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第六十八話 配達物:魔浄教団員一人

「ふぅ……やっと着いたわ」

 瑠璃先輩がふぅと息を吐く。俺達は気絶させた魔浄教団員を担いで(俺が)、結社『川蝉』拠点の一つにやってきた。ここは情報の収集を主に行っているところだ。聴取ごうもんなども行っているところである。俺達はそこに魔浄教団員を置いて行こうと思ったのだ。そして俺は魔浄教団員を担ぎながら、裏口の様な木製扉を独特なリズムでノックする。すると奥から、気怠けだるそうな声が返ってきた 。

「なんです?」

 閉じた扉越しに、中年と思わしき男性声が聞こえた。俺はその言葉を軽く無視し、合言葉の初めの句を口にする。

「“西方”」

「“奔放な風”」

「“風鳴ふうめい”」

「“飛翠ひすい”……名前は?」

「エルブ」

「シアン」

「ナギット」

 そう答えると、扉の向こうは静かになり、少し経つと扉が開いた。

「……入れ」

 入室許可が出ると、俺達は扉の中に入り、無言で少し薄暗い廊下を歩いて、少し広い場所で止まる。そのタイミングで、パチッと部屋の明かりがき、社長室のような部屋が視界に広がる。そこにはソファに座る無精ぶしょうひげを生やした中年の男性と、社長椅子らしき椅子に座る、切れ目だが優しそうな赤髪の青年の男性、そしてその横に立つ秘書らしき赤髪ロングの青年と同年代そうな女性がいた。空間に冷たい空気が広がる。中年の男性は、飄々《ひょうひょう》とした態度で両手をソファに預けているが、その他二名の外見の空気感は、昔ならさぶいぼが立つほど冷却感である。……今は二人の性格を知って、二面性はあるが素は優しい、と理解しているのでそんなことは起きないが。そのため俺は軽めに(目上の人には敬語は欠かさず)挨拶を行う。

「こんにちは、サランさん。マインさん。それとバイロン」

「おいおい、俺だけちと軽すぎやしねぇですかい?」

「当たり前だろバイロン。ここではお前が最若手だ」

「年齢は逆だけどね」

 俺の挨拶にバイロンこと重倉しげくら 雄二ゆうじが乗り、それにマイン(カーマイン)さんこと緋丹あけに 莉沙りささんが茶々を入れ、サラン(サラマンダー)こと莉沙さんの夫の緋丹あけに れんが言葉を重ねる。実にアットホームな空間だった。そのまま少し雑談した後、静が話を戻した。

「……それで、この男なんですけど」

 そう静が、俺が担いでいる男性を指差しながら言うと、談笑していた人たちは、まじめな顔に戻り話を頷くことで促した。

「今回の魔浄教団の教団員なんですけど、聴取任せて良いでしょうか?」

「それについては構わないよ。それが僕達の仕事だからね。でもその前に聞かせてほしい」

 そう言われ、俺達は瑠璃先輩を中心に説明をした。(その間に、重倉によって魔浄教団員は地下に運ばれた)最後まで話をし終わると、俺たち全員は苛ついていた。関係のない人を被害に巻き込み、それを無視し演説を開始する。常人ではまずありえない、と思うだろう。こんなことで教団員は増えるのだろうか?……実際少しずつだが勢力を伸ばしている魔浄教団には着々と教団員が入っている。なんらか、入る要因があるのだろう。そこら辺もついでに調べてもらおう。俺はそう思い、言葉にする。

「サランさん。魔浄教団の周辺についての情報も欲しいのですが、調べてもらえますか?」

「それならもう大体は資料にまとめてある。マイン」

「はい」

 流石さすがは情報収集の専門集団。用意が良い。そう思いながら、俺は莉沙さんからファイリングされた資料を受け取る。俺はそのファイルを開き一枚ずつ、しっかりと読む。後ろから瑠璃先輩と静がのぞき込んでいることに目もくれず、じっくりと読むこと数分。俺はファイルと閉じ莉沙さんへと返す。すると、後ろからブーイングが入った。

「誠読むの速いわよ!私半分ぐらいしか読んでないのにページめくっちゃうし」

 おっと、それは失礼なことをしてしまった。なので、俺は簡単に説明をすることにした。

「要点と気になったであろうことをピックアップして言いますと」

「うん」

「まず、魔浄教団の背後組織、と言いますか原型の組織はあの『(せい)(てん)教会(きょうかい)』です」

「聖天教会ってあの有名な?」

「はい。正式名称を『聖天せいてん信仰しんこう教会きょうかい』。魔を浄化する聖天と呼ばれる存在を信仰する協会ですね」

 俺の話に、瑠璃先輩は驚きを見せた。それもそうだ。聖天教会は、隔壁国未来のトップクラスに信仰されている宗教である。他の宗教よりも群を抜いて信者数が多いことや、平和を求める宗教としてでも有名だ。

「あの宗教は暴力による解決をしない集団じゃないかしら。たしか『聖天』を信仰し『聖使せいし』と言う聖天の使いを信奉する事で聖天に力を与え、いつか訪れる『大戦の日』に聖使に選ばれた魔浄人まじょうとと言う魔を浄化できる人達と共に聖使が魔獣と戦う……みたいな内容だったわよね、確か。それまでは平和に過ごすんじゃなかったかしら?」

 そう俺に聞くと、横から重倉が言う。

「そうです。聖天教会は『大戦の日』の前を『戦前の日』と言って、英気を養う日になっています。なので戦いなどはせず、日常生活を行い、聖天を信仰、聖使を信奉する。それ以外はしないはずです」

「でも、それだけでは気持ちがおさまらない者も大勢いる」

 重倉の言葉に、蓮さんが言葉を重ねる。

「聖天協会の中には、聖天に助けを乞い、信仰する人だけではなく、魔獣を憎み、恨み、でも自分ではどうしようもないから、聖天に倒してもらおうと信仰する人もいる。それ自体は悪い事ではないが、そうした人達の派閥はばつが、聖天や聖使よりも先にまずは隔壁国内の魔獣を滅ぼそうと言う過激思考になる場合がある。それが魔浄教団だ」

「簡単に言うと、聖天教会から分裂した過激思想の集団が、魔浄教団です」

 そして、男衆の説明を莉沙さんが簡潔にまとめた。瑠璃先輩は、最後の言葉で理解したように頷く。

「なるほど、と言うことは同じ思想の聖天教会員が、次々と魔浄教団に入って行っているから、団員か増えているのね」

 瑠璃先輩の言葉に俺は頷いた。

「他には大した情報はないんですよねぇ~。創設者や実行犯、資金源や本拠点などはあいつから聞きましょう」

 重倉は気怠そうに、だが意思のある目をし、そう言った。それに緋丹夫妻は頷く。仕事モードに入った三人を見て、俺達は一歩下がり言った。

「それでは皆さん、よろしくお願いします」

「任せてくれ」

 蓮さんの言葉を聞き、俺達は一礼し、静かに扉から出た。

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