ステンドグラスに映る人影
私はもう生きる価値などない人間です。
貴方のように崇められることもなく、羨まれることもなく、ただ毎日を無駄に過ごしているだけです。
だからもうこの世から消え去ったほうが自分のためなのです。
しかしそうすれば家族が悲しむ、友達が悲しむ、職場の皆が悲しむ。
一体どうすれば良いのでしょうか?
消え去りたいけど消え去れない、この生き地獄をどうすれば抜け出せるでしょうか、どうか私にその答えを教えてください。
そう言って貴方からの答えがあったらどんなに幸せなのか、貴方は私達を空の上、いやもっと遥か天空から見下ろすばかりです。
それは世界中に貴方を崇拝する人々がいるからです、私と同じように悩みを聞いてもらおうとこうして祈りに来ている人が絶えないからです。
だから私の声はなかなか届かないのですよね。いつかこの声が聞こえてくれたらそれで良い、そんな気持ちで毎週ここに来ています。
早くこの声が届いてほしい、誰よりも先に届いて欲しい、他人なんか関係なく私の声が真っ先に届いて欲しい。
しかし生きる価値がないのは本当です。嘘などはつきません、そんな事をすれば針を千本飲まされます。
「皆様、我らが神に祈りましょう。そうすれば救われます」
お前は優柔不断なやつだな、そういう貴方の声が聞こえてきそうです。
それはわかっています、私は自分という人間に何十年も付き合っています、だから誰よりも自分を理解しているつもりです。
自分をどこまでも知り尽くし、もう飽き飽きするぐらいです。もはやマニアですよ、自分に関することは何でもわかってしまいますから。
趣味や癖や好き嫌いや、好みの女性や性癖なんかも。それらがわかるのは足し算や引き算みたいに簡単すぎて笑っちゃいます。
自分に詳しいなんて当たり前といえば当たり前ですが、自制できない人間がこの世にはいるのです。
そういう人間が誰かを傷つけ苦しめ、社会のゴミいや世界のゴミとなってゴミ山を作って辺りに悪臭を漂わせているのです。
だから綺麗に掃除しなくちゃいけないんです、元々そこには何もなかったかのように綺麗に。
だってそうしなきゃ被害者は悲しむだけですから、何故被害を受けたのにも関わらず苦しまなくちゃいけないのか? 誰かを傷つけ苦しめたゴミはのうのうと生きているのか? それはあまりにも理不尽ではないのか。
「先ほど飲んで頂いた聖水で皆様の汚れた体を清めました、今皆様は汚れた人間ではないのです」
ヤツらはとてもどうでもいい理由で誰かを傷つけ苦しめるのです。
例えばムカッときたからやった、やれるなら誰でも良かった、アイツをやってから俺も後を追うつもりだった。
そしてヤツらは檻の中で毎日を生きます、罪を償うと表面的に出すだけで内面では償う気持ちなんてさらさら無いのです。
何故加害者は苦しまず被害者ばかり苦しまなくてはいけないのか。
どうかしています、罪を認めない加害者も、こんな世の中にした政治家も。
法を変えれば悲しむ人は減るのです、法を変えられるのは政治家だけで私達国民はその様子を外から眺める事しかできません。
だからお願いです、お願いですから悲しむ人が一人でも減るようにしてください。
寝ないで、欠席しないで、何でもかんでも批判しないで、政治家なら政治をしましょう。
何もしない政治家はいりません、お金の無駄遣いです、何もしなくやる気がないのならどうぞ今すぐに辞めてください。
国民の生活を苦しめるまえにすべき事はあるでしょう、何故それがわからないのか頭が痛いです。
ヤツらだけでなく、国を動かす人間にもゴミはいるのです。ドコにでもできるのがゴミで、それを掃除する正義がどこにでも必要なのです。
「清められた心と体で初めて神と交信できます。さあ思いの丈を神へと伝えましょう」
正義というのは難しいものです。
貴方は正義でしょうか、それとも悪でしょうか?
