狂っていく
時は流れた。
中学三年生。
部活も引退し、受験シーズンに突入した。
幸運にも、塾に通わせてもらっていた。
塾講師に恵まれたこともあり、地域で一番と言われている進学校も模試でいい判定だった。
お父さんもお母さんも嬉しそうだった。
一番仲良くしていた友達も、同じ高校を目指すとのこと。
モチベーションも上がり、すべてがうまくいっていた。
ように思えた。
一月。
受験も目前。
誰もが勉強モード。
私は今だから言えるけど、割と余裕があった。
と、いうのは、信頼できる塾講師が『この調子で勉強していたら、大丈夫』と言ってくれたおかげでそう思えた。
もちろん、自分自身はそれほど自信があったわけではない。
その言葉だけを信じてマイペースに焦らず勉強に取り組んでいた。
そんな日々を送っている中での悪夢の始まり。
いつもと同じ朝。
少しだけ英単語の復習をした後、お母さんが用意してくれた朝ごはんを食べる。
食べ終わったら歯磨きをして顔を洗い、軽く化粧する。
髪の毛にアイロンを当てて、結ぶ。
それから制服に着替える。
あとは毎日一緒に学校に行く友達が迎えにくるのを待つだけ。
まだ時間がある。
トイレに入った。
トイレの中には歴史の年表を置いている。
自分なりにクイズを出して答えた。
…当たり。
大丈夫、大丈夫。
二問目外したら自信を失くすからやめよう。
そう思い、トイレから出ようとした。
その時、どこからか音がした。
ブブブブブ。
え?
何?この音。
ブブブブブ、ブブブブブ。
バイブ音だ。
PHSの音。
そう思った。
私、こんなところに置いたっけ?
まさか、お父さんの?
いや、確かお父さんはいつも定位置に置いているはず。
ブブブブブ。
まだ鳴り止まない。
どうやら頭上からのようだ。
便座に足をかけて、上った。
揺れている、その物体は、初めて見るものだった。
PHSではない。
携帯電話だ。
サブ画面に、名前が映し出されている。
見なくても分かっていた。
だけど、確認した。
違うかもしれない。
違うと思いたい。
携帯電話を手に取る。
震えた手。
いや、バイブで揺れているんだよね?
落ち着け…。
自分で言い聞かせながら、じっとそれを見る。
サブ画面にはあの女の名前だ。
『めぐみ』
あぁ。
やはり、終わっていなかった。
私は携帯電話を開き、電源を落とした。
バイブは止んだ。
そして、優しく携帯電話を閉じた。
制服のポケットに無造作に放り込む。
トイレから出たところで、ちょうどお母さんが私にこう言ってきた。
「まだお迎えこないのね、今日、遅いんじゃない?」
そう言えば、既にいつもの時間になっていた。
そこで、チャイムがなった。
ピンポーン。
「あ、はーい!じゃ、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい」
お母さんは微笑む。
「行ってらっしゃい」
部屋の奥からお父さんの声がした。
でも、私は返事はせずに出て行った。
外に出ると空気はひんやりして、肌に突き刺さるようだった。




