第七十五話 絵の真意【利斎視点】
「最悪だ……」
思わず声が漏れた。私の絵を真の意味で理解出来ている者が四分の一もいない。大体の人間は、私の絵を表面でしか見ていない。話しかけてくる貴族たちの大体は、興味のない感想を言ってくるばかりだ。中には絵の真意について聞いてくる者もいたが、それを言ったら絵で表した意味がないだろうが。こんなんじゃことが起きた後、もしもの保険にもなりはしない。そんな時、ある集団を見つけた。それは十代後半くらいか、少年少女の一団だ。少し遠くからかすかに聞こえる彼らの言っている内容は、ほぼ私が望んだ通りのものであった。たかが少年少女と言っても、きっと貴族の子供達、発言力は少なからずあるだろう。そう思って眺めていると、彼らの中心と思わしき少年と目が合った。その為、私は彼らの下へ向かことにした。
「どうですか、私の絵は。気に入っていただけましたでしょうか?」
「これは松川先生」
私が話しかけると、目が合った少年は恭しくお辞儀をした。周りは気付くのに遅れたのかワンテンポ遅れてではあったが少年少女の一団は皆が皆美しく洗練されたお辞儀であった。しっかりと教育を受けたある程度高い地位で、地位におごっていない貴族の子供達なのだろう。私がそんなことを考えていると、気まずい沈黙が起きないようにか、中心の少年が話を振ってきた。
「こちらの作品、大変すばらしい絵ですが、製作期間はどれほどなのですか?」
「そうですね、体感的には数日なのですが、何せ製作中は一回も外に出ていませんでしたからね。もしかしたら数十日掛かっていたかもしれませんね」
「失礼ですが、いつもそのようなのですか?」
「そうですね、集中すると色々なものが疎かになってしまって、よく妻に叱られます。ですが今回はより一層集中して書いてしまったかもしれませんね」
その言葉を聞くと、少年や周りの少女達が少し顔を歪ませた。作戦通り、この絵をきっかけに私の立ち位置をある程度理解してもらえたようだ。
「……今、ご家族はどちらに?」
少しの沈黙の中、青髪の少女が聞きづらそうに言ってきた。本当は言ってはいけないだろうが、根拠がなければ子供の戯言と取られるだろうし、動いたとしても事が起こるまでには間に合わないだろう。
「私が今いる自宅にはいないんですよ。東スラム街のどこかなんですけれども、それ以上は……」
私がそう言うと、少女達は少し苦い表情をしつつも中心の少年の方を向いた。少年はその視線を受け止め、周囲を見渡した後にこちらへ一礼すると「お時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした。ご安心ください。失礼しました」
そう言って、彼らは去って行った。その後私や少年少女は、互いに関わることなく、パーティは終わった。