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第二十三話 試合の時間二

 俺はほぼ反射的に、ものすごい速度でフルスイングされた機械ティックな戦棍・・を太刀で受けとめた。両腕にズンとかかる重圧。少しは威力を抑えたはず。だが、運動エネルギーすべてを抑えられるわけもなく、体がボールのように簡単に吹き飛び、二~三度地面をバウンドして観客席を守る壁に激突する。激突といっても、赤力によって守られているので実際は当たっていないが、体の内側に響く衝撃は相当なものだ。今も体全体がギシギシと悲鳴を上げている。だが、何度かバウンドしてよかった。……別にバウンドも良いわけではないのだが、そのおかげで速度が抑えられた。もし最初の威力のまま壁に衝突していれば、一発ノックアウトだっただろう。

「イッ……!」

 まだギシギシ叫んでいる体を強引に起こし、立ち上がる。……よし、体の痛みも引いてきた。治ったわけではないだろうから、きっとアドレナリンが大量に分泌されているのだろう。要因は、恐怖と……闘争心とうそうしんだ。

「大丈夫ですかっ!」

 俺を吹っ飛ばしたご本人様が青ざめながら走ってきそうであったので、手を前に出して制止する。

「大丈夫だ!それより続きをしよう。行くぞっ!」

 闘争心に掻き立てられている俺は、すぐさま太刀を腰の位置に、切っ先を全面に向ける構え、腰掛こしがけの構えをとり、詠唱えいしょうをする。

「『我が足で行うは、風を汚し、けがし、ただ使い、踏みにじるだけの行為也こういなり下位術式かいじゅつしき風踏ふとう』」

詠唱を終えると、両足にうずきを感じる。術式発動の証拠だ。そのタイミングを見計らい、右足で強く地面を蹴る。風踏を使用した、『新藤悠漸流動術初伝しんどうゆうぜんりゅうどうじゅつしょでん足届そっかい』を行った。赤力によって足裏に空気の薄い膜が張られ、軽いホバーのような現象が起こる。空をかけるほどの浮力はないが、重力から一時的に解放された俺の体は、空気抵抗以外の速度低下原因を失い、スライドするようにものすごい速度で刃境さんに近づいて行く。刃境さんは、いつの間にか戻った刀を、またも正眼の構えで構え、止まっている。そして俺は速度を維持したまま、自身の間合いに入る。そのタイミングで俺は、左足を地面に刺すようにつき、その足を軸にし、今までの速度を全て太刀に込めるように、刃境さんへ突く。『新藤悠漸流剣術中伝《しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつちゅうでん》、杭旋こうせん』だ。常人では目で追うことすらできないであろう一撃を繰り出したが、この攻撃は軽く刀を当ててエネルギーを外に流すことによって、受け流されてしまった。

