第七十四話 正規ルートで会場侵入
パーティ会場への入場はとても厳しいものだった、帯刀などは許されていたが、一度全ての所持物を確認したり、犯罪歴の確認など、一人十分ほどの検査が用意されており、憤っている貴族もいた。俺達は分離奇生命体の他に、いくつかの隠し武器や医療キットを用心のため滞納しているので、検査は用心しなければならない……のだが、永津希家のおかげで、細かい検査をろくすっぽ受けずに入場できた。その時間なんと十秒。驚異的なスピードで検査を抜けた俺達は、会場内へと入った。今回のパーティは社交界のようなもので、永津希家の周りにはすぐさま人が寄ってきた。その貴族達を、晃輝さんや紫穂は悠々とあしらっていく。その光景をぼうっと見ていると、俺達を見た貴族からこんな声が上がった。
「あの青髪の女の子、もしかしてあの蒼炎じゃないか?」
「たぶんあの男性は天才と名高い朝雲家の長男よ」
瑠璃先輩と朝雲を知っている人物がいたようだ。だがその言葉を耳にした二人は、そろって顔を顰めた。瑠璃先輩は蒼炎の名前を恥ずかしがっている為。朝雲は天才と煽て上げられただけであった為である。そんな有名な人を護衛に侍らせているとあって、貴族の数はさらに増えていった。そんなこんなで数分後……。
「お出まし」
エンパイヤドレスを着、ワイングラスに入ったリンゴジュースを飲んでいた静が言う。……ついに松川利斎が現れた。壇上に立ったその姿は酷く痩せこけており白毛も多い、織曖さんに聞いた松川利斎の容姿とあまりにも違っていた。ただの勘であるが、魔浄教団とも関係性が少しばかし高くなったような気がした。そう俺が考察をしていると、明るい声で、すらっとした司会者であろう男性が言った。
「お待たせいたしました。これより画家、松川利斎先生の最新作のお披露目をしたいと思います。後に近づき、松川先生と対話することもできますので、まずはその場でご覧ください。題名は『見上げた先』」
司会者の声に、パーティ内の空気が変わる。そして布をかぶった大きな物体が、壇上の中心へ運ばれる。その物体の両側に人が立ち、布を大きくめくった。そこに現れたのは、中心に大きな花が描かれた、雨の風景だった。貴族たちはそろって「おぉ」や「これはこれは……」など、様々な声を上げる。思わず俺も声を上げそうになったが、この絵の物悲しい雰囲気と、何かを探すように顔を右往左往とキョロキョロさせる松川利斎を見て、その声は引っ込んだ。一個人の感想でしかないが、この絵には何か意味があって、松川利斎は、それに|気づいた人間を探している《・・・・・・・・・・・・》のではないか。そう思った。……だがあの絵に何の意味が隠されているのか。俺は試しに、瑠璃先輩に質問してみることにした。
「瑠璃さん、あの絵どう思いますか?」
俺が瑠璃さんと呼ぶと、瑠璃先輩はビクッと体を震わせた。だがそのあとすぐに気持ちを整えたのか、澄ました顔で振り向いた。
「どうって言うと、あの絵に何か意味が隠されているかってことね?あの絵、いつもの松川先生の絵と少し違うわ。えっと……真ん中の花はクリスマスローズ?かしら?クリスマスローズが雨雲の切れ目を見上げている感じね。隠された意味があるとすれば、クリスマスローズが上を向いている事と雨雲、そしてその切れ目かしらね」
「クリスマスローズが上を向いていることにどういう意味があるんですか?」
俺は、クリスマスローズのことを詳しく知らなかったので、再度瑠璃先輩に質問すると、瑠璃先輩は少し自慢げに言った。
「クリスマスローズは大体が下向きに咲くのよ。下向きで咲く花を好む訪花昆虫を誘引してるらしいわ。その光景を俯いているとすれば意味のある解釈が出来るでしょう?それにクリスマスローズの花言葉には『いたわり』や『慰め』などの他に『私を救いたまえ』って言う意味も持っているらしいわ。そう言う先入観を持ってみると、雨の中、その切れ目に向かってクリスマスローズが救いを求めているように見えない?」
「なるほど……」
俺達はあーだこーだ話し合いながら考えていると、紫穂が近くによって来た。
「誠くんそろそろ私達が近くで見れる番だよ」
紫穂にそう言われ、俺達は壇上に上がり絵の真正面に来た。
「ほんと、きれいな絵ね~」
「でも、何か物悲しい」
瑠璃先輩と静がまじまじと絵を見つめていた時、ふと俺はこの絵を描いた人物、松川利斎と目が合った。




