抵の方法では無理であろう。日本の政府に、釈放をさせるという気を起こさせなければ。

 幸い(最悪)というか、アルタイルはその筋では熟練者であった。今まで、何度も人質(一般市民の場合もある)を取って、相手に言うことを聞かさせていたのだ。

アルタイルのやり口は、要人誘拐、ハイジャックや列車強盗などの占拠事件はもとより、無差別テロが主流である。爆破事件、毒殺事件をあちこちで巻き起こし、周囲の不安をあおるのだ。その劇場的犯罪の手口で目的をはたしていた。

アルタイルが事件を起こすと、その国では数千人の犠牲者が出たこともあった。ドンは、そのようなことを知っているにもかかわらず、復讐心に燃えたアルタイルを日本に送り込んだのだ。これは、日本にも大きな打撃力を与えるつもりなのか。

 銃の発砲訓練をしている部下たちを横目に見ながら、アルタイルは思っていた。

〈もうすぐだニーナ、あと少しで、おいらの兵隊は完成だ。そうしたら、間違いなく救出に行くからな、元気で待っていろよ。それと、コァンフェセス、お礼はしっかりとさせてもらうぜ。ニーナに手を出したことを、生き地獄になるぐらい後悔させてやるからな〉

アルタイルは悪鬼のような顔をしてつぶやいていた。



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