初めて見た父の顔
「全部っ!知ってるんだろ!!!」
ドアを開ける前に分かった。
一体、そこで何が起こっているのか。
怒鳴り散らす、お父さんの声。
私は勢いよく、ドアを開け、急いでその場へ走ってゆく。
顔を真っ赤にしている父。
震えて小さくなっている母。
守らなきゃ。
お母さんを、守らなきゃ!
私はとっさにそう思った。
向かい合うお父さんとお母さんの間に入りこむ。
分かってる。
分かってるよ。
お父さん。
だけど、まだ信じたくはないの。
ねえ。
嘘なんだと、冗談だと、言って。
私たちが一番大切だって。
「お父さん…何してるの?」
聞くよ。
今から、五年前のことも。
まだ理解出来なかった、私のささいな疑問。
そして、何が起きているか、分かり始めた今の私の疑問も。
でもね、所詮、一番聞きたいのは、あの時も今も変わってない。
お父さん。
どっちを選ぶの?
私たち、家族?
それとも…。
「まみは自分の部屋に行きなさい」
お父さんは冷たくそう言った。
私の部屋の方向をちらりと見る。
妹二人の影が見えた。
きっと怯えている。
私だって怖いんだ。
お父さんは普段怒鳴ったりしない。
だからこそ迫力がある。
その上、そんなにムキになることなの?
そんなに冷静を失ったお父さん、見たことがないよ。




