日露戦争 外伝
前回、自分が読んでも面白くなかったので、頑張って書きました。
8月11日 旅順 大日本帝國軍陣地
旅順攻略軍攻城砲兵団所属、第一陸海軍合同歩兵団。
味方から隠れる様に、進む茶褐色の軍服を着た、二人の軍人が居た。
「オウオウ、こりゃ絶景だな絶景。」
「大尉殿マズイですよ。勝手に持ち場を離れるのは」
「そんな事言うな。上城少尉。見てみろ。」
そう言うと長谷川陸軍大尉は指差した。
「これは....」
上城陸軍少尉は言葉が出なかった。
目の前に〈二十八糎砲〉が陸海軍合わせ36門が太陽の光を受け鈍いドンヨリとした輝きを放ちながら、展開していた。
「これだけの砲をよく集めましたね。」
「日本本土にあるやつのほとんどをかっぱらてきたらしいからな。これだけの数だ、旅順を軽く陥落させるさ」
「しかし、上手く行くでしょうか。南山で大打撃を受けましたし。」
事実そうであった。だが二人はこの後に続く、遼陽会戦で両軍合計、5万人が死ぬ、近代戦の戦場の現実に恐れる事になる。
「まあ、大丈夫だろう。我らの乃木大将がいれば、我が軍が負けることはな「それはどうかな」い....」
まったく別の声が被さってきて、二人は慌てて声が聞こえた方を向いた。
そこには、陸軍の制服とは違う紺色の制服を着た男が居た。
「これは、海軍大尉殿ここに何しに?」
長谷川陸軍大尉のもの言いに上城陸軍少尉は大いに慌てた。
陸軍では基本的に殿を付けて呼ぶ場合は尊敬もしくは敬愛を意味し、
海軍では侮辱、侮蔑を表す。
海軍の第一軍装の制服を着た男は
「なに、君たちと同じように持ち場を抜け出したのさ」
肩すくめておどけながらそう言う、海軍大尉に長谷川は彼は肝が据わっていると思った。
「失礼しました。本官は長谷川陸軍大尉であります。」
「自分は、上城陸軍少尉であります!」
二人は陸軍式敬礼をする。
「私は乃木海軍大尉。よろしく頼む。」
海軍大尉は海軍式の敬礼をする。
長谷川はその名前に聞き覚えがあった。
「もしや...乃木希典大将閣下のご子息の...」
「うん、私の父だ」
「「し、し、失礼しました!」」
二人は最敬礼する。
乃木海軍大尉は苦笑いした。
「そう固くなるな。私は本来は軍艦乗り筈なのに、海軍砲兵としてここにいる。それに旅順艦隊がいなくなってから、思い出した様にたまに撃つくらいさ。」
「そう言えば今日はまったく撃っていませんね。」
上城陸軍少尉は今朝から砲兵団が砲撃していないのを思い出した。
「乃木大尉は聞いておりませんか?」
「いや、私も上官からは何も聞いていない。そちらは?」
「本官も何も聞かせれておりません。」
三人は上層部の思惑を予想していると。
「大尉!乃木大尉!」
こちらに走りながら、叫ぶ海軍一等兵が居た。
「どうした?」
「ここでしたか!司令部より各砲兵隊長に命令です!」
乃木大尉が先を促すと、
「各砲兵は砲撃準備に掛かれ、とのことです!」
「何?」
「旅順艦隊が引き返してくるところを叩く模様です!」
「!...分かったすぐに戻るから、先に行ってくれ」
「了解しました!」
走り去る一等兵を見送ると、長谷川達の方に向いた。
「さて、我が砲兵団が砲撃始めるとなると、ロシア軍が出てくるから、長谷川大尉達も戻った方がいいな。」
「そうですな。大尉ご武運を」
「そちらもな。」
長谷川達はそれぞれ敬礼しながら、別れた。
長谷川達が戻ってくると、まるで侍大将みたいな雰囲気を持つ、陸軍中佐が鬼の顔をして居た。
「長谷川、上城!貴様ら、どこにほっつきあるいてた!!」
