第四十四話 到着早々集客?
馬車で揺られること一時間ちょっと。
「やっと着いた~!」
彩芽は馬車を降りると、大きく伸びをしながら言った。俺と千姫も馬車から降り、軽く伸びをする。そして御者に運賃を渡し、礼を言って振り返って、三人でショッピングモールに入った。ショッピングモール内はとても広く、様々な店が軒を連ねていた。俺たちは、少々館内図とにらめっこをしつつ、二階の服屋に向かった。
「あぁ~この服かわいい~♪」
彩芽は目を輝かせて、服を手に取る。千姫もゆっくりではあったが、興味をしめしているように見える。俺は俺で、男性用の服を見るべく、二人に声をかけた後、服を見に行った。そしてそれぞれ服を見ること数十分……
「おーい。終わったか?」
俺が女性服の場所に行くと、人だかり……というより、遠巻きに二人組の女子を見ている人たちが、円のようなものを形成していた。そしてその二人組の女子とは、
「あ、誠!良いところに!」
もちろん、彩芽と千姫である。二人は、俺を見つけるとトコトコと向かってきて、俺の持っていた空の買い物かごに、服を何着か入れる。そしてテンションの高い彩芽は、声を上ずらせながら話した。
「誠、決めたわよ!服!千姫ちゃん何でも似合っちゃうから選ぶのが楽しかったわ!」
彩芽は、満足と幸福が混ざり合い、一種の興奮状態に陥っていた。
「相当エンジョイ……いや、エキサイトしていたようだな」
俺はあきれながらそう言うと、彩芽は「だって仕方ないじゃない」と千姫を蕩けた顔で見つめながら、続きを話した。
「だって何でも似合っちゃうんだもん。千姫ちゃん。かわいい服もかっこいい服も、大人っぽい服や子供っぽい服、堅苦しい服とかラフな服、清純な服から不純な服まで何でも似合っちゃって」
「いやどんな服着せてるんだよ」
というか不純な服って。……なるほど。どうして二人のことを周りの人がいていたのか、わかった気がする。つまり、彩芽は千姫を着せ替え人形の如く、服の取っ替え引っ替えを行っていたから、であろう。それは視線も集まるだろう。俺は大きくため息をつき、あきれながら言った。
「彩芽、落ち着け。少しはここが公衆の面前であることを思い出せ」
その言葉に、彩芽はポンッと顔がいつもの顔に戻り、そして周囲を確認し、周りの視線を意識した。その瞬間少し恥ずかしがりながらうつむき、目だけ動かして千姫のほうを見、謝った。
「ごめんね、千姫ちゃん。私、ちょっと我を忘れてたや♪」
羞恥はしたが、反省はしていない様だ。俺は、うつむいた彩芽の頭を軽く小突き、「反省しろ」と言うと、今度は反省した声音で、「ごめんなさい」と言った。
「じゃあ、これ買って次の場所行くぞ」
「はーい」
「はい」
俺の言葉に、彩芽と千姫は答え、三人で、レジへ向かった。レジの店員は、ニコニコと営業スマイルで買い物かごの服をレジに通していく。俺は店員に話しかける。
「すみません。知り合いがご迷惑をおかけしてしまって」
俺の言葉に店員さんは「いえいえ、そんなことないですよ」と言った。俺はその言葉の意味がよくわからなかったが、店員さんが続けた言葉で、意味を理解した。
「お二人は、別段大騒ぎなされていたわけではないので、迷惑と言うほどのことではありません。それに、お美しいお二人が試着を沢山なさったことで……すみません下世話な話になってしまうのですが、集客効果がありまして……」
なるほど。二人が試着しまくっているのを見た人たちが、その試着している服に興味を持った。とかそんな話か。まぁなんにしろ、
「迷惑でないならよかったです」
「はい。むしろもっと試着してほしいぐらいです。先ほどお二人が試着された服の半分以上が、他のお客様がご購入なされました」
とんでもない集客効果だ。広告代はいくらだろうか。などと考えているうちに、全て品物がレジを通った。
「三十八点で合計、四十二万八千円です」
「たっ……」
高っ!高すぎやしないか?絶句する俺の横では、彩芽は軽快に会計を済ませていく。
「ありがとうございましたー」
会計が終了した彩芽は、服を店員に渡し、店を出る。
「今日の十九時~二十時の間に届くって」
どうやら俺の思考が停止していた間に、宅配の手続きまで済ませていたらしい。俺は、そう考えているうちに思考が回復し、聞いてみることにした。
「なぁ彩芽。服を買う時って、大体あんな感じなのか?」
「ううん。さすがにそんなわけないよ~。今回は服を沢山買ったからね。高い服もいくつかあったし。まぁ女子の買い物なんてこんなものよ、きっと」
「へー……」
大変だな。女子って。そう深く考えた俺は、二人で、次の目的地へと向かった。




