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第五十四話 貴族令嬢と騎士

 彩芽の家は、俺の家からさほど遠くない位置に建っていた。彩芽が塀の外のインターホンを押すと、執事しつじおぼしき男性が対応し、彩芽だと分かると、傍の従者や兵士がすぐに門が開けていた。

「お帰りなさいませ、彩芽様」

 と、うやうやしく礼をする。その後、俺達は屋敷の中に入る。そして、屋敷の中を向かい角を曲がると、目の前には複数の従者じゅうしゃはべらせながら痩せ気味の中年男性が立っていた。

「お父さん!」

 中年男性と目が合った。彩芽は嬉しそうに近づく。その彩芽を見ながら迎える男は、椎名しいな 彩斗あやとと言う貴族の椎名家現当主であり、彩芽の父親でもある人物だ。彩芽と彩斗様・・・は抱き合い、彩斗様は彩芽をぐるぐるしていた。俺達はその状況に置いていかれ、その場で硬直していると、落ち着いた彩斗様がこちらに振り向いて歩いてくる。俺は慌てて片膝を立てる。

「やぁ、久し振りだな、誠くん。そして初めまして、刃境千姫くん。私は椎名家現当主、彩斗だ。よろしく頼む」

 彩斗様が自らお辞儀をしたことに驚き、目を見張る。

「どうしたの?お父さんから挨拶するなんて珍しいじゃない。いつも私が他の友達を紹介した時は全員の挨拶が終わるまで口すら開かなかったのに……」

 彩芽が珍しいものを見るように彩斗様を見る。そのことに彩斗様は大きく溜息ためいきいた。

「それは彩芽の話に言葉を挟むすきがないからなのだが……まぁその他にも、優秀なうちの騎士(・・・・・・・・)に練習試合とはいえ勝利した女の子だと聞いてね。少し興味が湧いたんだ、私の記憶だと誠くんは師匠以外何年も不敗だったからね」

 俺は、その言葉に深くこうべを垂れた。

「すみません。不徳ふとくいたす所です」

 そう言うと、彩斗様は爽やかに笑った。

「いやいや、君が悪いのではないよ。人間極めたものでも負けることぐらいあるさ。まぁ、負けたのがこんな可憐な同級生の女の子と言うのも気になるが……」

 その時チラリと彩芽の顔を彩斗様が見やる。彩芽は目で、“誠は女だからって手心を加えたわけじゃない”と訴えていた。俺はそれを目だけ動かしてみていた。俺はもちろん手加減などしなかったが本気でもなかった。なので彩芽の瞳に少し罪悪感を憶えたが、彩斗様の目が戻ろうとしていたので、視線を戻した。

「だけど誠くん?」

「はっ」

「次は負ける気、ないんだろう?」

 俺はその言葉にピクッっと震える。そしてそっと顔を上げると、彩斗様はふんわりと笑っていた。その笑みに俺は精悍せいかんな顔で返す。

「当たり前で御座います」

 俺の笑みの混ざった言葉に、彩斗様は満足げに微笑んだ。その光景を、千姫は不思議そうに見つめいていた。それに気づいた彩芽は、そう言えばと言った顔つきで説明した。

「あ、説明してなかったわね。誠って、と言うか新藤家はうちの従者兼武術師範みたいな感じなのよね」

 彩芽の説明を理解したようにしていたが、その後、俺と彩芽を見て、また不思議そうに首をかしげた。その目は俺に向いていて“従者があれで良いの?”と言っているようであった。すでに彩斗様からは離れ、彩芽の近くに寄っていた俺は、少し冷や汗をかきながら言う。

「まぁなんて言うか、彩芽とは幼馴染だからなのか主って言う感じがしないんだよな~。まぁ正式な場では敬語も態度も正すけどな」

 俺の説明に、千姫はやっと納得したようで、頷いた。のタイミングで彩斗様は話を進めた。

「彩芽、これから歓迎会の準備をするのだろう?それなら千姫くんは私が妻の下へ連れて行こう」

 彩斗様は、きっと俺たちの考えをどこかで察したようで、千姫を彩芽の母の下へと案内してくれるようだったので、俺達は彩斗様に千姫を任せ、歓迎会の準備を進めた。

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