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第六十七話 川蝉の便り

 俺は学校が終わると紫穂と少し細かい予定組みをし、その後一旦家へ帰り私服に着替え、今は広場外周の木々を眺めながら、広場の入り口へ向かっていた。

「誠さん」

 俺が木の種類を何となく当てながら歩いていると、後ろから声をかけられた。後ろを振り向くと、そこには私服に着替えた静と静の機微に巻き付いた分離機生命体、オコジョの『撓夏こうか』がいた。俺はまだ話すことはないので、「よっ」と一声だけかけて再び歩き出す。静も特に言うことがないのか、斜め後ろをついてくる。そしてやっと噴水公園の入り口に着いたその時、一羽の鳥……川蝉が、何処からともなくこちらに飛んできた。そしてこの状況で、聞き慣れた声が川蝉から聞こえた。

「“通達。西区の中央噴水広場にて、魔獣汚染まじゅうおせん浄化解放教団じょうかかいほうきょうだんの、教団員十三名による噴水爆破事件が発生。怪我人けがにんは確認できるところ一名。現在一人の川蝉(・・・・・)が、魔浄教団員と交戦中とのこと。至急応援に向かわれたし”」

「「了解」」

 俺達は、真偽や詳細を聞くこと無く、走り始める。あの川蝉は織曖さんの分離寄生命体。通達の声は結社の通信係。それだけで真偽の必要はなく、追加の情報がなく、質疑応答もない。そして至急と言う命令。それで、時間がないこと、必要な情報は言い終わったことが理解できたからだ。

「天風っ」

「撓夏っ」

俺達は自身の分離機生命体を形態変殻させ、太刀とクロスボウをそれぞれ持った。そのことを確認しながら、俺達は走り向かいながら目を合わせ、目配せで行動に移る。静は素早く噴水広場周辺の木々に身を隠しつつ、遠距離の魔浄教団員を狙う。そして俺は、ようやく視界に入った瑠璃先輩(・・・・)と魔浄教団員たちに向かい走る。そして太刀を抜刀し、並びに詠唱を開始する。

「『其の隠姿いんし鋭硬えいこうなる風の太刀、鋭刃硬風えいばこうふう』」

 そう簡位術式かんいじゅつしきで詠唱すると、八振りの風の太刀が出現する。(本来なら、一振りしか現れないが、八振りのイメージで詠唱し、強引に八振りにしている。)そして合計九振りの太刀は、瑠璃先輩を目掛け振りかざされる様々な武器を、一糸乱れぬ動きで下から斬り上げるように防ぐ。『新藤悠漸流剣術奧伝しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつおうでん九重ここのえ』である。

「先輩から!は、な、れ、ろーー!」

 俺は力を込め、魔浄教団員の武器を切り上げで弾き飛ばし、がら空きとなった胸部に九振りの太刀を突き刺す。

「ゴボァ!」

 俺の腕に感じる肉を貫く感触とともに、九人全ての魔浄教団員の口や胸部から、ドクドクと血液が流れだす。

「われら、が、ま、じょうとに、えいこう、あ、れ……」

魔浄教団員はもがき苦しむが、魔浄教団の全員がそう一言いうと、すぐにだらりと力を失う。それを確認し、それと同じタイミングで『鋭刃硬風えいばこうふう』の効果が切れ、八人の魔浄教団員が地面にドサッと叩きつけられる。それを見、自身が握っている太刀に刺さっている魔浄教団員も、地面に叩きつける。動く者はなく、静かに胸部から血液が流れ出ていた。少し遠くを見ると、遠距離担当(のはず)の魔浄教団員は、一人を残し全員射抜かれ、地に伏していた。その残り一人の泥に四肢をからめとられ、身動きが出来ずになっており、おまけに気絶している。いる。あれは『中位術式ちゅういじゅつしき泥蛇這絡でいじゃしゃらく』だろう。静も戦闘を終わらせたようだ。それを確認した俺は、血のついていない、太刀を持っていない左手を瑠璃先輩に差し伸べる。

「大丈夫ですか、瑠璃先輩」 

 瑠璃先輩は俺の手をしっかりと握り、すくっと立ち上がる。少し顔が赤いが、動きや見た目を見る限り怪我は無さそうだ。

「あ、ありがとう、誠」

「いえ、こちらこそ少し遅れました」 

 瑠璃先輩の小声の礼に、俺は返答する。そんなことをしていると、静が素早くやって来る。

「誠さん。警察が来た」

「来たか」と俺は言い、手を振るうと、俺たち三人から血が剥がれる。『下位術式かいいじゅつしき剥染無痕はくせんむこん』を無詠唱で行ったからだ。目に見える、ここに居た証拠は残らないだろう。ほかの人は逃げているし、会話はすべて小声で、名前を聞かれたこともないだろう。

「あの……」

 そんなことを悠々に考えていると、横から俺達に声がかかった。居ることは知っていたので、落ち着いてそちらを向くと、男女の大人が二人、俺や静をチラチラと見ながら、瑠璃先輩の方を向いていた。

「息子を助けていただき、ありがとうございました!」

 そう言って二人は頭を大きく下げる。瑠璃先輩は少しオドオドしながらも、しっかりと返答する。

「私は応急処置をしただけですので。あの状態ではまだ助かったとは言えません。ちゃんと正規のお医者さんに診てもらってください。そうすればあの腕もどうにかなるはずです」

「本当ですか!」

 瑠璃先輩の言葉に二人は、驚きと喜びを混ぜ合わせたような声音と表情をする。そんな二人を瑠璃先輩は優しい瞳で見つめながら、言葉を連ねる。

「えぇ。中西区中央病院に再生治療専門の医師がいますので、その人に治療をしてもらえれば、元通りとはいかないまでも、完治はするはずです」

 そう話していると、二人は目に涙を浮かべ嬉しそうに話に耳を傾ける。そして話が終わると、二人はもう一度頭を下げ、「ありがとうございます」と言った。その姿を眺めていると、後ろにいた静が俺の裾を引く。

「誠さん、そろそろ行かないと……」

「あぁ、そうだな」

 二人と瑠璃先輩の話を聞いていたのをやめ、環境音に耳を傾けると、もう警察や救急医と思わしき声が、うっすらと聞こえるまでの距離になっていた。そのため俺は、何故かいまだに繋いだままであった瑠璃先輩の手を少し引き、撤退を促す。

「……では、そろそろ失礼します」

 瑠璃先輩の言葉に、二人は目をパチクリさせる。きっと警察や救急が来るまでともにいるものと思っていたのだろう。だが二人も、血を流して倒れる魔浄教団員を見てある程度理解したようで、ゆっくりと頷いた。それを確認した俺達は、無詠唱で『中位術式ちゅういじゅつしき風躍ふうやく』を発動させ、跳躍でこの場から離れようとする。その時、二人は耐えかねたように言葉を発す。

「あの!聞いてはいけないのかもしれませんが……貴方方の名前を教えていただけませんか?」

 その言葉の返答を、瑠璃先輩は隠すこと無く堂々と言う。

「私たち個人は名乗るほどの者ではありません。ですが、警察やその他いろいろな人に聞かれることもありましょう。その時はこういってください。『川蝉』、と。……それでは失礼します」

 瑠璃先輩は、そう言ってお辞儀の後に跳躍する。俺達もそれに(なら)い、お辞儀をした後に跳躍をした。(『泥蛇這絡でいじゃしゃらく』で束縛しておいた魔浄教団員を引っ手繰りながら)二人の男女は俺たちの姿が見えなくなるまで、こちらに向かい、頭を下げ続けていた。

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