動物往来縁起帳
カニンとカノン
亮太の家ではいろいろな動物を飼っている。みな小さな動物で、ちゃぼ、小鳥、魚、ザリガニ、昆虫などだ。たいていはお父さんと亮太がどこからか連れて来たのだ。どこかといっても、もちろん、でどころはっきりしており、まずペット屋さん、それから近所や遠くの川や沼だった。
小鳥、みどり亀、熱帯魚などはペット屋から、カニ、フナ、オイカワ、ドジョウ、ザリガニ、メダカなどは自然の川や沼からだった。
その他に魚屋から来たものがいる。魚屋というのはもちろん食べるための魚を売っている店なのだが、お父さんはそこから小ザル一杯のドジョウを買ってきた。その時は、魚屋のドジョウ桶が空っぽになり、お父さんのうしろで小さな鍋を持って待っていた小母さんが売り切れたのを知ってとても残念そうだった。亮太はそれをお父さんから聞いた。
「なんと幸運なドジョウたちじゃないか」と、お父さんはドジョウ以上に興奮して話したが、小学生の亮太は、そうだねえ、と喜んでましたが、お母さんはお義理のように、「そうね」と、ひとことだった。
飼っているのは他にも多数いるものだから、水槽だけでも大型と中型で五つもあった。五つもあるのは飼っている魚などの数が多いからだけではない。たとえば熱帯魚は水温をいつも二十度以上にしておかなくてはならないからヒーターとポンプが必要だった。一方、ドジョウ、フナなどはヒーターは要らないのだ。自然出身者はたいてい寒さに強いから。またカメとカニなどは水は少しの方がいい。
そのほかにも、あれとこれとは喧嘩するからというので別の水槽が必要だった。
お父さんの書斎には、この家で飼われたすべての動物の記録帳で、正確には「動物往来縁起帳」といういかめしい名前がつく厚いノートがあった。お父さんはとても几帳面に書き込んである。たとえばさきほどのドジョウのことなら。
「XX年五月二日(土)・小雨。ドジョウ。魚新から購入。二十二円。健康体。雌雄不明。大小有り。価格は全部で二百円。皆、幸運というべし」