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第三十九話 突然の来訪者

 朝八時。

「っ!……ハァ!」

 俺は刀を振っていた。新藤悠漸流剣術しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつの連続技で、自分の甘い箇所を再定義しているのである。体を動かしながら考えると、改善点が出てくる出てくる。……それは悲しい限りなのだが。そう思いながら集中を解いた瞬間、ガラガラッと乱暴に玄関の扉を開ける音が聞こえた。素早く振り返ると、そこには白いひげを多くはやした白髪の老人だった。俺はその人物を知っていた。……というか身近な人間だった。

「くそじじぃっ!何でここに!」

「誰がくそじじぃじゃ!ばか者!」

 俺が不意に発した暴言に、くそじじぃこと新藤しんどう 政宗まさむねは《《一切使っていない》》杖を使い、叩きかかってきた。俺はそれを反射的に防ごうとするが、「甘いわ!」の一言とともに振り下ろされた杖が速度を上げ、俺が防御しようと動かした刀よりも早く俺の頭部に追突する。

「ッ~~!」

 俺は激痛にもだえ転がる。それを見ているくそじじぃは「ワハハハハ!」と笑っている。ムカついて仕方がなかったが、痛さがあまりにも痛かったもので、数分の間くそじじぃの大笑いを許した。そして数分後。

「ってててて……イッタイな~!なにするんだくそ……」

「……」

 くそじじぃによる無言の重圧により、この先を発することの出来ない俺。

「……じじぃ」

「まぁ、いいじゃろう」

 くそじじぃは納得してくれたようだ。……まぁ心の中で言う分には構わないだろう。

「それで、何しに来たんだよ」

 俺がそっけなく言うとくそじじぃは「はぁ~」とため息つき頭を掻きながら答えた。

「お前の顔と同居人の顔を見に来ただけじゃ」

 なるほど、そういえば三橋さんが許可を取ったって言っていたな。それなら言いたいことがあるが、……まぁいいだろう。

「でも、まだ起きてるか分からないぞ」

「そうか……」

 くそじじぃは少し残念そうな表情になった後、すぐに戻し、また大きく笑った。

「それなら良い。またいつか来るとしよう」

 その言葉に俺はそっけなく「あっそ」と答え、物置に置いておいた一振りの鉄剣を取り出す。

「なぁ、じじぃ。せっかく来たんだからやっていかないか?」

 俺が鉄剣を逆手で持ちながらそう言うと、くそじじぃはまた笑い、「良いじゃろう」と言って鉄剣を受け取った。そして俺とくそじじぃは一定の距離を取り、向かい合う。するとくそじじぃが、何かを懐かしむように呟いた。

「久しいのう。お前に稽古をつけるなど、お前が一人前になってからじゃから……」

「一年だよ」

「そうじゃったそうじゃった。あの時は正治せいじがいかれとったからなぁ。わしもみどりが死んだ時は乱れはしたが、彼奴あやつは今も荒れとるからなぁ」

「その話はもうやめてくれ、始めよう」

 俺はあまり触れたくない話にくそじじぃが移りかかったので、話を止め、稽古の開始を促す。くそじじぃは、「……まぁいいじゃろう」と言って鉄剣を中段で構える。

「すぅ~」

 俺は刀を構え、時間が変わるのを待つ。道場の時計の時間が変わるときの音が、俺とくそじじぃとの稽古開始合図だ。そして時計が時間の替わりを音で伝える。

「ハァ!」

 俺が素早く袈裟斬けさぎりをすると、くそじじぃはしっかりと受け止め、これを跳ね返してきた。俺は続けて攻撃を行う。すると、くそじじぃは余裕で防御しながら、話しかけてきた。

「稽古をつけてほしがったのは、強いやつが現れたからか?」

 俺は防御されても反撃の隙を与えないように、間隔無く攻撃を続けながら、返答した。

「じじぃが同居を了承した相手だよ」

「ほぅ。刃境千姫はざかちひめといったか。話では記憶障害と感情がどうと言っていたが、それでお前が強いと認めるということは、本調子ならどれほど強いのか……」

 くそじじぃが考えている間にも俺は攻撃しているのだが、全く攻撃が通らない。そのため、俺はいったん距離を開け、次の攻撃に移った。

「ほぅ……」

 くそじじぃは俺の動きを見て構えを変える。そして俺は、くそじじぃへ突進する。当たる前に二度フェイントをかけ、左払いを行った。だがその攻撃は簡単に防がれる。しかし俺はそうなると理解していたので、左手で柄を逆さまに持ち、タイミングよく右手を反転させ、反対側に斬り返す。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、反逆払そざかばい』である。だがこの攻撃も、まるで俺がこう来ると分かっていたかのように、受けきった。

「速度と体重移動が以前よりぐんと良くなってはいるが、まだ伸びしろ半ばといった所か。このレベルで伸びしろ半ばとはこの先が怖い怖い」

 そう言いながら、くそじじぃは俺の刀を弾き距離をとる。

「免許皆伝して一年たって伸びしろ半ばとは、うれしくて涙が出そうだ」

 俺はそう声を張って言いながら、壁掛けの鞘を取り納刀する。すると、くそじじぃはまたもワハハと笑い、「お主の抜刀は見ごたえが特にあるからな!どんとこいっ!」と言ってきたので、俺は、場所とタイミングに制限があるが、できれば相当な威力になるはずの試作型の剣術をくそじじぃで試してみることにした。

「じじぃ、本気で行くぞ。」

「こいっ!」

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