名言キタ
「そっか、ならよかったわ」
何がよかったのかよく分からないけど、よかったならよかった。
意外と冷静に話を聞けていた。
なぜだろう。
最初にド肝を抜かれたからどうでもよくなったのかもしれない。
なんだろう。
敵わない気がしたんだ。
この人と張り合ってもきっと相手が上手だから言いくるめられるだけだと思った。
だから私は下手に出ることに決めた。
「あのー…この携帯は…」
「その携帯はね、私がけんちゃんに買ってあげたのっ」
文末に音符マークとハートマークが見えた気がした。
まるでキャバ嬢に携帯買ってあげたおっさんのようなはしゃぎようだ。
自慢げに語れることではないだろう。
しかも、けんちゃんってこの場でも呼ぶのかい。
「そうだったんすか、うちのけんちゃんにどうもありがとうございます」
と答えた。
こう答えるしかないだろうよ。
「ふふふ、あゆちゃん面白いね」
笑ってるし。
この女。
すごい余裕だな、おい。
「えーと、この携帯なんですが、どうしましょう?けんちゃんに返したほうがいいですか?もう電池も切れるし使いようがないんすよね」
「……。あゆちゃんはどうしたい?」
質問返し。
いい度胸ですね。
「いや、それ、私に聞きます?」
「そうだよねー」
だよねーって、君。
女子高生じゃないんだから。
「…とにかく、もうそろそろ帰らないとなんで、電話切ります。最後に一言だけ言いますね」
「なあに?」
子供に話しかける口調。
こいつ、喧嘩売ってんのか。
イライラしながらも、私は言った。
「もう、別れてくれますかね?もういいでしょ」
「え?」
「え、じゃないでしょ。お父さん、返せって言ってるの」
「それは…できないなあ」
「できないじゃなくて、するんです。もう何年なの?私が小学五年生ん時にはもう付き合ってたでしょ?てことは…一番短くとっても五年は付き合ってるよね?あなたまだ若いんだから、他に相手いるでしょ」
今思えば、中学生が大人相手に「まだ若いんだから」ってギャグだと思う。
だけど、この言葉しか浮かばなかった。
なんでもいいから説得したかった。
まあ、そんなのは通用するわけがない。
案の定、めぐみは反論してきた。
「私は…けんちゃんを愛しているの」
アイシテル。
そんなん娘の私に告白してどうすんの。
「私、本気よ」
「はぁ…そうすか」
って、説得するつもりが説得されてるじゃん。
次の言葉は忘れられない。
名言だと思う。
「私はね、あゆちゃんのお母さんになりたいの、温かい家庭を作るために、努力するわ」
言うまでもない。
さすがに吹いた。
爆笑してしまったよ。