私は正義と思うのですが貴方のことをイマイチ理解できない人にとっては、正義ではなく悪にしか見えないと思うのです。
崇めるという行為がよくわからないのでしょう。
私も初めはそうでした。何故信じるのか、何故その教えをよりどころとするのか、何故熱中するのか、何故証拠抜きで確信を持てるのか。
だからこう思いました、怪しげで怖くて誰かを騙すのが目的だろうと。
そりゃそう思われても仕方ありません。
何十年前にあったじゃないですか、鳥の名前が入った団体が。
これも私がよりどころとするモノの一つなのでしょう、しかし私は貴方しか信じようと思いません。
胡散臭いモノの存在が貴方のイメージ、私達信者に対するイメージを低下させるのです。
そんなモノは所詮バッタもんですぐに終わりますが、勢いというものがあれば驚異になります。
今や人の心を動かすなんて簡単にできます、ネットを使って流行ってるよと言えば流行りに敏感な若者はすぐに食いつきます。
だから騙しやすいのです、馬鹿が馬鹿みたいに馬鹿馬鹿しくなるぐらい簡単に騙せます。
「神はしっかり皆様の声を聞いてくださります。どんなに大声でも、どんなに小さな声でも」
話を戻しますスミマセン。
正義とは市民を犯罪から守る警察なのか、人の命を助ける医者なのか、未来ある子どもたちに勉学を教える教師なのか。
そのどれもが正義と私個人は思います、貴方はどうお考えでしょうか。
実は正義というのはこの世界に沢山散らばっているのです。
例を上げた三つだけが正義ではありません、小さな正義がそこらじゅうにあって人助けをしているのです。
電車でお年寄りに席を譲る、スーパーに買い物に行く時はエコバッグを持っていく、点字ブロックの上に障害物があったら退ける、誰かのために肩を揉む新聞を取りに行く料理をする。
いっぱいあってそれはごく当たり前の事だけど、それは紛れもなく正義なのです。
小さなことから何とか、塵も積もれば何とか、と言いますが正にその通りです。
大それた正義だけじゃない、誰でもできる正義はある。
だからごく限られた人だけが感謝されるわけではない、誰もが感謝されて喜んでもらえる。
そういう考えのほうがきっと心が暖かくなるはずです。
どうでしょうかこの考え? 良いと思いませんか、今の私がこんな綺麗な事を考えられるなんて驚きですが。
貴方の傍にいるから心が綺麗になったのでしょう、きっとそうに違いありませんね。
「皆様からモヤモヤとした物が出てきているのがわかります、今皆様は胸に溜まった汚れを体外へと出しています」
しかしそれはまやかしなのではないかと思えてきました。
姿が見えない、存在するかもわからない、そんな曖昧な貴方に不信感が募っています。
貴方に対する思いは日に日に変わり、それは徐々に正反対の感情へと移っていきました。
信じる心から疑う心へ。
疑い始めたらそれは止まりませんでした、何もかもが信じられなくなり疑ってしまい貴方という存在自体疑うようになりました。
毎週ここに来て、汚れたものを吐き出すことでその疑う心は少しは晴れましたがそれも限界です。
白だと思ったものが黒だと思ったらそれはもう白には戻れない。
白は黒に染まり、白はなくなり黒一色となります。
貴方は黒だ、今まで白だと思っていた貴方は白という仮面を被った黒だった。
私はまんまと騙された、だから貴方を許さない、憎悪が私の心で爆発している。
「もう大丈夫です、安心してください、不安などいりません。私たちは救われます」
もう貴方にはおわかりでしょうか?
私がいかに心の汚れた人間であるか、貴方の信者には相応しくないのかを。
だから私はもう生きる価値などない人間だということを。
今まで信じていたものに裏切られ、心にずっしりと重りがついてとても辛いです。
先ほども言いましたが生き地獄です。
それならもう、やることは一つしかありません。何もそこまですることないけどこの苦しみは私にしかわからない、私以外は誰もわからない。
ここでこうやって常日頃溜まったモヤモヤを吐き出してスッキリして帰る、その繰り返しは果たして意味があるのだろうか。
貴方には一向に私の声が聞こえない、やはり貴方も嘘っぱちなのか偽物なのか。
ここで胸に溜まったヘドロのような汚い鬱憤を晴らしてスッキリすればそれで良いのだろうと思います。
しかしそれでは解決したことになっていない気がします、一時の解決にはなるでしょうが。
時間が経てば心の奥でまた靄が出て、すぐに私を汚していきます。
聖水を飲んでも飲んでもこの汚れは取れません。
それは私がもう手遅れだからでしょう、汚れすぎて綺麗になれない心と体なのです。
こんな汚れてしまった私だから貴方に対する考えも変わったのでしょうか?
それしか考えられません。最近は人を憎んだり、女性を見るだけでイヤらしい想像をしてしまったり、誹謗中傷を書き込んだり心の中で爆発させています。
ああ、どうすれば良いのでしょうか?
私は汚い人間になってしまいました。臭います、臭いです、まるで汚物です。
胸が痛いです、頭が痛いです、息苦しいです。
こんな思いをするぐらいなら死んだほうがマシです、私は死にます今すぐ死にます、私もゴミでしたゴミはいらないです。
うぎゃああああああああああああ
「どうしました! 苦しいのですか!」
今すぐ死にます今すぐ死にます
「皆様彼を押さえて下さい! このままでは危険です」
離せ離せ私は今から死ぬんだ
「落ち着いて下さい、今お祓いします」
そんなもん何も意味はない神などいない
「心が相当汚れていますね、聖水を頭にかけましょう」
私は騙されていたんだ何が神だそんなもん糞だ
「今すぐあなたを救います、神にもあなたの苦しみが伝わるはずです」
もういい嘘は、嘘だらけだお前もお前らも神も!
