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第五十二話 カーネーションと薙刀

 俺が昨日と同じ時間に起き、ランニングの準備をして玄関に向かうと、そこには彩芽がいた。

「あ、やっと来た~」

「悪い、待たせた」

 彩芽は、たまに突然、一緒に訓練をしているのだ。そして俺達は、寝ている千姫に聞こえないよう小さい声で話し、ゆっくりと外に出た。今回俺達は、いつものランニングコースから外れ、近くの花屋で花をピンクのカーネーションを買い、母の墓地へと向かった。

「母さん……」

 俺と彩芽は墓石を綺麗にした後、線香をあげ、静かに両手を合わせ、黙祷(もくとう)をする。俺は、母さんに母の日の話や、近況報告を行った。きっと、千姫の話で驚いていることだろう。その後、俺達はランニングを再開し、四十分ほどで帰ってきた。

「どうする?武術の方もやるか?」

 俺が彩芽に質問すると、彩芽は嬉しそうに「えぇ!」と頷いた。なので俺達は、裏の道場に向かう。そして道場の扉を開けると、木造特有の木の匂いが立ち込める。俺の好きな匂いである。

「彩芽はいつもので良いんだよな?」

 俺が彼女用に練習用の武器を取ろうとしながら聞くと、「うん」と言う声が聞こえたので、薙摘の形態変殻を酷似している薙刀なぎなたを手に取り、彩芽に渡す。彩芽はその薙刀の感覚を確認するように何度か振った後、俺と体協の位置に移動する。俺はその時には素振りを簡単に済ませていたので、いつでも試合が行えた。

「行くぞ彩芽」

「良いよ誠」

 二人は、お互いの武器を握り直し、相手を見据えて構えた。その時ちょうど、分針が十二をしめし、ゴーンと響く音がする。……それが試合開始の合図だった。俺は先制攻撃とばかりに右肩に刀を担ぎ、彩芽へ向かい駆ける。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、爆雷ばくらい』だ。彩芽はそれに対し、薙刀の刃を右下に置く。その間に俺は刀を振り下ろしていた。その時、彩芽は瞬く速度で薙刀を振る。その薙刀はしなり、曲線を美しく描き、俺の刀の右側面を叩く。『新藤悠漸流薙刀術中伝《しんどうゆうぜんりゅうなぎなたじゅつちゅうでん》、のぼごい』である。その攻撃で、俺の刀の軌道は逸れるが、強引に速度を殺し、不格好な鍔迫り合いが一瞬起こる。それもつかの間、俺は彩芽の力に刀を任せ、薙刀の刃をいなす。そして薙刀が力にのり床へ向かうのを意識の隅で確認しながら、俺は再び刀の柄に力を込め、彩芽へ向けて振り抜く。……否、振り抜こうとした。しかし俺の刀は、薙刀の柄に止められていた。彩芽は薙刀を回転させ、俺の刀へ、防御を間に合わせたのだ。だが、俺は薙刀の柄に刀が触れたまま突きを行おうとする。だが、それも彩芽が薙刀を高速回転させることで防御する。『新藤悠漸流薙刀術中伝《しんどうゆうぜんりゅうなぎなたじゅつちゅうでん》、回盾かいじゅん』だ。そして俺が、防御をされ身を引く前に、彩芽は薙刀を回転させながら前へ振る。『新藤悠漸流薙刀術中伝《しんどうゆうぜんりゅうなぎなたじゅつちゅうでん》、回刃かいば』だ。俺はそれを弾いて回避し、薙刀の間合いの外に出る。その一連の動作に彩芽は頬を膨らます。

