第四十六話 お手洗いで億劫
俺は用を済まし、手を洗った後、手を拭きながらお手洗いから出ようとすると、二人の覆面男が立ち塞がっていた。俺がそれを訝しげに見ると、片側小太りの男が、驕り高ぶった態度で言った。
「おい坊主。悪いがここは通行止めなんだ。他を当たれ」
小太りな男の発言に俺は不審さを強めながら、返答した。
「ですがここの出入り口はないんだ。……どうやって出ろと?」
その言葉に小太りの男はニヤッと笑って言った。
「おいおい。さすがにもうなんとなくわかってるだろぅ?……ここを通すつもりはないってことだよ」
小太りの男はにやけ笑いをより強くし、戦闘態勢を取った。俺は、その光景を見ながら小太り男と距離を取りつつ、片方と違い無口な男に話を振った。
「なぁ、俺は一体何分ここに居ればいいんだ?」
無口な男は、俺の質問に「ハァ……」と溜息を吐き、渋々答えた。
「あー、お前が変な行動をとらなければ、大体十分ほどで終わる。が……行動しないつもりはないんだろう?」
そして無口の男は、ジャックナイフを取り出し構えた。俺は最後、戦闘姿勢を取りつつ聞いた。
「どうしてこんなことするんだ?」
俺の質問に二人は鼻で笑った。そして無口な男はこう言った。
「上の命令だからだ。これ以上は言えん」
そして小太りの男はこう言った。
「人を楽しくボコれて、それで金が入るからだよ!あとは薬漬けになって壊れた後かもしれんが、あんな上玉抱けるなんて最高じゃねぇか!」
その言葉を聞いて、俺はゆっくり呼吸をした。こいつらを片付けて、早く二人の元へ戻ろう。俺は両足の筋肉に力を込め、男らに向かって駆ける。時を同じくして、小太りの男も前へ動いた。この速度同士なら、衝突するのに、二秒もかからなかった。小太りの男は、大振りの右ストレートをしてきた。この速度のまま体を動かさなければ、顔面にクリーンヒットするであろう。なので俺は、突進速度を少し上げ、小太りの男のストレートを寸前で躱す。小太りの男は、俺が攻撃を避けた瞬間に、ストレートをフックへと変え、避けた後の俺を狙う。が、その攻撃が直撃する前に、右回し蹴りが当たり、小太りの男が壁に衝突する。『新藤悠漸流格闘術初伝《しんどうゆうぜんりゅうかくとうじゅつしょでん》、回脚』だ。その後、小太りの男は壁に凭れ掛かりながら、俺を蹴り押そうとしてきたが、俺はその足を躱し掴む。そして逆関節をきめる。小太りの男は苦痛を漏らし、そのタイミングで、左足で腹を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた小太りの男は、反対側の壁にぶつかり倒れ、動かなくなった。それを見ていた無口な男が、「チッ」と舌打ちをして、ジャックナイフを俺に向けながらにじり寄ってくる。俺が、ジャックナイフの対処に思考していると、ふと、ポケットの中にある異物に意識がいった。俺はそれに触れ、唱える。
「『それは、目視惑わす隠蔽の風也、朧風』『それは、天地逆らう風の破道也、風間道』」
と唱えると、それは透明になった。俺はそれを鋭く無口な男に投げる。それは、見えないが重力に逆らわず、まっすぐ無口な男の右手、つまりジャックナイフを持った方の手に刺さる。無口な男はギョッとして右手の甲を見る。そこには爪楊枝が深々と刺さっていた。無口な男は右手を痛覚で緩める。俺はそこをつき、右手を左足で蹴り上げた。すると、案の定ジャックナイフは宙を舞う。そして左足を戻す勢いを使い、右足で無口な男の顔面を叩き蹴る。無口な男は地に伏した。その後俺は、用具ロッカーから、ホースを取り出し男たちを拘束し、清掃中の立札をトイレ前に置いて、二人の元へ駆けた。