色んな意味で壊れかけ
「…バカにしてんのか、すべて知っている癖に。もう。いい」
父はそう、ぽつりと呟く。
そして、書斎に行き、荷物をまとめだした。
おお、おお。
どうするつもりだ?
この人。
逃げるつもり?
「けんちゃん…?何してるの?」
母はまだ、全く状況を理解していないようだ。
私は、母もめぐみとの関係を気づいているとばかり思っていたから、これには多少驚いた。
本当に知らなかったのだろうか?
「出てくっ!」
父は叫んだ。
その言葉に堪えきれず、私はとうとう吹き出してしまった。
「ぷっ…」
あまりに滑稽すぎる父の姿に、笑いが止まらない。
「くくくくく…」
「「え???」」
私が笑い出したことに、その場にいた全員が、驚いていた。
そして、ずっと笑いが止まらない私を傍観していた。
「まみちゃん…どうしたの?おかしくなっちゃったの…?」
母がそう言った。
あ、ひどいなー。
今日二回目だよ。
さすがに傷つきます。
まぁ、おかしくなってるのかもね。
おかしい人たちがいっぱい過ぎて。
伝染しちゃったのかもな。
「ねぇ、お父さん」
「え…」
私は真っ直ぐ父を見据え、にっこり笑う。
そして、制服のスカートのポケットから、あるものを取り出す。
その様子を見ていた父の赤い顔は、一気に青くなっていった。
「あなたの探しものはこれですか?」
そう。
めぐみがけんちゃんに買ってあげた、携帯電話ですよね。
これですよね。
あなたはこれがお母さんに見られたと思って、逆切れってヤツをしてたんだよね?
ざんねーん。
隠してたのはまだまだいたいけな中学三年生の私でしたー。
「おい」
「まままま…まみー!」
ちょ。
マミーって。
あたいはあんたのママじゃないって。
「お前、ふざけんなよ、何逃げようとしてんだよ」
「なぜ、それ…まみが…」
父はガタガタと震えだした。
あー。
怖いんだね。
そうだよね。
私はファザコンで有名だもんね。
尊敬して愛して止まない父に今「お前」呼ばわりしてるんだもんね。
急に失うのが怖くなったのかな?
僕ちゃん。
「本当…お前、最低だよ。PHSのメール見た時にバレバレだっつの。あの時やめておけば、忘れたフリして流してやってたってーのに…」
なんだか江戸っこな口調。
本当はヤンキー口調だったんだろうけど、もう昔のことだしこの時必死過ぎたから、口調は多めに見て頂きたい。
「それで?お母さんに何逆切れしてんのっ?てめーがたいたまねでしょうがっ!」
あ。
間違ってる、間違ってる。
炊いたマネーってなんやねん。
蒔いた種でしょうが、まみよ。
興奮しすぎて、かなり私はめちゃくちゃなことを言った気がする。
だけど、両親はそれぞれショック過ぎたのか、一切ツッコミを入れず、黙っていた。
「ねぇ!なんとか言えばぁ?めぐみとさっき話したよ!あの女『私、まみちゃんのままんになりたいのっ』ってバカ代表な発言してたから笑っちゃったよ!それとも、お父さんは、そんなファンキードリームを共に語ったのかな~!?」
それでも黙る父。
なので、間髪入れずに喋る喋る、私。
「謝れよ!お母さんに謝れ!!」
最後らへんは泣いていた私。




