第六十話 貴族の矜持【将太視点】
集合場所は、西の内門最寄りの室内広場であった。その集合会場は、一見ではわからないものの、とても密な警備がされており、侵入者は入ろうとすら思えないだろう。その会場の警備に織曖さんは顔パスで通り抜ける。そこにはサッカーコート一面分ほどの大きさはある会場があり、いくつかの丸テーブルが置いてあって、その上に飲食品が置かれていた。そしてその飲食品をつまみながら老若男女様々な人が表情豊富に談笑していた。だが、織曖さんが会場内に入ると、全員が一斉に織曖さんの方を向き、軽く会釈をし、また談笑に戻った。その時、織曖さんがほくそ笑んで言った。
「なぁ朝雲、気が付いているか?今ここに居るほぼ全員が初顔のお前を見定めようとしている」
「えっ?」
全く気付かなかった。確かにそう言われてみると、いくつか視線のような感覚を感じる気がしないでもない。俺は、それだけで実力の差を感じてしまった。俺は小さい頃から武術と赤力術式、両方で優秀と周りからちやほやされて育ってきた。だから今の視線は俺にとって衝撃的であった。相手からの敵意や疑心疑惑の目は、武術をたしなむもの感じ取るのは簡単だと思っていた。なぜなら俺は優秀だから。だがその優秀の言葉は、さっきの思い違い含め、今の視線で傷がついた。だがそれは貴族のプライドが許さない。俺は栄光ある朝雲家の次期当主として生を受け、今までも貴族然として過ごしてきた。そのために事実を嘘で塗りたくったことは何度もある。その後戻りできない過去と、武術者の矜持が、優秀を傷つけることを許さなかった。“この傷口をどうにか塞がなくては”心の豪炎再び猛ってきたその時、織曖さんがある人の名前を呼んだ。
「エルブ!エルブはいるか!?」
「ここにいます」
織曖の声に反応したものは、全身に黒を身に纏った、俺よりも年下に見える青年であった。その青年は話していた人達から離れ、織曖さんと俺のいる方向に歩く。そして織曖さんの前に着くと、軽く会釈し、呼んだ目的を聞いた。すると織曖さんはその回答に応えずこちらを向いた。
「朝雲、紹介しよう。彼がお前教育係の先輩、エルブだ」
「「は?」」
それが青年への答えであった。俺と青年は固まる。何をいっているのかさっぱりといった様子である。だが青年はすぐに硬直から溶け、わたわたと理由を聞いたりはぐらかしている。俺は、動きが鈍くなっている脳みそで、一つの思考に思い当たった。“馬鹿にされている”のだと。こんな年下で覇気もない青年の下に着けなど、馬鹿にしているとしか思えなかった。だから俺は、挨拶よりも先に、青年にこう言った。
「お前!俺と勝負しろっ!」




