壊れた置時計
「おい、何とか言ったらどうなんだ」
私に向かって、お父さんはまた荒げた言葉を吐く。
しかし、お父さんの目に映っているのは私じゃない。
私の存在など、見えなくなっている。
私の後ろにいるお母さんに問いかけている。
「私は…本当に、何も…」
「嘘をつくな!じゃあ、どうして…!!」
どうして携帯が消えた?
そう言いたいの?
「何が?何が?私、本当に知らな…!」
母が泣き出しそうな声で必死に父に訴えている。
その時。
私の中で、切れたんだ。
プツリと。
我慢していたものが、すべて。
「がしゃん!がしゃんっ!」
呆然としている私の目の前の父は、近くにあったテーブルに置いていたものを、床に散らした。
あー。
本当。
全部お前が悪いんだろ?
信じられない。
ものに当たるなんて。
たぶん、この瞬間に父への愛情は消えうせたんだと思う。
希望も、粉々になっていた。
床に散らばった、写真立てや、テレビのリモコンや、新聞たち。
壊れた置時計。
ガラスの部分が割れているのが目に入った。
だけど、時間は止まっていない。
壊れたのに動いている。
時間は、確実に刻んでいる。
なんだか…。
私たち、家族みたいだ。
そう思った。




