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姿なき弔問者

作者: 中ノ 晁

肉感的な物質は道路上にあることで、素朴で異様な存在感を放っている。


この、元は栗鼠だった物質の脇を努めて平静に歩み過ぎてから、後ろを行く誰かが声を上げるのを聞いた。

同じ道で帰るが、やっぱり彼の死骸は今だ冷たいアスファルトの道の上に横たわっている。路傍の茂みの大葉を一枚千切り、それでもって栗鼠の尻尾をつまみ上げた。死は我々にとって不浄である。これを本来あるべき土の上へ横たわらせ、大葉を彼に掛ける。その心は初夏に似合わぬ静けさを帯びていた。


その翌日から、私は必ずその道を通った。

その不浄は生の営みの糧になる。その行為をつぶさに見ればまたおぞましいが営みそれ事態は実に尊く、土から別ったものが再び土に還ってゆく様は小気味良い。目から、傷口、腹の産毛の剥げた隙間へと。蠅や甲虫の苗床。

数日のうちに皮と毛だけ形を遺し、平べったい煎餅のような土とも亡骸とも知れないものが静かに大地へ供えられた。

誰の声もしはしない。したとしてもそれは死体が分解されていく過程とはほど遠い無意味さ。


それから余り時を空けないある日のことである。冷雨降りしきる中に豊かな紫陽花が一房、彼のあったところにおいてある。それはほの暗い梅雨時の午後に不思議な光をもたらすようであった。あのとき一匹の栗鼠の死に目を向けた者が私の他にあったのだろうか。一匹の栗鼠の死という鏡面の表裏に、姿なき弔問者が立つ。


花びらに水滴を伝わせた蒼い紫陽花は鬱蒼とそこに咲いている。



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