世の中も嘘だらけだ、正しい人間が涙して正しくない人間が笑う。
ホントにどうかしている、イカれているよ。
そんな自分もどうかしていてイカれている。
私もヤツらの一員となったわけだ、もう元には戻れない。
だから失う物は何もない、もう何も怖くない。
神や仏がなんだっていうのだ、私は私であり私自信の考えで行動している。
何かに寄りかかるのはもうやめだ、何かを信じるのももうやめだ。
この手を汚して間違ったこの世界を正してやる。
私は近いうちに死ぬんだ、だから何も怖くはない、なんだってできる。
無能な政治家はいらない、嘘つきもいらない、ゴミは燃やしてやる。
死ぬ前にゴミ掃除をしなくてはいけない。
犠牲が出ようとそんな事はどうでもいい、世界が変わるためにはしょうがない。
後戻りはできないのだ、だからもうどんな未来が待っていようと進むしかないのだ。
貴方に今まで頼ってきた自分は幸せ者だっただろう。
貴方に頼らない生き方は幸か不幸か、それは私が決めることだ。
誰にも邪魔はさせない、私の人生は紛れもなく私の物だ。
さあそろそろ行こう、ここは用済みだ。
お前らはいつまでも祈るが良い、そうやって浪費すればいい。
私はお前らが祈っている間に自分の正義を貫いてやるよ。
自分さえ良ければそれで良いんだ、自分を満足させるのが自分にとって一番の正義だ。
(……聞こえますか?)
手足が全く動かない。
私が心の中で考えを巡らせている間に縛り付けやがった。
これではここから出られない、どうすればいいのだ。
私は一刻も早く行動に移さねばならないのだ。
馬鹿を相手にしている時間なんてない。
(いつも声を届けていますね?)
何だこの声は。
神父か、いやヤツは何かブツブツ呟いている。
じゃあ修道士か、いやコイツらは口をぽかんと間抜けに開けてるだけだ。
では一体誰なんだ、この頭に響く声は。
……ひょっとして。
(あなたの声はちゃんと届いています、ワタシはあなたの傍にいつもいます)
まさか、そんなはずはない。
これは何かのトリックだ、そうに違いない。
だってこんな事初めてだ。
本当に存在するのか? この声は貴方の声なのか。
(あなたの声になかなか寄り添えなくてスミマセン)
嘘だ、信じられないこんな事。
誰か嘘だと言ってくれ、誰でもいい言ってくれれば。
そうしなきゃ私はおかしくなってしまう。
ついさっきまで全否定したいのに、心が傾いてきている。
ヤメろ、ヤメてくれ、私は先ほどの無礼を許してもらう術なんて何もない。
(あなたの苦しみは痛いほど伝わっています、こんなにも苦しんでいてあなたは自我を保っていられた)
やめて下さい、貴方に顔を向けられません。
私は貴方を悪と言い放った、何も出来ない自分が正しいと言った。
そんな私は貴方に気にかけてもらえるような人間ではないのです。
だからやめて下さい、これ以上は心が支配されてしまいます。
(それはとても勇敢な戦士といえます。悪しきモノと戦い続けた立派な人間です)
「はい神様」
男は手足を縛られて立ち上がれないため、地面を這って進んだ。
その表情は先ほどまでと違いとても柔らかく、幸せそうである。
(あなたの命はあなただけのものです、しかしその命が消えてしまうとワタシは悲しいです)
「はい神様」
男は多くの信者の注目を集めている、皆怯えているがただ見ている。
神父と修道士は落ち着いているようで、真上で輝いている像へと頭を下げている。
(大切にしましょう、あなたは一人ではなく多くの人々と繋がっています。ワタシとも繋がっています)
「はい神様」
男は顔を上げた、そこにはエ字形の断面を持つ鉛のリムを用いて着色ガラスの小片を結合し、絵や模様を表現したとても綺麗なものがあった。
そこには色とりどりの模様が描かれていて、吸い込まれそうなぐらいに美しく、それが壁一面に並んでいる。
男と女が描かれていたり、子どもやお年寄りが描かれていたり、草木や花や鳥や蝶も。
(あなたに会いにきました、ワタシはここにいます)
「私の心は貴方でいっぱいです」
男は綺麗に光るステンドグラスを見て涙をポロポロ流している。
「会いに来てくださりありがとうございます」
男はステンドグラスを見ながら感謝の言葉を込めた。
「神様」
男は頭をステンドグラスへと伸ばす。
縛られて動かない手足をバタバタさせて必死に伸ばす。
まるでそこに誰かがいるかのように。
今そこに人影が映ったような、そんな気がした。
\(^▽^)/コンバンワ!
最後まで読んでくださりアリガトウございます。
今回はタイトルが先に思いついて、内容はあとで考えたのでむずかったです。書いてたらいつの間にかこういうテーマになってしまってwこういうのはわからないので書いててボツにしようか悩みましたがせっかく書いたし投稿しました。
僕は誰を信じようがその人の勝手と思います、それで救われるなら良いと思います。でもほら選挙になったら票お願いしますって言いに来るじゃないですか、これはちょっとね。
……あんまりこういうの書くとダメですよね?でもしっかり書いてないしセーフだと思いたい。
別にそれを否定してるわけじゃないすが、信じる心とそういうのは全く違うんじゃないかって。
はい、もうこれぐらいにしときます。ステンドグラスは実際に見たことがあんまないので見たいっす!綺麗なんだろうなー、ヨーロッパとかのはとっても綺麗そう。
次回は季節的な物を考えています、また読んで下さると嬉しいです!他のも読んで下さると嬉しいです^^