何れ壊れる
中学生になりたての出来事。
塾で必要だったのだが、まだ私用の漢文の辞書を持っていなかった。
そこで、お母さんがなぜか漢文の辞書を持っていたので、借りることに。
お母さんはにこにこ嬉しそうに古びた辞書を私に手渡した。
「あの頃はまさか自分の娘がこの辞書を使うなんて思わなかったわ」
そう言っていたのを思い出す。
漢語辞書をパラパラめくる。
意味が分からない自体が多数並んでいた。
興味もなかったので、閉じようとした。
しかし、あるページで手が止まった。
「何れ」の文字。
いず‐れ〔いづ‐〕何れ
1 いろいろな過程を経たうえでの結果をいう。いずれにしても。結局。「その場はごまかせても―ばれるに決まっている」
2 あまり遠くない将来をいう。そのうちに。近々。「―改めて伺います」
その文字が蛍光ペンでチェックしてあったのだ。
しかも、それだけではない。
メモが入っていた。
何これ?
私は少し恐怖を感じたが、恐る恐るメモを開いた。
そこにはただ一言。
「何れ壊れる」
イズレコワレル?
つまり、あまり遠くない未来に壊れるってこと?
何が?
私は見てはいけないものを見たような気がして、そのページにメモを元通り挟み、辞書を閉じた。