「小便であります!馬場中佐殿!」
「誰がババアだ!!」
二人の頭に拳骨を落とす、馬場特務中佐は幕末時代から戦場を生き抜いてきた、叩き上げの士官で、歴戦の武人だ。
ちなみに同期からもらったあだ名はババアである。
「なんで、自分まで...」
「上城!何か言う暇があったならさっさと持つ場に走れ!!」
馬場中佐の怒鳴り声から逃げるようと、二人は持ち場に走った。
持ち場の塹壕では、部下達がすでに準備していた。
「これは、大尉殿やはり見つかりましたか。」
30歳ぐらいの、下士官が長谷川達を見つけ話かけてきた。
「軍曹、うまく誤魔化してくれと頼んだろう。」
「すみませんな、なにせあの人には日清戦争で世話になりまして。」
軍曹は苦笑いしながら言った。
「馬場中佐を知ってるのですか。」
上城少尉が驚く様に言った。
「ええ、私は馬場中佐殿の指揮下にいまして、いやはや、今思うと懐かしい思い出ですな。」
軍曹は目を細め、懐かしむ様に語り始めた。
しばらくすると、
「そう言えば、二人は馬場中佐殿のあだ名はご存じでしたかな。」
「確か、ババ『長谷川!!!!後で鉄拳制裁だ!!!!!』ぁ.....」
二つ、三つ挟んだ塹壕に居る筈の馬場中佐の声が聞こえてきた。
そちらを見ると馬場中佐が塹壕から身を乗り出していた。
「ククク、馬場中佐殿は声がデカイ上に地獄耳でして、それで同期の方からあのあだ名を付けられた訳です。」
軍曹は腹を抱えながら笑っていた。
「....軍曹、俺を売ったな?」
「はてさて、なんのことやら?」
長谷川の恨み積もりを、聞き流す軍曹。狸である。
「まあ、馬場中佐殿は信頼出来る人です。私が保証します。」
「だと、良いですか....」
上城少尉は、馬場中佐が止めようとする副官らしき人物を、殴り飛ばす姿を見て、ため息をついた。
「自分からも、後で言っときます『ドォン!!』」
軍曹が、上城を宥めていると轟音が轟いた。
『ドォン!!、ドォン!!、ドォドォン!!!!ドォン!!』
連続として、響く砲声。
「砲兵団が砲撃を始めたぞ!」
兵士が叫ぶ。
ヒュルルルルーーー
彼らの頭上を、何十発もの二十八糎砲弾が飛んでいく。
暫く砲撃が続くと、伝令が走ってきた。
「斥候兵より報告!旅順要塞より、ロシア騎兵接近!数およそ1000!!」
『聞いたな!!総員武器の点検をしろ!!』
馬場中佐の号令が掛かり、全員が<三十年式小銃改>を点検する。
機銃士達が<保式機関砲改>と<三十二式軽機関銃>をそれぞれ点検する。
全員が点検を終えた直後、土煙が見え始めた。
「コッサクだ!!」
ロシア帝国が広大な版図を持つを下支えた、コッサク騎兵だ。
「伝令め、嘘つきやがたな」
どう見ても、2000以上はいた。
『よし!!お前ら!!よく聞け!!こちらは1000なれど!!我ら日本男児!!これくらい敵跳ね返しみせよ!!』
馬場中佐の言葉に揺らぎつつあった士気が立ち直る。
『機銃は射程に入り次第各自発砲!!バッタ(歩兵を意味する)は例の戦法で殺るぞ!!!!』
そして、ロシア騎兵は囮塹壕兼落とし穴を飛び越えた。
それを距離の目印にしていた各機銃士達は発砲を始めた。
この時、双方の距離、約1000メートル。
日本軍の6.5ミリ弾を受けながらも、コッサク達は止まらない。
『いいか!!人ではなく馬だ!!馬の足を狙え!!』
馬場中佐の助言がよく聞こえた。
しかし、コッサク達は更に近ずく。
距離、900...800...700
この時、日本軍は三列横隊を形成した。
600...550...530...520...510...500!
