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第六十一話 川蝉の会合

 時間は少し戻り……俺が集合場所に着くと、警備兵と目があった。既に見知った仲であるが、警備兵は義務的な挨拶を行う。

「何のご用かな?」

「緊急で呼び出しがかかったから来た」

「うむ、では始めさせてもらう。“川蝉は?”」

「“風纏い、大空を飛ぶ”」

「“水辺に停まるは”」

「“未来に安寧訪れた後“」

 と、合言葉を言いながら、差し出された紙に持参のペンで名前を書く。それを確認して警備兵は頷き、口調をいつものものに戻した。

「少しぎりぎりだなエルブ(・・・)

オーカー(・・・・)悪いな、待たせた」

 オーカーは、俺のことをコードネームで呼び俺の反省の言葉に「まぁ良いさ」と笑いながら言い、点呼の任を解かれて、俺と一緒に室内広場へ入った。室内広場へ入ると、オーカーは「点呼の報告をしてくる」と奥に向かった。そしてオーカーと入れ違うように、和義が向かってきた。

「遅かったな。エルブ」

「アガットか。武器の手入れをしていたら、時間がかなり経っててな~」

 アガットこと和義は、俺の言葉に苦笑しながら言葉を返そうとするが、その前に、大きな溜息とともに新たな会話参加者が現れた。

「はぁ~……エルブ!時間はもっと計画的に!そうしないとまた織曖さんにお小言を言われるわよ」

「シアン先輩」

 そこには、セミロングの青髪をなびかせた十歳ほどの少女が立っていた。彼女の名前は凪園なぎぞの 瑠璃るり。コードネームをシアンと言い、俺の教育係であった先輩でもある。ちなみに教育は少し前に終わっている。瑠璃先輩は量の腰に手を置いて、言葉を続けた。「エルブ、聞いてるの!前回はかれこれ二時間ぐらいお小言くらったのよ!」

 瑠璃先輩の憤慨ふんがいといった様子で、俺に言った。俺はその言葉に反論できず、誤魔化すように言った。

「えっと、シアン先輩。いつも叱ってくれてありがとうございます。前回もシアン先輩は関係がなかったのに、最後まで一緒に居てくださって……本当にありがとうございます」

 俺は、誤魔化しではあるが本心でもあることを伝えると、瑠璃先輩はほんのりと頬を紅く染め、照れるように言った。

「ま、まぁ私はあなたの教育係なのですし、あっ当たり前よ!」

 羞恥心を誤魔化すように、瑠璃先輩は言葉を大声捲し立てる。周囲は瑠璃先輩のことを、温かい目で見る。それに気づいた瑠璃先輩はさらに耳まで真っ赤にして顔を伏せる。話を逸らすことに成功した俺は、内心でガッツポーズをしていたが、さすがに瑠璃先輩が可哀想になってきたので、テーブルの上に置いてあった飲み物を取り、瑠璃先輩に渡す。瑠璃先輩は、まるで何事もなかったかのようにその飲み物を受け取る。そして和義が飲み物を持っていることを確認すると、俺自身も飲み物を持ち、三人でコップを少し前に掲げ、そのあとゆっくりと飲み物を喉に流す。そして半分ほど飲んだ後、俺は気になっていたことを瑠璃先輩に聞いてみることにした。

「シアン先輩。今日は何のための緊急集会なのか、知っていますか?」

 俺の質問に瑠璃先輩は大きく頭を振った。

「私も知らないわ。一体何がったのかしら?」

 俺と和義、瑠璃先輩はそろって首をかしげていると、会場の扉が開き、新たな人が入ってくる。最後の入場であった俺は、それが誰なのか分かってはいたが、他の人と同じく顔をそちらに向ける。そこには、予想通りの人物、織曖さんと、見知らぬ青年であった。俺達はまず織噯さんに会釈をし、体も顔も戻すが、視線は見知らぬ青年へと向けられていた。

