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第八十二話 魔浄教団は突然に

「この数式を解くには、この方法を使って解く。数式は……」

 俺は無言で数式を書き写していた。今日は、松川 利斎とその妻子を救出して一週間。仕事も一段落し、魔浄教団の活動もピタリと止んだ。まだ他の仲間に動いている者もいるが、俺達学生組は「学校があるだろう」と配慮してもらい、いつも通りに授業を受けている。久々の晴れ日であり、ポカポカと暖かい日差しが、眠気を誘うそんな時、板書音や先生の解説に紛れ……いや、その音達を遮るように、巨大な爆発音・・・が響いた。俺達は、つられるように音の方向を向く。その方向には、依託所から昇る黒煙があった。他の生徒は、驚きざわめき、先生は静かにするように声を上げるが、動揺を隠せずにいた。そんな中、俺は川蝉と連絡を取り合うべく、行動を取ろうとするが、タイミング良く、一羽の川蝉が窓を突つく。俺が急いで窓を開けると、川蝉は窓の縁に止まり、小さな声で話し始めた。

「“通達。現在、魔獣汚染浄化解放教団まじゅうおせんじょうかかいほうきょうだんが、西区白波学園を襲撃するという情報が入りました。襲撃日時などは未定。ですが、資金源であった画家を救出済みであるため、テロという形で、近日中に襲撃することが予想されます。川蝉達は、厳重警戒を敷き――”」

「あー、通達の途中で失礼する。緊急事態だ。今、分離寄生命体を預ける施設で爆発があった。おそらくだが魔浄教団だろう」

 俺は、通達の途中で割込み、こちらの現状を伝える。すると川蝉から、少し動揺したように、素の声が聞こえてきた。

「“えっ、もう!?向こうは相当焦っているみたいね。……゛んっ゛んん。了解、織曖さんに伝えて、そちらに人員を送ります。相手の狙いは分離奇生命体の排除と身代金です。身代金の為にすぐにどうこうと言うこともないはずです。出来ればこちらの突撃に合わせてください。ですが、もし魔浄教団側が動いたら、対処をお願いします。突撃は三十分後を予定しています。それまで持ちこたえてください”」

「了解」

 俺が返答すると同時に川蝉は飛び立ち、それと時を同じくして、扉が大きく開け放たれた。その音に驚き、今まで騒いでいた生徒たちは、黙り込む。その扉から入り込んできたのは、魔浄教団の服を着た、三名の男だった。

「我々は、魔獣汚染浄化解放教団まじゅうおせんじょうかかいほうきょうだんである。全員、その場を動かず、大人しく従ってもらおう」

 魔浄教団員は響く声でそう言って、同級生や先生を一か所に集めようとするが、同級生達は「何が起きてるの?」や「何なんだあいつら」と、ざわつき始め、中心に動く動きを見せず、先生は追い出そうと魔浄教団へ向かっていく。魔浄教団員は、うまくいかなかった事にか舌打ちをする。すると、先生の肩井けんせいが氷の弾丸にえぐられる。あの舌打ちは、無詠唱の初動だったのだ。先生は肩井を抉られたことで、痛みにもがき、血が流れ出る傷口を必死に押させる。一般人ではなかなか味わわない痛みに、先生は赤力術式を使う余裕もないようだ。その光景を見て、同級生達は大きく動揺した。それもそうだ、人が目の前で血を流して倒れたのだから。あるものは叫び、あるものはふさぎ込むように体育座りをしていた。

「も、目的はなんだっ!」

 とある同級生が、恐怖に震えながらも魔浄教団に言葉を発した。一方の魔浄教団は、苛つきながらも、その言葉に返答した。

「俺達の目的は分離寄生命体の排除とお前らの身代金だ」

「テロ……と言うことか?」

「あぁ、間違いではない」

「なっ!」

その言葉に周りは凍りついた。静かになったことに魔浄教団はニヤッと喜び、ゆっくりと同級生達を中心に集めた。俺もそれにのって一緒に動き、友人達の元へゆっくり集まる。俺が行くと、友也が小さな声で話しかけてきた。

「なあ誠、これ、どう言うことだ?」

「魔浄教団によるテロ行為だ。目的は、分離寄生命体の排除と身代金目当ての拉致、だな」

俺は魔浄教団がさっき言ったことを復唱するように言うと、友也は意味をしっかりと理解したのか、小さい声であったが、動揺したように言った。

「まじでか!」

その言葉に、周りの紫穂や美幸も動揺の色を見せた。俺はそんな人達の壁になるように少し前へ出る。そんな中、新しい魔浄教団員が二人後ろの扉から入ってくる。そして、三人が生徒を監視し、二人が廊下と窓を監視する布陣になった。

