第六十四話 偶然の産物
「それで、どうするの?」
俺と同じ教室のナギット、本名野賀地 静と一緒に、休み時間、教室の一角で作戦会議をしていた。
「どうするって言われてもなぁ~……」
俺はそう言って頭を掻いた。なぜ頭を掻いたのか。理由は簡単だ。どうにか会場に入らなければならないのだが、その方法が思いつかないのである。この会場は完全招待制で、国の上層部へ物言いもできるほどの地位にいるらしい織曖さんでも、面倒くさいほどだそうだ。……招待状を貰おうと思えば貰えるそうだが、手間がかかり、色々面倒だからと、織曖さんからはもらえなかった。……俺達に仕事をさせる気があるのだろうか?
「正面突破する?」
静が物騒且つ無理のあることを言ってきた。こいつ考えてないだろ。
「無理だろ。と言うか駄目だろ」
「じゃあ潜入?」
「まぁ、そんな所かなぁ……もうちょっと正攻法で入りたかったんだけどなぁ~」
そんなことを話していると、背後から声をかけられた。
「誠くんと、静ちゃん何の話をしているんですか?」
俺達が後ろを向くと、そこには何を話しているのかを興味深そうにしている紫穂がいた。
「紫穂か……ちょっとなー」
俺はそう言いつつ静に視線を送る。静が無言で頷く。まぁ確かに、聞かれてまずは内容ではないか。
「松川利斎って言う画家がいるだろう?その画家が新しい絵を出すみたいなんだけど、その公開が招待者限定の社交界らしくてさ。どうしようかって思って話していた所」
紫穂は、俺の言葉に興味を抱いたように言う。
「誠くんって絵とか興味あったっけ?」
「ないことはないけどな。今回は静と俺の知り合いが見に行きたかったみたいでな。まぁそれは難しそうだが……」
俺がそう言うと、紫穂は少し悩んだように目線を下げると、考えが決まり、決心したような表情で、顔を上げる。
「それって五月二十四日のだよね?」
「あぁ……」
俺は、紫穂が細かい日程を知っていたことに、松川利斎の知名度と人気を窺い知っていた時、紫穂はとんでもないことを言った。
「その会場、いけるよ?」
一瞬、思考が停止した。正攻法では入れないと思っていたが、存在していたようだ。
「……ちなみに、どうやって?」
思考停止が俺より速く解けた静が重要な質問をした。そうだどうやって入ること尾が出来るのだろう。招待状を人数分用意できるというのだろうか?そう言うと、紫穂は照れ臭げに言った。
「私の家の招待状は、人数に上限がないんだ。だからって沢山行く訳じゃないけどね」
招待状限定の会場の招待状が人数無制限とはこれ如何に。……まぁおいしい話なので突っ込み入れないが。
「本当に良いのか?そういうのって細かい検査とかで爪弾きされたりしないのか?」
俺が心配事を話すと、紫穂は少し顔を暗げに話した。
「ほら、私の家って一様、ある程度融通の利く貴族だからさ。検査とかは素通り出来るんだよね。あとはお父様とお母様が何て言うかだけど……今回はお兄様が同行だから大丈夫なはずよ」
彼女の家は、この隔壁国未来で知らない人はいないほどの名家なのだ。そのせいで両親の教育も厳しいと聞く。あまり迷惑や面倒をかけさせたくはないが、これほど堅実な方法もなさそうなので、ここは紫穂の優しさに甘えさせてもらおう。
「そうか、ありがとう。じゃあそうしてもらえるか?ごめんな、迷惑かけちゃって」
「う、ううん!良いよ、そのぐらい。むしろ誠くんにはいつもお世話になってるから、そのお礼みたいなものだしっ!そっそういえば人数は?先に聞いておきたいな」
俺の言葉に、紫穂はあわあわと両手を振り、言い訳のように言葉を捲し立てる。
「あ、あぁ。俺も含めて四人だ」
「分かった四人だね。お兄様に伝えておくわ」
「ありがとう。助かるよ」
紫穂はそう言うと、自分の机へと戻っていった。
「……難題が一個解決したね」
「……あぁ」
静の言葉に俺は同意する。ほかにも、松川利斎をどうやって魔浄教団と関係するかを調べるかなどの問題はあるものの、これで命令の基礎固めの準備は完了した。
「あとはこのことをみんなに伝えて、服とかがあれば会場に入るまでは完璧だね」
「あぁ。伝うことと服に関しては、今日瑠璃先輩と会う約束をしてるから、その時に情報を伝えて、そのついでに服を買おうかと思ってるんだけど……どうだ?今日時間があれば今回のメンバーで服を買いに行かないか?」
俺がそう言うと、静は少し思案するように目を瞑った後、ゆっくりと目を開けて言った。
「大丈夫、空いてるわ。行きましょう。それはそうと誠さん。瑠璃さんに伝えるのは良いけど、あの、なんだっけ?誠さんと戦った子」
「朝雲将太」
「そう、朝雲将太。あの子にはどう伝えるの?」
と、静は質問をしてきた。なので俺は、地面を指しながら言った。
「それなら今からでも伝えに行ける。朝雲はこの学校の三年だからな」
「へぇ……」
俺の言葉に静は、あんな奴いたっけと言った表情で声を漏らす。そんな静に俺は、「昼休みにでも行くか」と言い、授業開始間近となり先生も入ってきたので、自身の席へと戻った。