「あの子は一体誰なのかしら?」

 瑠璃先輩は用心深く見つめる。

「もしかしたらあいつが今回緊急招集の理由なのか?」

「だとしたらただ者じゃないってことか……」

 俺と和義は青年に当たりをつける。その時青年の隣にいた織曖さんが周囲を見渡しながら声を上げる。

「エルブ!エルブはいるか!?」

「俺?」

 織曖さんの声に俺は驚く。瑠璃先輩は目を細めながら言う。

「エルブ。また何かしたの?」

「してませんよ……多分」

 俺は少し心配になりながら、手を上げて「ここにいます」と少し声を張り、歩きながら向かう。そして織曖さん達の前に着くと、織曖さんと青年に軽く会釈する。

「それで、どのような用向きで?」

 俺は織曖さんに質問する。しかし織曖さんは俺に目を向けず、青年の方を向く。そして俺の質問への回答も含む言葉を口にした。

「朝雲、紹介しよう。彼がお前教育係の先輩、エルブだ」

「「は?」」

 俺と青年はそろって素っ頓狂な声を上げた。俺は硬直しそうになる思考をどうにか正常に戻し、織曖さんへ質問する。

「えっと、織曖さん。教育係と言うと、俺にとってのシアン先輩のような事をしろと言うことですか?」

「まぁエルブにわかりやすく言うとそういうことだな。だが同じではなくて良い。エルブはエルブの教え方があるだろうからな?」

 冷静に状況を理解した俺は、焦った。

「で、でも俺はシアン先輩にから教育係を終了してもらったばかりですし」

「それはシアンの嘆願とエルブの延長依頼の影響だろう?実際はもうとうの昔にその期間は終わっている」

「ですが延長したのもシアン先輩が願ったのも俺が至らないからだったわけでして……」

「だがその期間も終わったということは、もう大丈夫なのだろう?他の物より長い期間教わったのなら教え方もわかるだろう。教育が終了したばかりなら、色々なこともうろ覚えではないだろう?しかもシアンが教えたのなら問題はないだろう」

 俺は反論も、織曖さんは的確に返答してくる。

「で、ですがっ――」

「私が決めたことにこれ以上の反論犯行は認めません。そむいた場合は、分かりますね?」

「……謹んで拝命します」

 後ろから、和義が「負けたな」と言ったのがかすかに聞こえた。その言葉に俺は苦虫を噛み潰したような表情になるが、織曖さんは満足したようで、頷く。その時、俺は敵意の視線を向けられ、瞬時にそちらを向く。そこには怒気を纏った青年がいた。俺が向いたのを青年が確認すると、大声で言った。

「お前!俺と勝負しろっ!」

「は?」

 青年の言葉に俺はまた素っ頓狂な言葉を発す。だがまた落ち着いて、周囲の反応を確認する。織曖さんは「ほぅ」と言ってにやける。そして和義含む大半の者は、良い余興だとばかりに丸テーブルをのかし始める。残りは我関せずえんと言った様子で俺達から遠ざかる。瑠璃先輩だけが茫然としていた。……どうやらまともな思考回路を持っているのは瑠璃先輩しかいない様だ。そう思いながら俺はどうすればいいかという視線を織曖さんに向ける。その視線に気づいた織曖さんは青年に話しかける。

「朝雲。なぜエルブと戦う?」

 織曖さんの質問に、青年は怒気を孕んだ言葉で返答する。

「こんな弱そうな男の下に着けと言われたら誰だってこう言いたくなるだろう!」

 青年の返答に織曖は「力量を計ることも出来ないのか」と嘆息を吐く。その態度と言葉に青年はより一層怒りを溜める。それを見て織曖さんはまた溜息を吐く。そして俺の方を向き言った。

「エルブ。一試合だけ付き合ってやれ」

「はぁ、了解です」

 俺は織曖さんの言葉にしぶしぶ了承した。了承を確認すると、織曖さんは目を少し細め、真剣に言った。

「だがつまらない試合は許さない。じゃないと朝雲も改心できないだろう。圧倒的な力の差を見せつけて完膚なきまでに叩き潰せ」

 織曖さんはにやりと笑う。その言葉を聞き、俺も少し笑いながら承諾する。

「と言うわけだ。相手の承諾も出た。戦うことを許可する。会場はここだ。アザリア、ナギット、ガーネット、防音の結界と物理と赤力防御結界を張れ。怪我を精神力ダメージに変換する結界は私が張る」

「「「「了解」」」」

 コードネームを呼ばれた者達は、詠唱をし、室内広場全体に防音結界、そして広場内部に四方三十メートルほどの物理赤力防御結界を張る。そして怪我変換の結界を織曖さんが張ると少し楽しそうに言った。

「さぁ準備は整った。それでは二人とも、結界内へ移動してくれ」

 その準備の良さに青年は動揺しながら、俺はあきれながら結界に入った。そして俺と青年は一定の距離を取る。そして数秒経つと、青年は帯刀していた柳葉刀を向き放つ。

「……雅華山流みやびかざんりゅうか」

 俺の呟きが青年にも聞こえたようで、体が硬直した。当たりだったようだ。雅華山流は、主に上位の貴族間で人気の流派である。戦うことより魅せることを重視したこの流派は洗練された動きではあるが、攻めの手が大きく欠けた武術だ。

「お前は抜かなくて良いのか?」

 俺がそう思考していると、青年は訝しげな顔で言ってきたが、俺は天風を向く気がないので「お気になさらず」と返した。そのタイミングで、織噯さんがルールを説明する。

「ルールを言う。勝敗は相手が降参したら。方法は死なない程度で何をしてもかまわない。最悪死んでもどうにかする。以上だ。それでは試合始め!」

 と、織曖さんの手抜きな説明とともに、俺と青年の試合が始まった。

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