第五話 放課後
職員室から沈んだ顔で出てきた二人は反省文の用紙を持たされていた。
「美幸、友也、お疲れ」
俺は、そんな二人に温かい言葉を送る。
「お説教が短かったのがせめてもの救いだったけど、なんか短い時間に詰まっていた気がする……」
美幸は、そういって精神的に疲労した体を引きずるようにして歩き出したが、友也はぎりぎり反省用紙を落とさない程度に意識がもうろうとしている。相当凝縮された説教を受けたのだろう。
「おいっ友也!行くぞ!みんなも待ってる!」
俺は、友也の意識をこちら側に戻すべく、強めに背中を叩いた。友也はその衝撃で意識を取り戻し、覚束無い足で歩き出した。
「あ、誠くん。こっちは全員揃ったよ」
昇降口に着いた三人は、そこで待っていた数人の人物に呼び止められた。
「あぁ、紫穂。おまたせ」
「ううん、私たちも今揃った所」
「ん?そうなのか?」
俺は待たせていたと思っていたのだが、本当に今揃ったようなので少し意外だった。
「そーなのよ。私はすぐにでも行きたかったんだけど、こいつ、全然行きたがらないんだもん」
俺は紫穂から視線を外し、横で腰に片手をかけている彩芽に視線をやる。彩芽の横には、長く濃い黒髪を後ろに垂らしたクールな少年、麻霧 和義が、気怠そうな表情をして靴箱に寄り掛かっていた。
「俺、甘いのは嫌いなんだよ」
和義は、過去のいやな記憶を思い出したようで、甘ったるそうな表情をし、顔をゆがめた。
「それは、彩芽が何年か前に作ったクラブジャムンのことだろ?あれは好みがわかれる菓子だからな、俺は好きだったけど……」
俺はクラブジャムンの甘さを思い出しながら、そういった。
「そうよね!おいしいわよね!?」
俺にずずいとよる彩芽の必死さに、和義は少し顔を引きつらせながら、言葉を発した。
「たしか、反省組もあれ食べたよな?」
和義は、反省組こと、友也、美幸に話を振る。
「誰が反省組みよ!……まぁ、食べたわよ」
「おいしかったよね!?」
美幸が反論のあと、クラブジャムンの話をしたら、彩芽が食いつくように味の良さを聞いてきた。美幸は、少しの時間あっけにとられていたが、のちに声を発した。
「……えっと、まぁ嫌いではなかったわよ。なんていうか、甘くておいしいけどたくさんは食べられないというか……よくわかないわね」
美幸の言葉に彩芽は愕然としていたが、気をぎりぎりに保って、友也に振る。
「と、友也は私のお菓子どうだった!?」
友也は「ん~~」、と悩んだ後、言葉を発した。
「俺は……よくわからなかったな」
同じ言葉なのにこの意味合いの違いは何だと、友也と一人以外の全員が思っているであろう数秒の無言を経て、最初に口を切ったのは、紫穂に前のめりで凭れ掛り、意識を彼方へ飛ばしていた友也以外で意味の違いを感じなかったであろう唯一の人物(寝ていたから)、真十花だった。
「おなかすいた」
そのささやかな一言で全員が当初の目的を思い出し、靴箱から靴を取り出した。