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ホットココア

作者: ツクシ



寒さで、目覚まし時計より早く目を覚ます。カーテンを開けると一面の銀世界。やっぱり積もったか。僕は外の景色を見ながらため息をついた。



今日は、12月24日。クリスマスイブ。世間では、ホワイトクリスマスだと喜ばれるだろう。だが橋本春樹は、悪い思い出が多い雪の日を嫌っている。



寝起きの身体で朝食を準備しつつ、時計に目をやる。6時半。今日は早めに家を出よう。電子レンジでチンした昨晩の残りを急ぎめで食べ家を出た。



今日は一段と寒い。クリスマス寒波ってやつか。最寄り駅まで歩いて15分。雪道は歩きにくく、爪先が冷える。子供の頃は雪が積もると外に飛び出し時間を忘れて遊んだ。いつからだろう。僕が雪を見てため息をつくようになったのは。いろいろ考えながら歩いていたら雪の日の苦い思い出を思い出した。



去年の今頃。雪がちらつく日。付き合って3年になる彼女にひどい振られかたをした。僕は、ショックでその場に長い時間立ち尽くした。そして翌日高熱を出した。人に話せば笑い話になる。けれど僕にとっては苦い思い出だ。



今日は雪なのに星座占いは1位だった。偶然なのか必然なのか分からないが、雪の日はかなりの確率で10位以下だ。今日は奇跡的に1位だったが念には念を。ラッキーアイテムの温かいココアを自販機で買った。



雪のため電車のダイヤは大きく乱れていた。予定より23分遅れで来た電車に乗り職場へ向かう。



電車に揺られ10分の駅で電車が動かなくなった。車内アナウンスによると雪による視界不良が原因らしい。やっぱり雪の日はついてない。これで始業時間には、間に合わないだろう。周りを見ると僕と同じようにため息をつき、時間を確認するサラリーマンの姿が見えた。




車内の人口密度が高く、電車の外で運転再開を待つ。苦手な上司へ遅れることを連絡し、僕は本日何度目か分からないため息をついた。


しばらく電車は動かないだろう。徐々に強まる雪を見ながら思った。今のうちに近くに のコンビニで昼飯の弁当でも買っておこう。雪がこんこんと降り続き、白く染まったクリスマスムードの漂う街を早歩きで進む。



近くの公園には、青いお揃いのジャンバーを着た、2人の子供が雪遊びをしている。かわいいなぁ。僕もそんな時代があったのかなと思いいつつ駅から徒歩5分のコンビニに入る。



コンビニで昼の弁当と買いそびれていたボールペンを購入し、寒さに耐えつつ駅に戻る。



駅へ戻る途中。行きの道で見かけた子が大きな声で泣いていた。どうしたんだろう?僕はこう見えても子どもが好きで世話好きだ。保育士になろうと高校時代には本気で思ったほど。近寄って声をかけてみる。



「どうしたの?どこか痛いの?」

2人が同時に顔を上げる。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。鞄に入れていたタオルで顔を拭いてあげる。2人の顔は双子だとすぐ分かるほど良く似ていた。

「あのね。ヒック。おじちゃん。」

お兄さんじゃなくておじちゃんか。まだ20代なんだけど。俺老け顔なのかな。軽いショックを受けつつ話を聞く。少し背の高い子曰く、雪だるまの上の雪玉を乗せられず、落として壊してしまったらしい。

「雪だるまを作ろうとしていて上の球を落としちゃったってことか?」

確認のため2人に聞くと大きく頷く。

「そっかじゃあ少しだけお兄ちゃんお手伝いするよ」

さりげなくおじちゃんからお兄さんに訂正する。少しだけなら大丈夫かな。ホッカイロで手袋ごしに手を温めながらおもった。

「おじちゃんいいの?」

「おじちゃんありがとう。」

2人が嬉しそうな目でこちらを見る。それよりまたおじちゃん呼びか。苦笑するしかないな。

「少しだけだからな。2人とも名前は?」

「森田裕太。4才」

少し背の高い子が答えた。

「森田康太。4才」

指で4を表し教えてくれる。

「裕太くんと康太くんか。僕は橋本春輝。よろしくね」



僕は森田兄弟と大きな雪だるまを作った。時間を忘れて。子どもの頃に戻ったような気がした。コートは雪まみれになり、ズボンも靴下も濡れてしまった。けれど楽しかった。

「おじちゃん出来たね。」

「やった。」

2人はとても喜んでくれた。心がポカポカするそんな気分だ。やってよかった。僕は久しぶりに心から笑えた。大人になり心から笑えることがだいぶ少なくなった。そんな俺を2人は笑わせてくれた。



僕は2人に少し待つように言って公園の入り口にある自販機に走った。何か温かい飲み物でも買ってあげよう。


戻ると2人は仲良く雪うさぎを作っていた。微笑ましいとはこういうことを言うんだな。そんな微笑ましいホットココアを差し出す。隣でかわいい声が上がり自然と頰が緩む。

「あっお兄さんそろそろ行かないと。」

時計の針が思っていたより進んでいた。電車はもうすでに動いているだろ。灰色の雲の切れ間から青い空が顔を覗かせた。

「そっか。おじちゃんありがとう」

「ありがとう。楽しかったよ」

やっぱり最後までおじちゃんか。

「お兄さんも楽しかったよ。こちらこそありがとう。バイバイ」

そう言って公園を後にする。本当に良い子たちだったな。



公園の入り口でもう一度手を振ろうと振り返る。だが2人の姿は見えなかった。疑問に思い近づいてみる。しかし2人は見当たらない。よく見ると一緒に作ったはずの雪だるまも2人の足跡も見つからない。目をこすって再度見ても残っているのは大人サイズの足跡だけ。

「えっ。なんで。裕太くん。康太くん。」

さっきまで一緒にいた2人を呼ぶ。しかし返事はなく、ただ電車の走る音が寂しく響いていた。



俺は頭が混乱したまま駅に向かった。さっきまで一緒にいた。何が起こったんだ。考えても答えにはたどり着かない。



職場に着いたのはお昼休み。寒さで冷えきったコンビニ弁当を食べながら資料作成に取り掛かった。



その日の仕事帰り。もう一度2人で遊んだ公園を訪れた。俺はそこで衝撃を受けた。公園の隅に目をやる。そこにはお花が置いてあり、昼間一緒に遊んだ裕太くんと康太くんの名前と写真があった。近くに貼られている紙を読むと去年の12月24日。去年の今日。公園隣の横断歩道で交通事故に遭い亡くなったと書かれていた。僕はしばらくその場に立ち尽くした。



僕は近くの花屋で買った花を手向け手を合わせた。1年前の今日。俺よりも幼い幼い2人の未来が閉ざされた。目から涙が溢れる。

「裕太くん。康太くん。ありがとう。2人と遊べて俺は本当に本当に楽しかった。また来るね。」

そう言って立ち上がった。



家に帰るとココアが二本置いてあった。それは冷えきった家にあるのにとても温かく、手だけでなく心までも温めた。そのココアからおじちゃんありがとうそう聞こえた。空耳ではない。たしかに聞こえた。



雪の日も悪くないな。窓越しに外を見ると街灯に照らされ輝く雪景色が広がっていた。





Fin




























最後まで読んでいただきありがとうございます!時間ができたので少しずつ作品投稿していければと思っています。今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サクサクと読めました。 後味のスッキリとした作品でした。
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