俺拾われる。
「・・・・・・ハッ!」
「あれ、此処は・・・」
遥が目を覚ますと、いつの間にかベッドで寝ていた。
「俺、異世界転生した筈じゃ・・・って、うおっ!妖精!?」
「私です。神です。貴方は確かに転生しました。そして監視の為私の分身を
寄越しました」
「そうか。ところで、何で俺達は洋風な民家のベッドで寝ているんだよ」
「それはランダムに落ちた場所で美少女に拾われるような設定だからです」
何だよそれ、と遥が溜め息を漏らす。
トントン、とドアが鳴った。その後、少女の声が聞こえてきた。
「入って、良いですか?」
彼女の声に遥は反応する。
「おい、神様、あの声可愛くない?」
「可愛くなきゃ意味ないでしょ」
遥がどうぞ、と言うと声に似つかう美少女が顔を出した。
「起きたんですね・・・お体、大丈夫ですか?」
少女は照れ臭そうに言った。
「いやー、君が看病してくれたお陰でもう元気・・・」
遥が元気になったと言おうとするのを遮る様に少女は言った。
「看病したのは、兄です・・・」
良く見ると、少女の影に強面の巨漢が居た。
「俺の名前は荻遥、です。こっちは妖精の神様」
「私はマリー、そして兄のジャン」
「オギ・ハルカ、カミサマ。変わった名前だな」
「は、はい。変わった名前です、ます・・・」
ジャンの今にも斬られそうな気迫に遥は戦慄していた。しかし、
マリーの話は続く。
「ハルカさん、緊張しているの?きっとお兄さんが恐いからです」
「そ、そんな事は・・・アハハ」
マリーの”です”口調に癒されて良いのやら、ジャンの形相に
恐怖して良いのやら、このカオスな状況に遥は困惑するばかりだ。
「あの、外見てきて良いですか?です・・・」
「初めて来た土地なので、見てみたいんです」
遥の逃走の言い訳に神が言葉を足す。
「もう大丈夫ですか?」
「も、もう俺は大丈夫、ですます・・・」
片言な台詞を残して遥はマリーの家を出た。
少し歩いて街の様子を見る。
中世ヨーロッパを意識した様な風貌。
通りには市場が並び、陽気な主人が客の値切りに頭を抱えている。
2km程離れた大きな山には絢爛な城がそびえている。
「うはー、すげー!」
「って、そうじゃねー!」
「どういう事だ神様!何だよこの展開!」
遥が神に募るストレスをぶつける。
「ラノベでは・・・良くあるお話です。キリッ」
「何がキリッだよ、本当にふざけてるぜ、異世界転生ってのは」
「神様は俺にラノベを好きになってもらおうと思ってるんだろうが、
こっちは逆にヘイトが貯まってるぜ」
「そうですか・・・」
二人は沈黙する。市場の騒々しさも二人の離反する心を
より映えさせる材料にしかならない。
すると、マリーの声が聞こえてきた。
「ハルカさーん、私が街を案内しますよー!」
遥が振り向くと、マリー”だけ”がこちらへ向かっていた。
「なあ、神様」
「どうしました?」
「俺、この世界で生きる。キリッ」
「はあ・・・・・・」