「ッ!」

 ある程度は予想していたが、こうもあっさりと流されるとは!受け流された影響で、太刀の刀身二割ほどが地面に刺さってしまった。そして刃境は、その好機を見逃すわけもなく、受け流した動作の流れで、俺をたたき斬ろうと刀を振り下ろす。そこで俺は、柄を逆手にもち、振り上げるように、刃境さんの刀に向けて引き抜いた。『新藤悠漸流剣術初伝しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつしょでん龍頭刃尾りゅうとうはび』だ。龍頭刃尾によって打ち出された兜金は刃境さんが振り下ろしている刀の刀身、その横っ腹に衝突し、刀が大きく押されり、決定的なスキが出来る。俺はそのタイミングに合わせて体をひねり、勢いのまま太刀を振り斬る。『新藤悠漸流剣術初伝しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつしょでん龍撓尾りゅうこうび』だ。壁のレバーを下すように打ち上げていた兜金を地面に向ける。それに反比例して、刀身が打ち上る。そして刃境さんの刀を持っている右手首に、吸い込まれるように近づいていく。が、刃境さんは、いつの間にか装備していた大鎌おおがまの長い柄で受け止める。そして大鎌を回転させ、俺の太刀が弾き飛ばされる。その力に逆らわず、俺は距離を開けた。その後、斬撃三十七回、突き十三回、剣術二十一回、赤力術式二十回、その他四回にわたった行動は、全て凌がれてしまった。そうした今は、距離をとり、お互いの動きを確認しあっている状態だ。今までの俺の行動は、手加減はしていなかった。練習試合という枷はあるが、その範囲内で、俺は本気だった。西区白波学園にしくしらなみがくえん戦闘成績せんとうせいせきで上位にいる俺だが、これまでの戦闘でここまでのものはなかった。……そのことから考えるに、刃境さんは、単純な強さのほかに、反応速度がとても優れているのだろう。俺の意表を突く(突けはしなかったが《・・・・・・・・・》)攻撃の大体を対処されてしまった。そして対処されなかった攻撃も、こちらの意表を突く、主武器変更・・・・・によって防がれた。あれは対処が難しい。どの距離をとっても、相手の間合いかもしれない。視界を塞いでも四肢を封じても、何らかの対処法があるかもしれない。実に面倒くさい。だが弱点を見つけた。刃境さんは動作が単調なのだ。正確には動きが律儀すぎるといってもいいだろう。最初の正眼の構えも、手本といってもいいほど綺麗な構えだった。攻撃も強くて単純なものが多かった。もしかしたら武器の間合いが違うと、動きが止まるかも……しれない。もし武器を変更されたらどうしようもないが、距離を急激に変えることによって、武器を変更させ、そのあとまた距離を変えればいい。武器は複数回連続で変更はできない……と思いたい。というかそう願う。まさか練習試合で、半ばけのような作戦を行うとは思はなかった。もう少し時間があればどうにかしようもあったはずだが、前半終了の時間まで残り僅か、そして俺のヒットポイントは残り七割。刃境さんはほぼ満タン。まだ後半は残っているが、そっちはまだやりたいことがあるので使うわけにはいかない。そしてそのやりたいことをするには、もう少し派手に動き、接戦にしないといけないだろう。

「練習試合っていう枷がなければまだやりようがあるんだが……」

 と、つぶやいてみたが、前半は《・・・》どうしようもないとあきらめた俺は、気を引き締め直した。思考に少し時間をいたが、刃境さんがくる様子はない。今回の試合は受けにてっするようだ。あなどられているわけではないと祈りたいが……。そう思いながら俺は、両足に力をため、後ろに跳び、右手を突き出す。そして詠唱する。

「『五枚の花弁かべんと、五枚のがく、五つの雄蕊おしべに、一つの雌蕊めしべ、計十六の花の砲弾が、赤く優雅ゆうが花砲台はなほうだいから放たれる、元上位術式もとじょういしゅつしき一花十六砲いっかとろんほう!』……発射ファイヤ!」

 俺が練習試合用に威力を弱めた詠唱で現れた巨大な赤く発光した三メートルほどの巨大な一輪の花。そして右手に力を込め、発射と言うと、花がより発光し、大小様々な十六の熱ビームが発射された。

「『その土塊つちくれに命なく、塊只かたまりただそこにとどまるのみ……」

 と、俺は次のステップの詠唱を進めながら、刃境さんの方向を見ると、刃境さんはこれまた機械ティックだが、形はいかにも魔法使いが持っていそうな杖を右手でかかげ、何かを詠唱していた。

「『純粋じゅんずいな水の精霊せいれいよ、二柱にちゅうの水流より水弾すいだんを、破裂はれつ炸裂さくれつ、攻撃せよ、目先の命を攻め立てよ、元最位術式もとさいいじゅつしき水伐柱すいきちゅう』」