「誠、もうちょっと力入れてよ!練習にならないじゃない!」

 彩芽の非難を俺は苦笑いで受け止める。

「て言ってもここはただの道場だからなぁ。俺達が本気出したら紙屑同様かみくずどうようだろ?」

「むぅ……そうだけどー」

 なおも彩芽は気に食わないのか、目で反論をする。それを俺は受け止め、代案を用意した。

「じゃあこの道場が壊れない程度に本気と言うことで。あと、赤力術式は攻撃で使うと簡単にものを壊すからなしな」

「了解っ!」

 俺の言葉に彩芽は元気よく頷き、再度薙刀を構える。そして俺は、刀を壁に掛けてあった鞘を取りしまう。そして、彩芽を眼前でとらえると、それと同時に外から鳥が羽ばたく音と、鳥の影が道場に映る。その影が、彩芽にかかり、瞳孔が少し開く。その瞬間、俺は走る。彩芽は、光を少し多く感受し、俺の姿が霞んだと思ったら、すぐ近くに俺が移動していたであろう。『新藤悠漸流動術中伝《しんどうゆうぜんりゅうどうじゅつちゅうでん》、幻走げんそう』である。足音を少なくし、飛ぶように駆ける。彩芽はそれをぎりぎり捉えると、小さな声で唱えた。

「『主護あるじまもるは風の壁、風陣ふうじん』」

 彩芽は高レベルの短さの簡易術式かんいじゅつしきを行い、薙刀を振ると、暴風が俺と彩芽を分かつように壁となる。その風の壁を、俺は山なりの抜刀で斬り裂く。『新藤悠漸流抜刀術中伝《しんどうゆうぜんりゅうばっとうじゅつちゅうでん》、風斬かざき』である。俺の刀が暴風を一薙ぎすると、風の壁は消滅した。俺は抜刀の威力を出来る限り殺さず、回転をかけて真上から振り下ろす。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、薙落ならく』だ。運動エネルギーを乗せた一撃は、彩芽に片根の横っ腹を叩かれて軌道をずらされる。今回は速度が速度なので急激に止めることはせず、床に触れない程度に角度を変えそのエネルギーも殺さず跳び、空中で体を横にし回転、そしてまた真上から振り落とした。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、杭旋こうせん』の応用である。彩芽は薙落を弾いた衝撃から回復しきっていなく、斬り上げで打ち合いにし対応するが、俺の刀に押されている。俺はしっかりと着地すると、不自然に左手をポケットに入れると、何も取りださず、次の行動に移る。それは力を緩め彩芽に斬り上らせると、刀を回転させ裏手で持ち腰を落とすように斬るという『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、 反逆払そざかばらい』を行う。彩芽は慌てて薙刀を水平にし、押すことで俺の刀を防御する。そしてその反動で距離は……開かなかった。俺が『幻走げんそう』を行い、音と気配を消して突進してきたのだ。そして、しっかりと右手に持ち直した刀を引き、彩芽の目の前で突く。彩芽は防御でバランスを崩していて、薙刀も両手で上え振り上げてしまっていたため、防げないと確信し、体を強引に捻り、回避を試みる。だが、奮闘もむなしく俺の刀は彩芽の鳩尾みぞおちに吸い込まれるように触れた。彩芽は激痛を覚悟する表情をするが、痛みはやってこず、ただ鳩尾に金属の感触がするだけであることを不審そうにしている。そのタイミングで俺は当てているだけ(・・・・・・・)だった刀を彩芽から離し、言う。

「良いんじゃないか?反応速度と、防御行動が迅速だった。あとは距離に関してだが、自分が対処の間に合う距離に持っていくのは良いが、至近距離に持ち込まれすぎだ。あれじゃあほかに副武器持っている敵に攻撃されかねん。対処できる距離を掴んだんなら、次は安全な距離を掴むことだな。仮にも貴族・・なんだから色々気を付けないとな」

 俺は左手でポケットの中から取り出した刃を丸くした短剣を取り出しつつ言った。そのことに彩芽は少しだけ顔を引くつかせた。俺はそのあと「まぁ一個人としての意見でしかないがな」と笑いながら言うと、彩芽は何秒か思考したように顔を俯かせるとおもむろに顔を上げ、俺の顔を見ると、彼女は笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。その後、俺達は改善のための訓練や、自主トレーニングを行った。

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