第四十話 試作型剣術
俺は抜刀術の構えでくそじじぃを捉える。そして詠唱を始めた。
「『突貫せよ、この身、この得物共なりて、風纏い、大地を蹴りて、いざ跳び行かん、中位術式、貫風』」
そう素早く唱えると、体の周囲に風がまとわりついてきた。俺はそれを確認し、前進する。すると通常の何倍もの速度でくそじじぃに突進する。くそじじぃは、そのままの速度で突進してくるだろうと思っているはずだ。だが俺は、抜刀の間合いぎりぎり内で急停止し、後方に跳ぶ。そして運動エネルギーを利用して抜刀を行う。そして今回は、『貫風』の風も利用して、腕がはち切れんばかりの抜刀を行った。『新藤悠漸流抜刀術中伝《しんどうゆうぜんりゅうばっとうじゅつちゅうでん》、引疾風』だがくそじじぃはギリギリのところで防御ではなく受け流した。俺はそれに少し驚いたともに面白いとも思った。そして次の行動に移る。抜刀と貫風の力を利用して回転をし、斬り払う。それをくそじじぃは後方に回避して避けるが、その次に運動エネルギーそのまま、斬り払いの刀を右腕を振ることで一回転させ、前方に跳んで力任せに振り下ろす。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、薙落』だ。
「ッ!」
くそじじぃはその攻撃を鉄剣で防御すると、鉄剣はおおきくひしゃげる。するとくそじじぃがニヤッと笑い、言った。
「考えは良いが、動きにムラとスキが多すぎて、次に何の攻撃をし、どういう隙が出来るかが丸わかりじゃ。……威力は申し分ないのじゃから、あとはどうその攻撃を速くつなげるかじゃのぅ」
……あっさりと見抜かれてしまった。出来ればどうすれば良いか教えてほしいのだが、まぁ教えてはくれないだろう。少し考えはあるので別にいいのだが……。
「……誠」
そのとき、この空気を割るように玄関の扉を開ける音と、少女の声が聞こえた。
「千姫か、おはよう」
俺は道場の玄関を開けた少女、刃境千姫に挨拶をする。くそじじぃに紹介することもかねて。
「ふむ。お嬢ちゃんが刃境千姫か……」
くそじじぃは千姫のことを集中して眺める。俺が強いと思った相手を確認しているのだろう。その行為に千姫は不審そうな目をし、「誠、この人は?」と聞いてきた。まぁ当たり前だろう。初めてあった人にここまで真剣に視られたら誰だって不審がるだろう。
「じじぃ、やめろ。不審がってるだろ。千姫、このじじぃは新藤政宗。俺の叔父で、武術の師匠だ」
俺の言葉に、千姫は「あなたが……」と言って礼儀正しくする。
「政宗様、共同生活の件、ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそじゃよお嬢ちゃん。こちらも、こやつとここで、これから先切磋琢磨してもらえると助かる。こやつも自分が強いと思った相手が近くにいると、意欲がより湧くじゃろう」
……まぁ否定はしないが。だからこうやってくそじじぃに稽古つけてもらってるわけだし。
「これからもよろしく頼むよ」
「はい。頑張ります」
千姫はくそじじぃにそう言ってお辞儀をした。そのことに、くそじじぃは「良い娘じゃの。誠の所に置くのがもったいないぐらいじゃ」と言って、ニカッと笑った。言葉を俺は気にしなかったことにして、千姫に話しかけた。
「そういえば、千姫。もお彩芽は起きているのか?」
俺の言葉に、千姫は「今料理作ってる」と言った。その言葉に俺は少し悩み、くそじじぃに質問をした。
「なぁくそじじぃ。朝ごはん食べてくか?」
すると、くそじじぃは少し笑って返事をした。
「ほぉ、彩芽嬢の朝飯か。なんとも羨ましいのか良かったのかわからんが、これから用事があってな。ここらで失礼させてもらう。誠、がんばれよ」
「おぅ。まかせろじじぃ」
その後、くそじじぃは千姫にお辞儀をし、去っていった。