クロスオーバー
初投稿です。
まだ、ちょっと使い方が分かっていないので試しに書いてみた。という感じです。
「『人生ってのは物語だ。その人生っていう物語はたとえ終わったとしても別の誰かに引き継がれている。楽しいこと、辛いこと、嬉しいこと、悲しいこと、全てが誰かの人生の物語の伏線になっているんだ』」
私は橋の欄干にもたれかかりながら呟いた。
そんな素敵な言葉を俺にかけた爺さんはそのあと、「だから、うちの本を買っていけ」と、言ってきて、無理やり大小さまざまな20冊もの本を買わされてしまった……
「誰の名言ですか? それ」
私の友人の千早は橋の欄干の上に立ち、私を見下ろしながら訊ねてくる。
私はその書店の名前と爺さんの名前を不満げに答えた。
千早はそんなことを気にせず、「ああ、店長か」と、言って勝手に納得した表情を見せた。
あの爺さん店長だったのか……
「まあ、ボクの方がそれよりも良い名言を言えますけどね。なんだったら今、考えますよ」
すると千早は腕を組み、橋の欄干の上をうろうろ歩きながら考え始めた。
「いや、そんなに真面目に考えなくても……」
私がそう言っても千早はうんうん唸りながら考えている。
「お前――」
私が何か声をかけようとしたとき、千早は立ち止まった。
「閃きましたよ」
私はどうせ大したことないだろうとは思いつつも、千早の言葉に耳を傾ける。
「『人生とは音楽である。その人生という――』」
「ストップ! ストップ! お前、最初っからパクリじゃねぇか!」
「パクリ? 何を言っているんですか? 完全オリジナルですよ」
「その白々しい態度が物語ってる」
千早は目線をそらして、吹けない口笛を吹いている。
そういうふりをしている。
「でも、別に最後まで聞いてから突っ込んでもよかったよね? どうして、最後まで人の話を聞かないの? 先生に教わらなかった? 人の話はしっかり聞きましょうね。って。『人生とは音楽である。その人生という音楽はときに独りで演奏し、ときに大勢で演奏する。そしていくつもの旋律が重なるとき、ハーモニーという新たな響きが生まれる。』」
「あー、はいはい。分かりました。分かりました。スゴいですね~」
私は鬱陶しいものを払いのけるように適当にあしらった。
しかし、千早は辺り一帯に響き渡るような高笑いをした。
その近くをたまたま通りがかった親子はそそくさと走り去っていった。通報だけは勘弁してほしい。
「ね、スゴいでしょう? ボクの有り余る才能が溢れ出てしまいましたよ」
「そうか。それはよかったな、ナルシスト」
「こんなにも頭脳明晰、容姿端麗で究極至高にして完全無欠。控えめに言っても全知全能、最強無敵。人類には申し訳ないほど天才のボクの、どこがナルシストなのですか?」
千早は国語の勉強になりそうな言葉を口走りながら、眉間のあたりを右手で押さえ、天を仰いだ。
もう呆れて返事もできず、ただ、深いため息しか出てこなかった。
「ねえ、ボクのどこがナルシストなの? ねえ?」と、千早が視界の隅で語りかけてくるが無視した。
だいたいなんでこんなやつと仲良くなったのかというと、さっき出会ったばかりで私にも分からない。
「そんなに沢山の本を抱えて大変そうですね。本、好きなんですか~?」「え、あ……まあ……」という感じで出会って、そして、ついてきた。
「ねえ!」
回想をしていると千早が橋の欄干から降りて、目の前に立っていた。
「ああ……やっと降りたか、牛若丸」
橋の欄干に立つヤツはほとんど頭がおかしいかナルシストのような気がする。そして、腹が立つほどイケメンだったりする。
「では、あなたは弁慶ですか?」
「いや、私の体格じゃあ弁慶に遠く及ばねえよ。町人Cだ」
「ビミョーな役ですね。それでいいのですか?」
私はふと、「それでいいのですか?」という言葉がまるで私の人生にそう訊ねられた気がした。
「あなたの人生はそれでいいのですか?」と……
「俺はそもそも役者って柄じゃないからな。ずっと舞台裏で舞台や小道具を作って、役者にスポットライトを当てている方がしっくりくる」
実際、私は学校の学園祭ではほとんどが、劇の演出、小道具、大道具、照明担当だった。
たまにナレーターもやって好評を得たが、結局目立つのはメインの役。
まあ、私は別に目立たなくても覚えてもらわなくてもかまわない。
いや、ホントに。まったく、気にしてねぇし。
「裏でこそこそやってるのが性に合ってるんだよ」
私は半ば自棄になっていた。
最近も仕事が不調続きで辞めようかとも思っている。
「そのようなことを言わず、たまには主役を演じてみてはどうですか?」
うなだれていると上から千早の声が降ってきた。
「そういえば、元教師でしたよね? 元教師がまた教師をやって、現代のリアルな社会問題を解決していくってストーリーはどうですか?」
「連続ものの学園ドラマかよ」
ベタすぎて思わず笑ってしまう。
「良いじゃないですか、学園ドラマ」
「まあ、悪くないかもしれないな。『突如、学校を去った教師が再び教壇に立つ!』ってホントにベタな展開だけどな。まあ、もしそうなったら、お前も物語に登場させてやるよ。独りで演奏するよりも、大勢で演奏した方が楽しいだろ? お前の言葉を借りれば『ハーモニーという新たな響きが生まれる』からな」
私は白い歯を見せ千早を見る。
「素敵なハーモニーになれば良いですね」
千早はそう言って笑い返した。
「あ、ちょっと待て。お前みたいな濃いキャラが出たら、私みたいな薄いキャラは消えちまうじゃねえか!」
「いや、あなたも大概ですけどね」
私と千早はしばらく顔を見合わせて、笑いあった。