電話
電源を立ち上げると、電池の残量はあと一つしか残っていなかった。
当然だ。
電源をオフにしていなかったとは言え、もう三日以上充電していないのである。
本当はこの時メールを見ようと思っていたけれど、それはこの電池残量だとできないと諦めた。
着信履歴を見る。
登録されていない番号のみの着信。
でも一つの番号しか履歴にはなかった。
きっとあの人だ。
その番号に対し、通話ボタンを押した。
数コール。
たった数コールに何度切ろうと思っただろう。
もう戻れない。
私は、知らないフリをやめる。
同時に、壊す。
この電話が、いろんな物を壊す。
分かっていた。
でも、そんなのは分かっていたつもりだった。
この後何年も後悔することになるなんて、この時の私は想像できなかった。
「……ピ」
コール音が止んだ。
「もしもし」
あの女の声が聞こえる。
「……」
私は、ここ三日で用意していた言葉を並べようとした。
その時だった。
「あゆちゃんでしょう?」
「!!!」
なんで?
なんで私って分かったの?
私は思わず、答えてしまった。
「…お久しぶりです」
「久しぶりだね、元気?」
いやいやいや。
あなたのおかげで元気じゃないですけど。




