第十一話 発見
隠し扉の奥には、小広い部屋に繋がっていた。そして、地面には、赤黒い血のようなもので描かれた赤力陣と、その周辺に様々な電子機器、そして赤力陣の中心には、蛍光色の緑色の液体になりきれていなさそうな液体もどきが入った培養槽の中に、病衣のような服を着た、白銀髪の同年代っぽい少女が、様々な配線に繋がれていた。俺は、何も考えず、硬直してしまわないように、思考を回転させた。これは何をしているのか。普通に考えると、きっと危険なことであろう。だが、何らか俺の知らない医術行為かもしれない。そう考えたその時、培養漕の下に書かれていた赤力陣が鈍く光りだし、部屋全体を暗く照らす。その光に俺は目を細めた。意識が多く赤力陣に注ぎ、その効果を必死に考えた。その瞬間、今まで聞けなかった人らしい声が聞こえた。
「ごぼっ……」
それは、培養漕の中にいた少女からだった。その時初めて、少女の入った培養漕の変化に気づいた。培養漕内部の液体が赤力陣と同じ色に変わりつつあり、その時から、少女に繋がれていた配線が外れ、少女が体は動いていないが、苦しそうに悶えていた。俺は少女を助けなければと思った。今、ここで行われているのは、医術行為ではないだろう。その証拠に、ここに医者はいないし、ここを隠し部屋にする必要がない。
「天風」
俺は、横で静かに俺の指示を待っていた相棒の名前を呼び、額に触れる。その時、天風は金属のような光沢をもって発光しだし、狼の形状を変えていった。細く、長く、美しく。そして天風は、百センチ強の緑を基調とした優美な太刀になった。
「はっ!」
俺は培養漕の下部を、三割ほど斜めに切り落とし、中の液体ごと少女を滑り出した。少女はそのまま流動性失った塊の液体に包まれて部屋の端まで動いて止まる。そして、液体は液体としての流動性を取り戻し、流れ出した。
「大丈夫か!」
俺は太刀とともに変化していた鞘に太刀を納刀し、少女に駆け寄り、抱き起した。
「何か大きい音がしたけど、大丈!……ぶ?」
その瞬間、突然隠し扉から入り込んできた《《紫穂》》が、扉を開けながら声を上げ閉めたところで停止している。
「なにゃ、なゃにを、や、やって!?えっ、ど、どう……」
紫穂は動揺しているようだ。なんせ、赤黒い赤力陣とたくさんの電子器具、割れた培養漕に、流れ出た液体もどき、そして色々と危なくなっている塗れた病衣を着た少女と、その少女を抱き起こしている俺。……なーるほど。
「紫穂、冷静になってくれ、そしてこの子の処置を頼む」
「え!え、あっ、えー、うん……」
少し冷静になった紫穂は、動揺しつつも俺たちに近寄る。
「呼吸はあるわね。……誠くん、とりあえずは彼女を仰向けで寝かせて、顔を横向きにしてくれる?この空間から察すると、彼女はあの培養漕の中にいたんだよね?」
「あぁ」
彼女の順応速度に感謝しながら、俺は紫穂の言われた通りに、少女を寝かせ、顔を横向きにする。すると紫穂は、制服の上着を脱ぎ、少女の上にかけ温める。
「これであとは、病院に連ら……伝えればいいだけね」
「失礼するわよ」
俺らが応急処置をして、立ち上がろうとしたとき、またも扉が強く開かれ、二十代らしき男女が中に入ってきた。右肩上空に目玉を浮かせた女性と、右手に籠手のようなものをつけた男性はまっすぐこちらにやってくる。俺は、足を地面に擦らしながら、ゆっくりと少女と紫穂の前に出た。
「君、友達を守るなんて良い子ね。でも大丈夫よ、私たちはあなたに危害を加える気はないわ」
「なぜ?」
俺は、危害を加える気はないといった女性を含めた二人を信用できず、とりあえず彼女らに危害をくわえない理由を聞いてみた。
「それは、君たちが悪い人じゃないって私が視たからよ♪」
女性が可愛らしく人差し指を立てた姿勢を取るが、俺は女性の眼に注目していた。
「それって魔眼ですか?」
『魔眼』、それは突発的に表れる赤力の表面化現象で、片目両目問わず、人間の情報量の八割ほどを担っている目に表れやすい症状。その効果は人それぞれ違い、登録されている魔眼には名前がついている。魔眼はほぼ全て通常の人間とは色が違い、美しく、その眼を違法に売買している者もいる程だ。そして、俺が今見ている女性の魔眼はブルームーンストーンのように青白く美しい瞳をしていた。その瞳を見て停止していると、女性は咳払いをし、俺は意識を戻した。すると女性は気を取り戻し、俺への返答をした。
「えぇそうよ、この眼は魔眼。透視の魔眼よ」
「透視……」
だから、俺たちが無実なのを透視で知っているから、俺たちに何もしてこないのか。と、考えていると、女性は何を勘違いしたのか、慌てて手を振り、
「あっ、透視って言っても私は服の下を透視して覗いたりなんてしてないからね!だって私、警官だから!」
「警官なんですか?」
紫穂が、驚いたような、納得したような声音で、聞いた。
「あれっ、私言ってなかったっけ?」
女性は、驚いて後ろの男性に顔を向けるが、男性は首を横に振る。
「あちゃー、じゃあ怪しまれるのも普通よね」
女性は、頭を掻いて反省した後に、俺達の方向を向き、自己紹介を始めた。
「改めまして、私は警察庁直轄、赤力犯罪対策局、生物犯罪課の三橋 瞳。そして後ろの彼は、比井塚 早斗。」
「どーも」
比井塚さんはそっけなく挨拶をしたが、その言葉からは、彼の優しさが溢れていた。
「で、そーゆーわけなんだけど、信じてもらえたかな?何なら一緒に警察本部に行って証明もできるけど」
「それより先にこの人を病院に連れて行かないとですかね」
俺は、三橋さんの言葉を返さず、後ろで寝かせ、呼吸も安定してきている少女を話題に出した。その言葉を信頼してもらえたと取ったのであろう三橋さんは、話しを切り、本題へ移った
「そうね、そうだったわ。私もそれが目的でした。私達は、ここで行われていた禁位の異端赤力術式研究の調査に来たの。そこで質問なのだけれど、ここにいる私達以外の人はいた?」
俺は少し考え、首を横に振った。ここには、生活の後はあったものの、人はこの少女以外いなかった。紫穂も後ろで、同様に首を振っていた。
「そう……、まぁいいわ。今回は、当たりだったけど外れでもあっただけ。じゃあその子を私達の課の病院に行きましょう。そこならここからあまり遠くないし、赤力犯罪で心を病んでしまった子へのカウンセリングもあるからね」
三橋さんの言葉に俺と紫穂ははいと答え、もう一度少女を見ると、少女は瞼を痙攣させ、目を開けた。だが、その目に生気がなかった。
「これは、少し重症かな?早めに病院に行こう!」
三橋の一声により、比井塚は少女を抱え上げ、俺達を連れこの建物から出た。