第十九話 休み時間
「刃境さんって好きなものある?」
この言葉を皮切りに、やれ好きな食べ物は、やれ好きな小説はと、生徒たちは刃境さんを質問攻めしていく。だが当の本人は、それを気にする様子はなく、一つ一つの質問を的確に返していた。
「刃境って子、すごいな……」
友也が、刃境さんの流暢さに感心していると、一人のクラスメイトがこんな質問をした。
「さっき新藤君の前で立ち止まっていたけど、もしかして刃境さんは新藤君と知り合いなの?」
周囲の生徒はそれを聞きたかったとばかりに質問をやめ、刃境さんの言葉に耳を傾ける。
「新藤さんは命の恩人なんです。昨日、私を助けてくれました」
抑揚のない声で語った言葉に、クラスメイトが、「おぉ~」と軽い歓声を起こし、俺のほうを向いて、笑いながら拍手を送ってきた。正直小っ恥ずかしい。友也たち、俺と一緒に喫茶店に行った奴らは、俺が途中でいなくなったことの理由を聞いて、納得する。やはり小っ恥ずかしい。だがこの後、刃境さんの言葉を聞いて、俺の小っ恥ずかしさは吹き飛んだ。
「もしかして、助けてもらった時に芽生えた感情があったり……?」
クラスメイトが入れた茶々に返答した、彼女の言葉に。
「ある。私は、新藤さんに恋をしました」
一瞬で静寂に包まれるクラス。そしてそれが嵐の前の静けさであったかのように、クラス内は叫び声に包まれた。もちろん俺も、叫んだ中の一人だ。




