第二十話 生物の授業
最初の授業は生物の授業だった。クラスメイト達は、休み時間の興奮が冷めていないのか、少しざわついたまま授業が始まった。
「それでどうよ誠、運命の美少女編入生に告られた感想は?」
昨日と同じように、友也が、俺に話を振ってきた。その行動に、俺は苦虫を噛み潰したような表情をしていただろう。
「いや、感想なんか聞かれても……はっきり言うとよくわかんない。告白されたことなんてないし、そもそもあれは告白なのか?単なる親愛表現なんじゃないか?」
俺は、動揺しながらもどうにか、言葉を発す。
「いやでも『恋』は《《単なる親愛表現》》ではないんじゃないかな?」
その動揺を知ってか知らずか、友也は言葉で俺を揺さぶる。俺は、ぐぬぬと返答に困ってしまう。すると、
「そんな大声で会話してると、昨日みたいに怒られるわよ」
斜め後ろから呆れ顔で、美幸が誠への助け舟を出してくれた。その助け舟に、誠は急いで乗り込んだ。
「そうだな、俺も反省文は書きたくないから、この話はこれで終わりだ。なっ、友也?」
俺の態度に、友也は「ちぇ~」、と口を尖らせながらも渋々前を向いた。俺も前を向くと、目に入った時計の針は、授業終了まであと半分を示していた。
「――分離寄生命体とは名前の通り、人間に寄生する寄生命体だ。だけど分離寄生命体は物理的には寄生していない。正確には出生時、臍の緒に寄生して、胎児と臍の緒が分かれた後、臍の緒に残った養分を吸収して成長する。なので分離寄生命体は、出生前までしか寄生していない。それなのに、分離寄生命体は、一度離れた宿主から離れず、また宿主と分離寄生命体が死を共にするのはなぜか、わかるかな?……その理由は、分離寄生命体が持つ特殊な体質に関係している。分離寄生命体は、その七十パーセントが赤力で出来ている。そのため分離寄生命体は赤力と密接な関係にあり、人には目視や感知すらできない赤力まで感じ取ることができるそうだ。……話がそれてしまったね、つまり分離寄生命体には赤力が必要なんだ。そしてその赤力は、空気中にある量じゃ補えない。じゃあどうやって補充しているかわかるかな?……じゃあそこの時計ばっか見てる設楽!答えてみなさい」
突然のご指名にぼーっとしていた友也は体全体をビクっと震わせ、慌てて立った。そして、少しの間思考するように虚空を眺めてから、恐る恐る口を開いた。
「えーっと……食事、とかですか?」
その回答に先生は微妙な表情をし言った。
「それも間違いではないのだがくくりが広すぎる。食事といってもたとえばどんなものだ?」
先生の返答に友也は「たとえば?……」と少し考え、声を発した。
「肉や、野菜じゃないんですか?」
その質問返しに先生は首を振る。
「間違ってはいない。毎日のほぼほぼは、それで補っているからね。なんと分離寄生命体にはたんぱく質などを赤力に変える機構があるらしく、食べ物内にある赤力とわ違う赤力が……゛んっ゛んん。また話がそれそうになってしまった。すまない。新藤、普通の食事以外で月に三回ぐらい与えているものはないかい?」
先生のヒントに、友也や他の生徒がはっとした表情で息を呑む。
「《《血液》》ですか?」
「正解だ」と、先生はちゃんと求めていた答えを回答してくれたことに嬉しそうな顔をし、説明をした。
「血液中に九十パーセント存在している赤血球が、酸素の他に赤力を肺から取り込み、体全体に満遍なく運んでいる。はなので我々の体内で、一番赤力が存在しているのは血液なんだ。そして分離寄生命体は、宿主の赤力を一定期間ごとに飲用しないと、体が保てなくなり、半年ほど飲用しないと、体が自壊してしまう。自壊から一週間ごとに、毛や外皮、筋肉、歯や骨、目や体内の臓器というような順番で崩れ落ちて、一か月ほどで完全に崩壊する。そうしたら、人間の寿命もそう長くない。だから分離寄生命体に血を吸血してもらうのを忘れないようにな」
その先生の言葉に、一人の生徒が手を挙げた。
「先生、質問です。なぜ分離寄生命体が死んでしまうと、人も死んでしまうのですか?」
先生は、生徒がその質問してくると知っていたかのように、ノータイムで回答した。
「それは、分離寄生命体の吸血行動が要因だ。分離寄生命体は宿主から血を飲用する際に、飲用をより迅速に行うため、そして宿主の痛覚を軽減させるために、吸血用の飲歯と呼ばれる細長い管のような歯から、血を吸引しやすくなるように、血が固まりにくくする物質と、軽度の麻酔作用をもたらす物質と、赤力の体内大量保持による赤力の硬化現象、つまり血液の硬化による血管の圧迫現象を抑える効果がある液体、『アトロマヴァダー』を注入するため、分離寄生命体のおかげで、我々は生きられているといっても過言ではない。赤力硬化現象は、赤力を体内に所持している場合ほぼ百パーセント起こる症状で、赤力放出も、日常生活程度では解消できない。なので、飲歯による吸血行為は我々の助けであり、分離寄生命体が死んでしまうと、我々も死んでしまうのはこういうことだからだ。……っと。もうこんな時間か。蛇足だったにもかかわらず、長話をしてしまったが、ここからが本題だ。テストにも出るので集中して聞いてくれ」
先生は、生徒の質問に丁寧に答えた後、少し焦りながら本題に入った。
「みんなもすでに体育の授業で何回も行っているだろうが、これから説明するのは、分離寄生命体の変化能力、形態変殻についてだ。形態変殻とは、分離寄生命体の体内赤力が宿主の意思によって形を変えることだ。ちなみに体毛などの物質は、分離寄生命体の核と呼ばれる場所を中心に、固まっている。そして形態変殻の変化方法は、二つに分類される一つ目は、自己印象概念形態変殻だ。この形態変殻は、自身の心の奥底にある印象的な思い出を形として変化したものだ。その思い出が、楽しいものか悲しいものかは、わからない。そして二つ目は、自己意識集合概念形態変殻だ。こちらの形態変殻は、自分の強い意志が、分離寄生命体の形を変えるほどの力であったら出来る形態変殻だ。この形態変殻は高度の技術が必要とされる。ある人は数十年の修業をしたそうだ。なので君たちの大体は、自己印象概念形態変殻ではなく、自己印象概念形態変殻であることが多いだろう。それで……」
先生が話を続けようとしたところ、チャイムが鳴り、授業は中断となった。