プロローグ
それは、もう終わった時代かも知れない。
そうでなければ、きっと、いつか来る時代なのだろう。
もしかしたらもうすぐ同じ星の上で繰り広げられる時代かも知れないし、我々の知らない、遠くに瞬く小さな星の上で、ずっと昔に流れ過ぎた時代なのかも知れない。
ただ一つ分かっていることは、その「時代」が作り事などではなく、我々の存在や意志も含む、果てしなく巨大な歴史の渦の、紛れもない一部分であるということだ。
「そこ」では世界を巻き込んだ闘いがあった。
後に同じ世界で統一破壊と呼ばれる大戦争である。
奇跡と言うべきか悲劇と呼ぶべきか、全く同時期に急激に発達してしまった全大陸の魔法文明が、互いにぶつかり合い、滅ぼし合い、殺し合い、めいめいが自らの名の下に世界を統一しようとした戦いだった。
あるところでは首のない巨人たちが他国の軍勢を踏みつぶし、あるところでは酸の雨が無辜の民を溶かして土へと染みこませ、またあるところでは、巨大な蛇が天を舞いながら灼熱の炎を吐き、人の住む山を次々に土塊へと変えた。
存在するはずのないものを生み、起こるはずのないことを起こす魔法の技術、その目まぐるしい進化は際限を知らず、そして全ての勢力は常に拮抗していた。
戦いは日が経つごとに勢いを増し、人々に心を忘れさせ、十三年に及ぶ争いの結果、全ての魔法文明は相殺し合い、滅びた。
運命的な終焉を迎えた後、荒廃した大地の上に残ったのは、男たちの血と、子供たちの手足と、女たちが流した涙だけだった。
生者はほんの一握りしか残らなかった。
そして全ては初めに戻り、魔法は恐るべき存在として、暗黙のうちに禁忌となっていた。
これから語られるいくつかの出来事は、その約三百年後――。
人々が明日を思いながら生きるまでの力を取り戻し、新たな文明を築き上げ、再び各地に国家を形成し、魔法の恐ろしさを忘れ始めた頃。
これから第二次統一破壊と呼ばれる新たな大戦争が勃発し、今度は機導と呼ばれる機械文明の結晶が、再び世界を焼き尽くす。そんなことは夢にも思わずに、誰もが穏やかな日々を過ごしていた、最後の平和な時代。
後に竜眠期末と呼ばれる――そんな「時代」に生きていた者どもが、ある大陸のある王国、そこにある町の片隅でひっそりと紡いだ、小さな現実の物語である。