 簡単に術式の能力を考えると、水って言う言葉が出てきたから水系統。二柱が砲台だと推測して水弾を発射……今、最位術式って言った!?確かに詠唱は六節で中位術式ではあるが、十一~十三節の最位術式を短縮するとは……っと、こんなことを考えている暇はない。最位術式といってもそれは元だ。中位術式より威力は多少・・強いってだけで、押し勝つことはなくても、相打ちぐらいにはなるはずだ。その思考の内に、刃境さんの斜め前には、二つの水流の柱が存在し、そこから水の砲弾が花のビームと衝突する。やはり押し勝つことはなかったが、押し負けることもなかった。双方の攻撃は二人のちょうど真ん中で衝突、炸裂した。ある攻撃は水蒸気すいじょうきとあり視界を白く染め、ある攻撃は地面をえぐり、砂煙すなけむりを上げる。そのため体育場は砂塵さじんと水蒸気で溢れかえった。他の生徒は戦闘をやめ、退避していた。

「……我が身を真似まねたその土塊つちくれは、我が身に変わり、無命むめいしかばねとなる、下位術式かいいじゅつしき土人形どじんぎょう』」

 俺が使った赤力術式は、色も形も本物だが、命もなく動きもしない只の土塊を作り出した。そんな土塊でも、俺が立っていた場所に立っていれば、少しの時間は俺本人だと思うだろう。その間に俺は刃境さんの後ろに回って一撃をくらわす。そのために俺は、砂塵と水蒸気に紛れ、使用したままであった『足届そっかい』を使い、足音もなく背後へと忍びる。ちょうど背後に回ったところで視界不良が治り、俺が作った土塊が姿を現す。刃境さんはその姿に集中し、動きを止める。そのタイミングで足届を最大出力で使い、足音なく自分の間合いにまで詰める。刃境さんはまだこちらを向かない。俺はそのことを確認し、柄を掴む。そして『新藤悠漸流抜刀術初伝《しんどうゆうぜんりゅうばっとうじゅつしょでん》、弾刀だんとう』を行った。鞘が刀身と擦れる音を響かせながら、俺は太刀を持つ右手に力を込め、降り抜く。が、刀は目的地半ばで停止した。

「……杖術じょうじゅつかっ!」

 刃境さんは、どれほどの術を使えるのだろうか?頭の傍らでそんなことを考えながら、俺は、太刀を止めた・・・・・・・に当てたまま右に体をずらす。すると、刃境さんは、杖の先にあった湾曲に、当たっていた太刀を引っ掛け、弾き飛ばした。幸い遠くに行かなかったものの、今俺は素手である。予定通り《・・・・》であった。俺は、体を左回転させ、速度を上げ、鳩尾みぞおち左肘ひだりひじを打ち込む。『新藤悠漸流格闘術中伝《しんどうゆうぜんりゅうかくとうじゅつちゅうでん》、裏鐘突うらがねつき』である。

「ッ!……」

 俺の肘は鳩尾にクリーンヒットし、刃境さんは、苦しそうな声になりきれていない音を口から漏らした。その声を俺は軽く流し、左肘を原動力にして逆回転し、水平の蹴りを入れる。『新藤悠漸流格闘術初伝《しんどうゆうぜんりゅうかくとうじゅつしょでん》、回脚かいきゃく』だ。横っ腹を狙った一撃は分かってはいたが杖で防がれた。だが俺はそのまま力押をする。すると、刃境さんは片足を後ろに下げ杖を動かし、俺の足を流した。それも読んでいた(偶然でもある)俺は、片足を地面につけると同時に、すぐ後ろに刺さっていた俺の太刀を右手で抜き、そのまま捻りを加え、水平に振り抜いた。『新藤悠漸流剣術初伝しんどうゆうぜんりゅうけんじゅつしょでん大斬横一文字おおぎりよこいちもんじ』である。そしてこの攻撃は刃境さんの横っ腹に当たり、苦悶くもんの表情を浮かべていたが、片膝かたひざをつくに留まった。そして、俺が間髪かんぱつなく次の攻撃を加えようとし、それに対応しようと刃境さんは杖を振り上げようとした所で、前半の終わりを告げるホイッスルが鳴った。

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