「どうするんだ?この状況」

友也は少し冷静になったのか、今の参上をどう打開するのかと俺に聞いてきた。俺は少し悩んでから言った。

「いくらか方法はあるが、まずはこの外がどうなっているかなんだよなー。まぁ、外にいないならここに居る奴らを音を出さずに倒せば良いだけの話だ」

俺はそう言って周囲の様子を確認する。紫穂、真十花、友也は心配そうにこちらを見、静となぜか千姫は、信頼したように、こちらに指示を仰ぐようにこちらを見ている。千姫にはどう言えば良いのか分からないが、静にはアイコンタクトで周囲確認をお願いする。静は、遠距離での攻撃を主に担当しているので、千里視せんりしの魔眼や超視ちょうしの魔眼、透視とうしの魔眼よりは劣るが、周囲を把握ることにある程度特化しているのだ。静はそれに了解し、周囲を軽く見渡す。その後こちらを見て、合図を送る。……どうやら、周囲に敵はいないようだ。それを理解し、俺はゆっくりと動き出す。それと同じくして、静と、なぜか千姫も動き出す。そして、魔浄教団員三人がちょうど別方向を向いた所で、俺は懐からナイフを……取り出そうとしたが、血に慣れていない生徒が沢山いるので諦め、こぶしを握り、指をこめかみに食い込ませて意識不明に追いやる。横を確認すると、静と千姫が、それぞれ一人ずつ気絶させていた。俺はそれを確認し、残り二人の内、自信に一番近く静から遠い窓側の魔浄教団員のもとに向かい、チョークスリーパーをして気絶させる。そのすぐ後に廊下側の魔浄教団員も静に気絶させられ、この教室の魔浄教団員は、全て気絶させた。そしてその全員をタイミングよくクラスにあった長縄で拘束し、口をガムテープで塞ぐ。そのあとすぐに先生の下へ向かう。先生はまだ唸っているが、痛みに慣れてきたのかもがいてはいない。その事を確認後、俺は先生の傷口を見えるようにする様に手をどかす。周囲の生徒が少し声を上げるが、今は我慢してもらい、自身の学生鞄から麻酔薬の入った瓶を取り出し、傷口に掛ける。先生は苦悶を上げるが、俺はそのまま静に先生を抑えてもらうように頼み、術式を詠唱する。

「『万象形成ばんしょうけいせい、我が手で描け、堅軟自描変けんなんびしょうへん』」

俺はそう簡位術式を言って、教室にあった裁縫針の形を変え、手術針の形に変える。先生の姿を見ると、麻酔が効いてきたのか、抉られた方の手を動かそうとして上手くいかないようだ。

「先生、今腕に麻酔を掛けさせていただきました。あまり動かさないで、他の方向を向いていてください」

「あ……あぁ」

俺の言葉に、先生は少し首を傾げながらも了解し、傷口から首を背ける。それを確認した俺は、消毒をして手術針に形を変えた針と、消毒した裁縫糸で抉られた箇所を縫っていく。数秒もせずに縫い終わり、俺が静に目線を向けると、静も詠唱を始める。

「『治繕じぜんし、汝、あるべき形に戻れ、再治さいちの癒し』」

静が簡位術式を唱えると、先生の傷口が赤に淡く光り、みるみるうちに傷口が塞がっていき、跡も残らないで消えていく。俺は傷口が完璧に治りきる前に仮留めの為であった糸を抜き、それとほぼ同時に傷口が完全に塞がる。

「痛みは残っているかもしれませんが、一応はもう大丈夫ですよ。毒の成分も……はい、麻痺以外の毒は検出されませんでした」

 先生はその言葉で動揺を消し去ったのか、先生は修復された肩井を確認しながら立ち上がる。

「新藤君、野賀地のがちさん、ありがとうございます。助かりました」

「いえ、まだ助かったとは言えないでしょう」

俺はそう言って、昏倒し拘束された魔浄教団員を見る。その時、聞き慣れた声が聞こえた。

「すげぇ、すげぇよ誠!」

 普段よりは抑えた声だが、心から嬉しそうに友也が言うと、周りの同級生達もつられて、安堵あんどの声や、俺と静と千姫を称える声が出てくる。俺はその声が大きくなる前に鎮め、廊下の監視を静に任せ、千姫に話しかける。

「千姫、良く俺達の動きが分かったな。正直助かったよ、ありがとう」

 俺の言葉に、千姫はフルフルと首を振り言葉返した。

「ううん。私が動かなくても誠はどうにかした。むしろろ勝手に動いてごめんなさい」

「いや、それは全然構わない。助かったって言ったろう?あまり無茶はしてほしくないが、戦力が増えるのは願ったり叶ったりだ」

俺は千姫にそう言うと、千姫は「そう」と少し嬉しそうに言う。話したいことを話した俺は、静から遠くない距離で会議を始めた。

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