涙
早く、早く。
はやく!!!
言い訳しなさいよ。
家族が一番だからって。
遊びだからって。
あの女を、早く切り捨てなさいよ!
戻ってきて。
家族に、戻ってきて…。
「……」
「おい、なんとか言えよ…」
「…まみ……」
「黙ってないで!なんとか言えよっ!!!」
「うっう…う…」
私が叫ぶ声。
母が泣く声。
そして、父の息遣い。
ここにはそれしかない。
可能性は低い。
分かっていた。
ランドセルを背負っていた私。
中学校の制服を着ている私。
もうすぐ、新しく高校の制服を着るんだ。
その間、ずっと、二人は、いたんだ。
「まみ…」
父は背中を丸めた。
そして、額を床にぴったりとつけた。
「すまない…」
「お父さん…」
「ごめんな、ごめんな…」
「う…うわああああああ」
私の全身の血が、頭に集中していく。
こめかみがどくどくと脈打つ。
痛いくらいに。
これは、現実。
すべて現実。
「シネ!!!」
私は、携帯電話を、思い切り父に投げつけた。
裏切られた。
裏切られたんだ。
言い訳もしない。
別れるとも言ってくれない。
父が、家族より「めぐみ」を選んだ。
その瞬間だった。
「まみちゃん…!」
その時。
腰辺りにがしっと、重みが生じた。
母だ。
しっかりと私の腰を抱いている。
「まみちゃん…!まみちゃん、ごめんね、ごめんね…っ」
泣きながら、私に謝る母。
私は、表情を作ることもできなかった。
ただただ、涙を流した。
立っていられなくなり、床にへたり込む。
母が私をすっぽり抱きしめてくれた。
震える小さな体。
こんな小さかったっけ?
いつの間にか、母の身長を追い越した私の体。
だけど、無力だ。
何も出来ず、結局母を、家族を苦しめているだけの私。
悔しくて涙が止まらなかった。
ぼやけた視界には、ゆらゆらと父が土下座をしている姿がうっすらと見えた。
父も声を押し殺し、泣いている。
本当に、すべて壊してしまった。
すべて。




