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カニンとカノン  作者: 伊藤むねお
8/8

シーザー

 朝、カニンがいきなり背中の甲羅をなにか強い力でごつんと衝かれびっくりして目をさました。周りはもう明るくなって、そこでカニンが見たのは自分を覆うようにして立っている大きな白い鳥だった。カニンは、わっと驚いてすぐさま逃げ出そうとしたが、驚きすぎたせいか足に力が入らず体が動かなかった。その気配でカノンもまた目を覚ましぎょっと身をすくませた。

「おまえはどこからきたの?」

 いきなり、ププポポというようなカニの言葉で大きな鳥が話しかけた。二匹はあまりのことに恐怖よりも驚きがまさって、ただただ呆然として見上げるばかりだった。本当はカニにとって鳥はとても怖い存在だった。しかし、その鳥の言葉は二匹を決定的に打ち負かしてしまった。

「少し大きなほう、おまえがカニンだね。ふむ、それじゃこちらがカノンか。わたしはチャボだよ。シーザーという名前だ。初めて聞いたかね? 池は今年の夏に埋められたよ。だからお前たちの行く先はない。もどるかね? 家の中の水槽に」

 カニンは覚悟を決めた。その鳥にはそれを促すなにかがあった。

 そこで自然の川に帰りたいこと、たとえ命を失っても決して水槽には戻りたくないことをきっぱりと語った。

「ほう・・・なるほど。たとえ命を失ってもとね。よし力をかそう。だが、わたしも亮太を裏切ることになるわけだから、ただでとわけにはゆかない。条件をつけよう。命を失っても、といった、それをみせてもらうよ。川に連れてゆくのは一匹だけ。もう一匹はわたしの餌になるんだ。信じよ。わたしは必ず約束を守る。どうだね」

 二匹はしばらく黙ったまま考えた。混乱する中で、まずわかったことはこのシーザーというチャボは約束を必ず守るということだった。なぜなら不思議な力を持っていることがわかった。この一羽だけがなぜか小屋の外におり、そして鳥なのにカニの言葉を話す。そしてカニンとカノンの名前を知っている。ということは人間の言葉を聞きわける力もあるのだと。


「僕を食べてください」と、カニンとカノンが同時に言った。

「えらい。たいしたもんだね。だが、こうなると思っていたよ。お前さんたちのここまでの勇気と知恵を知ったときね。だが、約束は守らないよ」

「え」

「ははは、二匹とも連れて行ってあげる。安心をし。今日は休日だ。お天気もいい。お父さんは必ず釣りに行く。わたしも連れて行ってもらう。その時に私の羽の下にしがみついて隠れていればよい。川についたら出してあげる。おお、そうだ、今日はお父さんは入間川に行くといったねえ。ふるさとの川じゃないか? お前さんたちの」


 家の中では、お父さんが釣りの支度を終えた。それから書斎に入って例の動物往来縁起帳のページをめくると、ちょっと考えてから一気に次のように書き込んだ。


[四月二十九日(祝)晴れ/サワガニ二匹(カニン、カノン)健康体/A水槽から消滅。捜索にもかかわらず室内では発見できず。屋外に脱出と思われるがその行方および理由は不明。シーザーにも捜索を依頼す]                     了


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