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第七十二話 訓練はゆっくり着実に

「よし、それじゃあ訓練を開始する」

「はい、お願いします」

次の日の放課後、俺は川蝉の訓練施設を一つ借り、すっかり丸くなった朝雲と訓練をすることにした。朝雲は静かに俺からの指示を待っている。なので俺は最初に質問をする事にした。

「なぁエンバー。お前は何を学びたいんだ?」

そう言うと、朝雲は前々から決めていたのか、直ぐに返答した。

「まずは赤力術式の無詠唱について教えて欲しいです。その後、エルブさんは騎士だと伺っていますので、剣術に関しても教わりたいです」

「ずいぶん考えが変わったな」

俺はついそう言葉を発した。つい先日まで無詠唱を使うと犯罪者と罵っていた人物とは思えなかったからだ。俺の言葉を聞いた朝雲は少し自責の表情で顔を逸らすが、直ぐに顔を戻し、返答をする。

「エルブさんに負けた後、家で父に言われたんです。“すまなかった“って。”お前を横柄な性格なるまで放置してしまってすまなかった“って。今回川蝉に入らせたのも、私に現実を見て欲しかったからだそうなんです。私、父と会話するのは月に一回ほどしかなかったんです。最近はよく顔を合わせてくれるようになりましたが……」

と、朝雲が話をする。きっと朝雲の父は朝雲が生まれた頃、貴族として大事な時期だったのだろう。大貴族が息子と関われないのはたまにある事である。そのせいで放蕩ほうとう息子むすこになってしあう子も多い。朝雲の父はそのことを後悔していたのだろう。

「父に初めて抱擁してもらいました。それで思ったんです。父は私のことを大事に思ってくれてたんだなぁって。なので私は、真面目に生きようと思ったのです」

「なるほど。でもうちもそんなにまともじゃないぞ?」

俺が苦笑いをしながら言うと、朝雲も少し苦笑いをし言った。

「そう……ですね。父も似たようなことを言っていました」

そして二人で少し笑った後、俺は少し真剣に行った。

「じゃあエンバー、あんままともじゃないけど、これからよろしく」

「はいっ!」

 俺の言葉に、朝雲は明るく返答した。そして朝雲が指定した、訓練を行う事にした。

「赤力術式の基本は分かっているよな。赤力術式は声や思考によって異赤いせき粒子りゅうしに起こる核分裂反応で異赤いせき素粒子そりゅうしへと変化、それが一時的に思考した形を作る。それが赤力術式の成り立ちだ。その後異赤素粒子はゆっくりと元の異赤粒子に戻る」

「それは知ってます。授業で習いました」

「だろうな、そこで重要なのは思考で赤力術式が発動するところだ。赤力術式も下位かい中位ちゅうい上位じょうい最位さいい超位ちょうい禁位きんいの段階がある。そして階位にはそれぞれ節がある。下位は四〜五節、中位は六〜七節、上位は八〜十節、最位は十一〜十三節、超位は十四〜十五節、禁位は十六節以上、というな。だがそれを一々詠唱するのは時間がかかって、戦闘には向かない。それによって一〜三節に詠唱を短縮する、簡位かんいと言うものも出来たが、それよりも短く、零節したもの。それが無詠唱だ。無詠唱の使い方は、とにかく想像力だ。使う赤力術式を詳細に細かく知っていないと使うことはできない。だから訓練は一つの赤力術式を使って、それを深くまで理解する。だな、それなら家でも出来るだろう。だから今回は、剣術の訓練をさせてもらう」

「了解です」

朝雲は少し緊張したように頷く。

「確かエンバーの流派はみやび華山流かざんりゅうだったよな?」

「はい」

「あの流派の得意な動きは突き払いだったよな。試しに打ち込んでみてくれ」

俺は柳葉刀(木刀)を放り投げた。朝雲はそれを受け取り頷く。そして俺も木刀を構える。

「はぁぁ!」

朝雲は『みやび華山流かざんりゅう剣術けんじゅついちはな(はな)(えだ)』を声を上げながら行った。俺はそれを木刀で流す。朝雲はそのまま一拍置き、剣を払うように斬り下ろす。『みやび華山流かざんりゅう剣術けんじゅつはな()とし(ばな)』である。その攻撃を俺は簡単な回避で避ける。それを三度ほど繰り返した後、少し息をついて朝雲はこちらを見た。

「どうですか?エルブさん」

「そうだなぁ、やっぱり雅華山流の弱点は、実戦用に出来ていないところだろうな。一つ一つの動きにキレはあるが、とても速いわけではない。動きの節々にタメやキメがあるが、攻撃が重い訳でもない。動きが繊細で美しいものではあるが、戦闘では無駄な動作ばかりだ。だが剣術であることには変わりない。速さと重さ、あと状況によっての柔軟さ。これがあれば大きく変わるだろう」

 俺は淡々と説明をする。……解析は出来たが、どのような訓練をすればよいか。俺自身や、俺が一から教育した彩芽達なら、思いつくのだが、初見で簡単な動きしか見ていない朝雲に、的確な訓練メニューを用意することが出来ない。……こんな時、瑠璃先輩がいてくれればいい案を出してくれたのだろうか。いやそんなことを考えても意味がない。

「今回はエンバーの動きを確かめたりもしたいから、鍛錬試合でもするか」

「了解です!」

俺の、考えたのちに出した及第点を導き出した案に、朝雲は嬉しそうに頷く。そうして俺達の特訓が始まった。

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