『第一列!!撃て!!』
ダダダダンーーー!
第一列、300名が一斉に発砲。
『第一列!!次弾装填!!第二列!!撃て!!』
ダダダダンーーー!
第二列、300名発砲。
『第二列!!次弾装填!!第一列は射撃用意!!第三列!!続けて撃て!!』
ダダダダンーーー!
第三列、300名発砲。
まさに、川中島の戦いの再現であった。
真夜中
長谷川達はまた持ち場を願い抜け出して、乃木大尉に会っていた。
「その顔だと酷い目に合ったか。」
「....いえ、目の前で敵とは言え人が、死ぬのは...」
「...そうか。」
長谷川達は、今回初めての実戦だった。人間の命が軽い戦場に思うところがあるのだろう。
「俺は後ろで、デカイ大砲を撃っているだけだから、なんとも言えないが...割り切るしかないな」
「割り切る、ですか。」
「そうだ、親父はそう言ってた」
「...分かりました。」
「さあ、こんな話は終わりだ。酒飲むぞ!」
乃木大尉は一升瓶を置いた。
「乃木大尉、これは?」
「ん?親父の所からくすねてきた。」
「...大丈夫ですか?」
上城少尉が心配そうに聞く。
「なに、大丈夫さ。それに皇室御用達なことは秘密な。」
「「.......」」
長谷川達は絶句してしまった。
どこに、自分達の司令官の酒を、しかも皇室御用達の物を盗んでくる馬鹿がいるか。すいません、ここにいます。
「どうした?飲むぞ」
「...で「長谷川~、上城~、何を~している」わぁぁ....」
二人は、ゆっくりゆっくりと後ろを振り返った。
そこには、盤若の顔した、馬場中佐が腕を組みながら立っていた。
「馬場中佐....」
上城少尉は顔が真っ青だ。
「ふん」
馬場中佐は長谷川の隣に座ると、手に持っていた酒坏に酒を入れ始めた。
「あの、馬場中佐なにし「黙ってろ」に...」
馬場中佐は酒を飲むと語り始めた。
「....俺は幕末の時、幕府軍だった。たが負けて家族を養う為、軍に入った。西南戦争じゃ、本来朝敵だった筈の俺が政府軍、薩摩が朝敵だった。日清戦争ではそりゃ殺したさ。何人、何十人、何百人殺したか数えきれなかった。今回も同じさ。...だかな、心に感じたその罪悪感は絶対忘れるな、もし忘れたら...そいつはもう人じゃない。」
馬場中佐が語ったその話を三人は黙って聞いていた。
「...そいや長谷川。」
「は!なんでしょ『ガン』痛てーー!」
馬場中佐は長谷川大尉に拳骨を食らわした。
「すいません、軽くする様には言ったんですが」しかも、チャカリご相半している軍曹。やっぱり狸。
「さて、全員揃った様だし。始めるか」
乃木大尉は今の事をスルーする。
「日本の勝利と、全員の無事を祈って」
「「「「「乾杯」」」」」
この日、ロシア軍が、砲撃を繰り返す第一攻城砲兵団を止めるため、繰り出した、2500の騎兵は、およそ1400騎を失い、壊滅。
旅順要塞指揮官コンスタンチン・スミルノフ中将はこの報を受け、幕僚達の前で、卒倒してしまった。
それに対して、日本軍戦死0。
乃木希典大将は、第一攻城砲兵団による、旅順攻略を決断。
およそ約3月を掛けて攻略。
11月3日、旅順は降伏した。
戦死者、約3000名
その中に、五人の名前はなかった。
こうして、一つの物語が終わった。
陸軍の軍服の色、違うけど見逃して(*´∀`)
後、乃木閣下の息子は1人だけ救済。
お願いします。返信出来ないかもしれないけど、感想ください。お願いします。